蒲生干潟の現状
〜 干潟生態系、徐々に復元 〜
はじめに
このたびの東日本大震災によって数多くの方がお亡くなりになり、未だに行方不明の方や避難されている方もたくさんいらっしゃいます。心よりお悔やみとお見舞いを申し上げるとともに、1 日も早い復旧と復興を祈ります。
また、震災後、蒲生を守る会に対しても、全国の様々な団体や個人の皆さまから多くの励ましやお見舞いをいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。
蒲生干潟を含む蒲生海岸は、大津波の直撃を受けて大きく姿が変わり、生態系を構成する多くの動植物が消えてしまいました。当初、地元新聞の一面記事に「蒲生干潟は復元不能」とまで書かれ(宮城県自然保護課への取材)、絶望的なイメージが広まっていきました。
しかし、私たちが実際に調査したところ、甚大な被害を受けてはいたものの、海岸を訪れるたびに、確認した生物種は増加し、干潟周囲の地形も徐々に元の姿へと復元していく様子を目にすることができたのです。詳しくは、「蒲生を守る会だよりNo.63 緊急号」(2011 6.15 発行)をご覧下さい。本稿は、その緊急号に掲載した私の文を書き直し、その後のマスコミの報道と私たちの調査結果などを付け加えたものです。「蒲生干潟の現状」を皆さまにお伝えできれば幸いです。
1.3 月27 日のレポート
震災後、初めて蒲生海岸を訪れました。自宅から古びた自転車を引っ張り出し、七北田川沿いの自転車道に入り、東へとひたすらペダルをこぎました。河原や川の中に津波で流された自動車や家屋の姿が徐々に目に入ってきます。やがて道路がふさがれ、通行不可。進路を変更し、川を横断していよいよ蒲生が近づいてきました。河口近くのコミュニティーセンターや小学校もひどい状態。周辺の家々は殆ど全壊か、基礎しか残っていない惨状で、周囲には、がれきの山。あの蒲生の町並みは消失していました。様々な思いが混ざり合い、これ以上とてもコメントできません。あとは干潟や海岸の状況のみ報告いたします。
写真やビデオで風景を記録しながら、周囲を観察しました。やはり日和山は消えていました。旧乗馬場の建物もコンクリート基礎だけ残っている状態。鉄筋コンクリート二階建ての建物は周囲に見あたりません。旧乗馬場の前に青々と広がっていた松林も数本の松の木を残して消失し、えぐられた所に海水がたまっています。さらに近づくと、うわさ通り、乗馬場のあった埋め立て地には産業廃棄物が大量に埋められており、所々むき出しになっていました。
日和山から松林にかけての防潮堤は案外形を保っておりましたが、北側の養魚場に向かう方はかなり損傷していました。干潟北側の松林もほぼ消失。北側奥の海岸は大きく削られ、おそらく海水が淡水池の方まで流れ込み、海と池がつながっているのではないかと思われました。淡水池東側土手の竹林は残っており、周囲の松の木も数本以上あるようでした。
河口はこれまで見た中で最も大きく広がり、まっすぐになっており、河口から港の方まで伸びていた海岸線も数ヶ所、切れて海水が干潟側に入り込んでいました。干潟は海岸から押し寄せてきた大量の砂で埋まり、ほぼ平ら。私が観察したお昼頃は徐々に干潮に向かう時刻なので、満潮時にはどれだけの面積が冠水するのか、予想することはできませんでした。青々と干潟周囲を彩っていたアシ原も完全に砂に埋まり、底生動物が生きている気配はありません。ヒバリのさえずり、キアシシギの声は聞こえてきます。あとウミネコ数羽位。
今回は北側からの観察はできなかったので、干潟の全景や奥や養魚場の様子は分かりませんでした。それは次回の課題にして、帰路につきました。北西の向かい風が強く吹く中、疲労困憊、何とか自宅にたどりついたのでした。
2.その後の状況〜新聞・TV 報道の推移
4/1 河北新報 「野鳥の楽園、見る影なく一帯に砂、復元不能か 蒲生干潟」
4/2 河北新報 「 蒲生干潟[ 回復困難] 津波被害[ 貞観] と同規模」
6/27 毎日新聞 「東日本大震災:仙台の蒲生干潟、帰ってきた貝やカニ」
8/3 NHK 全国ニュース・おはよう日本 「津波被害の干潟 再生の兆し」
8/16 河北新報 「蒲生干潟復活の息吹 津波で壊滅、希少動植物確認 仙台」
私たちは5/15 より月1回の鳥類生息調査を再開し、海岸を一周して、鳥類だけでなく底生動物や海浜植物、そして地形変化などを記録する調査を、現在(8月)まで4 回行ってきました。改めて被害の甚大さを痛感すると同時に、干潟生態系の復元力の強さを実感し、毎回感動しています。そう、「干潟は死んでいなかった」のです。
シギ・チドリの餌である底生動物についていえば、個体数は激減したものの、カニ類6種(アシハラガニ、クロベンケイガニ、コメツキガニ、チゴガニ、ヤマトオサガニ、アリアケモドキ)、ゴカイ類3種(カワゴカイの仲間、ミズヒキゴカイ、タマシキゴカイ(巣穴))、貝類3種(イソシジミ、アサリ、フトヘナタリ)などを確認することができました。海浜植物も大打撃を受けましたが、ハマナス、ハマニンニク、ハマヒルガオなどが少しずつ葉や茎を伸ばし始め、環境省レッドデータブックの希少種「ハママツナ」1株を発見することもできました。
3.これからも蒲生干潟と共に
取りあえず、今はひたすら、生物や環境のデータを記録していきます。定期的な調査を継続していきます。人々の住む町の復興と並行して、私たちをやさしく包んでくれる海岸の自然環境の復元を訴えていきます。人と自然との共存の必要性を、今改めて強く感じています。
周囲が緑に覆われ、泥の中にたくさんの小さな生き物たちが息づき、北へあるいは南へ向かう水鳥たちが数多く立ち寄る場所、蒲生干潟。その重要性を訴え続けていかなければ、瀕死の重傷を負った干潟は見捨てられ、その復元力が押しつぶされてしまうでしょう。気がついたときには、干潟、アシ原、松林は、山積みの瓦礫に埋もれ、単なる無機質の砂場と化してしまう恐れがあります。
私たちがこの目で確認してきたように、そして新聞やTV でも報道されているように、干潟や海岸の自然は確実に復元しつつあります。私たちはこれからも活動を続けていきますので、変わらぬご支援をお願いいたします。
なお、冒頭にあげた「蒲生を守る会No.63緊急号」(2011 6.15 発行)をご希望の方は下記まで、ご連絡下さい。必要な冊数を送付いたします。
〒980-0874 仙台市青葉区角五郎2-4-6木村フジ方 蒲生を守る会
TEL&FAX 022-223-5025
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