第10 回生物多様性条約締約国会議に参加して
10 月18 日、まだ夏のように暑い日、第10 回生物多様性条約締約国会議(CBDCOP10)が、名古屋で始まりました。
ID バッジ発行とセキュリティー・チェック後、オープニング・セレモニーが開かれているメイン会議場に向かいましたが、満員状態で入れず、会議場の外の広場にあるスクリーンを見ながらのセレモニー参加となりました。
スクリーンには、国連副事務局長のアシム・シュタイナー氏が映し出されていました。ラムサール条約第10 回締約国会議に参加した時のシュタイナー氏のスピーチはとてもポジティブで、どちらかと言うと楽観的でしたが、今回の名古屋会議では、難題が詰まっているせいか、ポジティブな姿勢の中に厳しい面ものぞかせるスピーチでした。
その中で、「政府になぜこれをやらなかったのかと責めるよりも、やったことを褒めてやることの方が、効果的だ」というコメントに心が留まりました。毎日、様ざまな立場や環境の違う人びととの交渉の中で、日日、苛立ちと疑問にぶつかっている方の率直な意見だからです。
メイン会場は、名古屋国際会議場で、本会議やCBD 関連の団体によるサイドイベント、各ミーティングや作業が行われていて、随時新しい進行状況などが発信されています。そして、200 を超すCBD 関連の政府機関やNGO団体などによる展示会場がある白鳥公園と、橋でつながる熱田神宮公園へと続きます。白鳥公園の先の名古屋学院大学でもサイドイベントなどが、行われました。
初日は、サイドイベント「生物多様性条約遂行のためのラムサール条約の役割」に参加しました。 最初に、日本航空宇宙開発機構(JAXA)との提携承認式が行われました。JAXA との提携で、世界のラムサール登録湿地を宇宙から撮影する事によって、湿地の状態や変化を観測して行こうというものです。ラムサール条約局のニック・デイビットソン博士による進行の下、谷博之参議院議員やJAXAの立川教授、CBD 環境問題事務長のデビット・コーツ氏、環境省の中山直樹氏がスピーチを行いました。
参加者から警告として、「実際に湿地の状況を理解するには、周辺に暮らす人びとの状況やそこで何が起こっているのかを詳細に理解していかなければ、本当の保全にはならない」との意見が聞かれました。
また、両ラムサール条約とCBD 局側から、関係改善の指摘が出されました。CBD に湿地の保全をより重要視してもらうには、「水」を地球資源と考える事によって、「もし湿地が保全されなければ、CBD にとって、湿地の生物多様性と水資源問題に何が起こるか?」に焦点を当てる事により、名古屋で関係をより強めていくことに対する自信がうかがえました。
その後、来年40 周年を迎えるラムサール条約の歴史を簡単に振り返り、最後に環境省の松本龍大臣が、忙しいスケジュールの中を縫って姿を現し、「自然の恵みによって人は生かされているという事を理解し、自然の恵みを子どもたちに伝えていく事が、私たちの使命だ」と述べられました。
オープニング・セレモニーでシュワルツ氏が言った、リオ会議での世界に向けての少女のスピーチを思い出しました。「If you don'tmend it,Don't break it!(一度破壊された自然をもとに戻すことはできません。それができないのなら、壊さないで!)」
その後、夕方のオープニング・レセプションに参加してホテルに戻りました。
2日目19 日は8時から世界NGO ミーティングに参加しました。これは、27 日から29日にかけての閣僚級会議の間に、発表される世界NGO 宣言に向けて、各部門での進行状況と問題点を報告し合う会議です。毎日、CBD アライアンスから「エコ紙」が発刊され、CBD-COP10 の情報や世界のNGO からのメッセージが載せられます。
今回の特質は、今まで資源の開発・乱用のために犠牲となって来た自然共存型の伝統的生活を続ける先住民族の権利と、彼らの所有権保護を含む'Access and benefitsharing'(ABS) ―「利用と利益の配分問題」、海洋生物多様性の回復改善のための海洋保護区の拡大 ― 乱獲とハイテク大型漁船による魚猟海域の拡大で、魚資源の減少は危機的で、海洋保護区の拡大は、必要不可欠です。
2020 年までに少なくとも20%を保護区とし、将来的には、海洋全体の40%を保護区とすることを求めています。
そして、2010 年までの戦略の失敗を繰り返してはならないという強い意志の下、各政府・産業界が協力して生物多様性喪失を止める事です。
その日、JAWAN の展示ブースにはたくさんの名古屋の小学生たちが訪れました。子どもたちにとって、自然や生物多様性の重要性を理解するのは、大人よりも簡単です。すべての子どもたちが真剣なまなざしで、湿地の大切さに聞き入ってくれました。
そして、昼のサイドイベントでは、日本の環境省と国連大学が協賛する「里山イニシアティブの設立」を傍聴しました。日本の里山で自然共存型の機能的役割の重要性を国際的に広げて行こうというものです。51 の団体が、パートナーシップを結びました。
代表として、愛知県知事がスピーチを述べましたが、愛知の里山を買収して大規模なTOYOTA のテストコース造成計画という自然破壊的行為と相反していて、昨夕のオープニング・レセプションで名古屋市長が言っていた、「名古屋市民は、お祭り好き」という表現に、これもお祭り騒ぎ的感覚なのかなと何とも複雑な気持ちでした。
私にとってのCOP10 最終日20 日は、昼のサイドイベント「ポスト2010 年目標達成に向けて」の参加で終了しました。国連大学のアンソニー・グロス教授、経団連の石原博氏や環境省の中島尚子氏など8人の代表者がパネリストとして目標達成のための提案を、スクリーン・パネルを用いながら発表しました。
中でも国際自然保護連合(IUCN)のジェーン・スマート博士の厳しい真剣な提案が、最も心に響きました。言語や国民性の違いもあるのですが、本会議での各国の温度差はいつも指摘される事です。
スマート博士は、2010 年までの目標が達成されなかった事を踏まえて、政府や企業が生物多様性喪失を防ぐために、社会全体の仕組みを変えていかない限り、'There is noSATOYAMA!' 里山は、存在し得ない! と、厳しい口調で言い放ちました。
日本経団連の積極的CBD への参加ということで、内容的には平板でしたが、前で述べたように、これを前進だと快く受け止める事がより有効でしょう。
開場前に車いすでこの会議を見に来られた辻淳夫氏にごあいさつ出来て、一緒に傍聴させていただいた事を光栄に思います。
壇上から「生物多様性を守り、維持可能な社会を作って行く事は、未来の子どもたちのために今やらなければならない事だ」と何度耳にしたでしょう。しかしいったい誰が、その意味を理解し、実行することを心に誓っているのかは、疑問です。
ただ、展示ブースや各会場でたくさんの大学生の方がたが楽しそうに活動していたのが印象的だったのと、この機会を少しでも分かち合った一人一人が、何か自分たちができる事を実践していく事を望むばかりです。
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