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中池見湿地の現況と課題

NPO法人ウエットランド中池見理事長 笹木智惠子

 中池見湿地は、福井県敦賀市にある周囲を三つの低山に囲まれた小さな盆地状の湿地です。かつては全域(25ha)で耕作が行われていましたが、1990 年代に浮上した開発計画によって大半が買収され、その後、計画中止に伴って敦賀市に寄付されました。
 現在は一見、ヨシ原にしか見えませんが、その地下には約40 メートルの有機質(泥炭)の堆積があり、13 万年分の気候変動が読み取れる試料が含まれているとして、世界的にも注目を集めています。また、地理学的にも、典型的な袋状埋積谷として知られています。

中池見の市民管理を目指して
新しくNPO中池見ねっとを設立

 敦賀市が事業者から開発計画で買収した中池見周辺と造成施設の寄付を受けてから今春で6年目。今まで市は民間会社に中池見の管理を委託、業者により造成施設を中心とした管理が行われてきましたが、今年4月から全域保全を目指しての市民管理となりました。
 その受け皿として、中池見の保全に係わってきた、かつての地元地権者で組織する会と委託管理を行ってきた会社の社員、それに私たちNPOから4 名が個人的立場で参画ということで一昨年、新たに「NPO中池見ねっと」を立ち上げました。三者それぞれから代表として1名を出し、3 人による共同代表制で運営されています。
 いずれは指定管理者制度に基づく委託となると思われますが、今年度は市から新NPOへの委託という形で運営・管理がスタートしたところです。
 従来は、「中池見 人と自然のふれあいの里」として造成されたエリアを中心に保全・管理が行われてきましたが、今年度からは全域保全を視野に活動を行うことにしています。敦賀市は中池見を「観察エリア」「湿地エリア」「里山エリア」と3分割管理としていますが、私たちは、「観察エリア」は博物館での展示コート(一般公開)、湿地・里山エリアは、バックヤード(資料収蔵・研究場所)ととらえた保全・利活用をしたいと考えています。

日本ユネスコの未来遺産へ登録された

 NPOウエットランド中池見の活動が
 日本ユネスコの「未来遺産」に登録される

 日本ユネスコ協会連盟が2009 年4月、長い歴史と伝統のもとで豊かに培われてきた地域の文化・自然遺産を100 年後の子どもたちに伝えることを目的に始めた国民的運動「未来遺産運動」。
 その一環として、地域の文化・自然遺産を未来に伝える市民団体の活動を「プロジェクト未来遺産」に認定・登録し、支援するとして、昨年第1回の全国募集が行われました。2009 年度〜 2011 年度の重点テーマは、「危機にある遺産」と「生物多様性」。
 私たちが長年取り組んできた中池見の保全・継承活動を評価した福井ユネスコ協会の推薦を受け、プロジェクト「いきもの不思議の国・中池見湿地」として応募。全国から集まった50 のプロジェクトを各界の著名人で組織の未来遺産委員会が書類選考、一部現地審査を行って、昨年12 月に10 プロジェクトが発表されました。
 中池見は生物多様性の分野で10 プロジェクトの中に選定され、3月22 日、東京国立博物館での未来遺産運動記念式典で登録証・活動支援金の授与がありました。また、同日行われたプロジェクト紹介のプレゼンテーションが審査され、緊急性のあるプロジェクトとして特別応援金も受けることができました。

ラムサール登録を目指しての動き

 ユネスコの登録を受けて、敦賀市長に登録証受領を報告。以前から中池見のラムサール登録を目指したいとの意向を示している市長も「ラムサール登録への追い風になれば」と祝意と期待を表し、応援するとの言葉もいただきました。
 一方、法的網掛けの点から福井県は昨年9月議会に国定公園への編入に向けての調査費を補正予算で計上、調査が行われてきました。現在そのまとめが行われているとのことで、近々その結果報告が出されると思います。もし、国定公園編入が実現すれば、環境省のいう3つの要件を満たすことになり、登録への支障はすべてクリアしたことになります。いい結果の待たれるところです。

沈下が止められない国道8 号バイパス

危惧される国道バイパス沈下改修計画

 問題は、国道8号バイパスの沈下個所の改修計画です。中池湿地西側の天筒山裾に敷設された国道8号敦賀バイパス。中池見の保全活動を開始した1990 年にはすでに計画が進行、測量も終わり、着工準備が始まっており、工事経過を注視するしかありませんでした。
 現在、いちばん問題となっているのは、市街地から中池見側へ抜ける樫曲トンネル北側出口付近約90 メートル。当初、盛り土でしたが、冬の間に1メートルも沈下、消失し、コンクリート構造物だけが残るという事態となり、当時の建設省は急遽、軟弱地盤対応の新工法なるものに変更。93 年に発砲スチロールブロツクを積み重ねて軽く仕上げるEPS工法でやり直しました。
 費用は盛り土の約100 倍、1 億5 千万円の無駄使いとなりました。中池見の地形を軽視しての敷設は96 年春の供用開始後も尾を引き、対策の効果もなく、すぐに路面沈下が起こり、その後も毎年、1、2 回は路面アスファルトの積み増し補修をしなければならない状況が続き、頑強なガードレールすら波打ち、縦変形しています。このようなことから2008 年秋、またしても新工法・エポコラム工法(ドリルで直径1.6m の穴を356 本、地盤まであけ、凝固剤入りのコンクリートを流し込み固め、その上に路盤を敷設する)なるものでの地盤補強策を提示してきました。私たちは、水が命の中池見には相応しくない工法で、地下構造からみても、ここは橋梁化すべきだと提案しています。
 国交省は、これを受けて09 年秋から中池見の4カ所に調査孔を打ち、水環境のモニタリングを行っています。あくまでもエポコラム工法にこだわっているようですが、中池見において、今度は失敗だったでは済まない工法なので、橋梁化を求めていきたいと考えています。

危惧される国道バイパス沈下改修計画

保全に向けての課題山積の中池見

 中池見の保全・管理が私たち市民の手にゆだねられましたが、まだまだ課題が多く、国道バイパスの改修計画のほか、同バイパスの路面排水全部が湿地に垂れ流し状態になっている側溝構造など水環境に関する問題が一番大きく、さらに追い打ちをかける獣害による破壊の数々。
 これらの対策に対する支援どころか、経費削減ばかりを計る行政側。地方における市民の自然環境保全へのボランティア精神の希薄さなど、未来へ継承していくためには、まだまだ啓発活動が必要な中池見です。


(JAWAN通信 No.97 2010年7月10日発行から転載)

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