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大分県佐伯市大入島埋め立て反対訴訟 住民側の請求棄却

松本宣崇 (環瀬戸内海会議事務局長)

 97 年、大分県佐伯市大入島(おおにゅうじま)に佐伯港湾整備(12 万トンバース建設)に伴うしゅんせつ土砂で海面6.1ha を埋め立て、宅地と緑地を造成する「廃棄物埋立護岸事業」(1993 年、大分県が計画)なる計画が国の補助事業として採択された。埋立て地は地元自治会が長年管理し、アワビ・サザエやヒジキなどの採取を入札してきた、いわば「海の入会地」。しかし計画は地元住民には寝耳に水の話であった。以来、住民は地域ぐるみで反対運動を続けてきた。県は03 年と05 年に着工を強行したが、住民の体を張っての抗議・実力阻止行動で着工を断念、その後着工していない。そして事業計画に伴う公有水面埋め立て免許取消請求訴訟や、大分県漁協佐伯支部の埋め立て同意決議無効確認訴訟を闘ってきた。いずれも最高裁まで争ったが、門前払いとなっていた。
 そこでは、事業の起業者の長も、埋め立て免許権限者も同じ県知事という法律上の不合理性も、1 県1 漁協に合併された大分県漁協では支部決議をもって一分会の意志を切り捨てる不合理性も法廷では無視された。さらに2008 年4 月、当該事業への公金支出差し止めを求める住民監査請求が却下されたのを受け、住民訴訟を提訴した。原告住民側は、「事業に経済的合理性がないこと」「09年の県の代替案では埋め立て土砂量など大幅な変更は埋め立て免許変更許可が必要であり、かつ変更後の経済的合理性の検討が必要」として、公金支出は違法と訴えてきた。昨年、住民側証人として出廷した大分大学経済学部の合田公計教授は「県は埋め立て以外は高くつくと試算しているが、実際は埋立ての方が高く、代替案も処分単価を高く見積もるトリックを使っている」と証言した。対する県側の反対尋問は、反論すら全くできないものであった。
 2011 年8 月8 日、大分地裁で判決言い渡しがあり、傍聴に駆け付けた。ところが、判決理由は驚くべきものであった。「採算割れの事業でも必要性の判断や評価は、県知事の裁量権の範囲内にある政策判断に過ぎない」と、経済的合理性、費用対効果を事業の可否の判断基準から排除した。そして「埋め立てる土砂の発生場所や量が変更になったとしても埋め立て免許の変更許可を受ける必要ない」とした。
 自公政権にあっても無駄な公共事業の廃止が表明され、「費用対効果1.2以上が望ましい」と国会答弁されていた。にもかかわらず、「不採算の事業でも違法とは言えない」とは時代に逆行する判決であった。
 判決後の報告集会で、住民側弁護団長は「想像を絶するデタラメな判決。こんなひどい判決を確定させてはいけない。採算割れでも行政がやりたいと思えば認め、税金の無駄遣いをなくすという国の姿勢すら無視している」と厳しく批判した。そして「同じ司法の場に身を置くものとして非常に恥ずかしい判決」とまで断じた。

2011.8.8 目の前の海が埋め立て計画地
(JAWAN通信 No.100 2011年9月30日発行から転載)

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