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開門で全てを明らかに

〜 諫早湾の夜明けは近い〜

大島弘三 (諫早湾しおまねきの会)

1. 諫早湾の今とこれから

 衝撃のギロチンが、諫早湾に落とされて15年が経過した。
 干拓地での営農は始まったが、一方で有明海の水産業は今壊滅への道をたどりつつある。
 計画の当初から懸念していた自然破壊のツケが今、現実となって地域経済の破たんを招き、そこに住む人たちを苦しめる結果となった。海を奪われたのは漁師達だけでは無い。海の恵みは地域に住む全ての住民のものでもある。「宝の海を返せ!」という漁師の願いに呼応して、支援する市民と弁護団が裁判に訴え、福岡高裁での「3年間の猶予のあと、5年間の開門」が確定した。「コンクリートから人へ。」というキャッチコピーで中央の政権交代は実現したが、地方の首長と議会の体質は変わっていなかった。さらに大震災や原発への対応に手間取る国を見透かして、長崎県知事と議会は開門反対の意思を明確に打ち出し、これを支援するグループは「開門調査差し止め」を提訴している。
 冷静に物を見、声を聞き、自分の頭で判断すれば真実は明確。権力者や声の大きいボスのいい分に流され、金に縛られた行動しか出来なかったこの国にあって、未来への夢を託す鍵は私達の行動にある。「夜明けは近い。」
 この間の諫早湾の経過を簡単に振り返り、現状とこれからの展望を共有したい。

2. 経過

1997.4 潮受堤防閉め切り 
2000.12 有明海でノリの色落ち被害発生
2001.3 有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会(第三者委員会)が工事中断と排水門開放調査を提言
2002.11 有明海および八代海を再生するための特措法成立 
2008.3 干拓工事終了、営農開始。
   .6 佐賀地裁排水門の開放を命じる。諫早湾内への漁業被害を認定、国に開門調査を命じる。  
2009.8 総選挙で民主党圧勝。政権交代と排水門の開門への期待高まる。
2010.12 福岡高裁3年間の猶予の後、5年間の排水門開放を命ず。国は控訴せず確定。

3. 現状

干拓農地

 有明海の約4,5%を占める諫早湾は全長7Km の潮受け堤防で閉め切られ、2,600ha の調整池という淡水湖と816ha の農地が出来上がり、レタス、玉ねぎ、トマト、花や飼料作物が栽培されている。

有明海

 一方、有明海の海況は、調整池の水質の悪化(COD 平均値で8〜10)と共に日増しに取り返しのつかない状況を呈している。まず諫早湾のタイラギが壊滅、貝類からカニ、さらに有明海全体の魚の不漁に繋がり、2000 年のノリ不作へと波及した。
 有明海は年間を通して赤潮が多発し、貧酸素水塊の発生を促し、潮流の停滞が重なって海況は悪のスパイラルに陥っている。今年のノリのシーズンには、秋のノリ芽が流れ、冷凍網での生産も満足な結果が出ていない。

農水省

 司法の場で開門を命じられた国(事業の管轄は農水省)は「2, 013年12月までに開門する義務を負う。」と言いながら、地元長崎県知事の「開門反対」に的確な手を打てずに時間だけが経過している。
 開門調査のためのアセスを約束したが、素案によるとその内容には問題点が多い。
1)費用は全開門の場合、工事などに1,000 億円かかる。始めから一気に全部開門するなどという、非現実的なやり方を提起し、膨大な経費を示して反対派を刺激し、世論を開門反対に誘導しようとしている。
2)農業用の代替水源を深井戸による地下水の汲み上げの案だけにこだわり、他の河川や下水処理水と溜池の併用など、利用可能な水源を排除している。
3)開門の影響を少なくするために、最初は小規模に、段階的に規模を大きくすれば底泥の巻き上げなどの影響は最小限に抑えられます。
4)調整池や湾外の干潟の再生など生態系への影響がプラスに働く予測が不十分です。開門による潮位の変化が以前からあった干潟を再生し、生き物の復活を促して魚介類の生産と天然の浄化作用を取り戻します。

4. 市民の戦いが展望を開く

 従来から開門調査に異を唱えてきた長崎県知事、県議会と長崎県選出国会議員など、地方のボスたちに「丁寧な説明」や「真摯に対応」しても時間のムダ。彼らの意思は固く、裁判で負けても「開門調査差し止め訴訟」を長崎地裁に提訴した。
 有明海沿岸の佐賀、福岡、熊本県知事、県議会はこぞって開門を要求し、決議を採択している。

署名を諫早市長へ 市役所 2010.7.13

 私たちはこの間、学習会の開催、県知事と諫早市長あての開門要請署名、漁民の海上パレード支援、裁判の傍聴などの支援、街頭での宣伝などの行動で意思表示してきた。
 陸の上では醜い諍いが繰り広げられているが、有明の海には展望は開ける。それは開門が証明する。私たちが自然を取り戻せば、海は必ず応えてくれる。

(JAWAN通信 No.102号 2012年5月31日発行から転載)

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