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ラムサール条約入門

小林聡史 (釧路公立大学環境地理学教授、
JAWAN アドバイザー)

 2013 年3 月31 日時点で、ラムサール条約の加盟国(締約国)は165 ヶ国で、全条約湿地(登録湿地)数は2,106 ヶ所。これは特定の生態系タイプの世界的なネットワークとしては最大規模のものだ。指定された面積は2,051,341km2 で我が国の国土面積の5 倍以上となっている。1ha に満たない泉から、九州と四国を足した面積よりも広い湾や湿地複合体などが指定されている。
 四方を海に囲まれ、豊葦原瑞穂の国と呼ばれた我が国は湿地の宝庫だ。ラムサール条約では「湿地」の定義を、特定の言語や文化による定義に納めてしまわないよう広くとってあるが、大別すると内陸湿地(主として淡水)、沿岸湿地(海水や汽水)、人工湿地となる。海に囲まれていることから沿岸湿地、葦原を含めた内陸湿地、そして水田に代表される人工湿地が我が国には豊富にある(あった?)。
 ラムサール条約がカスピ海沿岸の町、イランのラムサールで採択されたのは1971 年2月2 日、それから5 ヶ月後には日本で現在の環境省の前身である環境庁が誕生した。
 1980 年に日本政府はラムサール条約をはじめとするいくつかの国際環境条約に加盟した。多くの条約は加盟してからいろいろな取り組みを始めるのだが、ラムサール条約では加盟に当たって、まず最低1 ヶ所は条約湿地を指定しなければならない。我が国最初の条約湿地は釧路湿原だ。
 それから33 年、日本は現在46 ヶ所のラムサール条約湿地が指定されている。条約に加盟した80 年代に3 ヶ所、90 年代8 ヶ所、2000 年代26 ヶ所、そして2012 年には9ヶ所が登録された。条約の全加盟国中、登録数の多さは11 番目となっている。アジア地域では第1 位の多さだ。これには実務担当省である環境省の努力があるだろう。条約湿地の指定には基礎となる科学データと潜在候補地の検討が必要だが、『日本の重要湿地500』(2002) の編纂、潜在候補地(2010) 検討会の開催などが役立っている。

1.登録まで

 では、自分の暮らしている町の中や近くに、湿地があった場合、どのような湿地が実際に条約湿地、すなわち「国際的に重要な湿地」に選ばれることになるのだろうか。
 我が国では以下の3 条件を満たすことが前提となっている。
 
 ①ラムサール条約の選定基準( クライテリア) を一つ以上満たすこと
 ②国内法による自然保護のための保護区指定(自然公園法や鳥獣保護法など)
 ③地元( 自治体) の合意

 条約湿地の条件として、ラムサール条約が公式に要請しているのはこのうち①の条件だけだ。②と③はいわば我が国の国内独自の条件ということになる。例えば海外では②に関して、地方自治体の条例等による保護区の場合があったり、個人所有の私有地でも指定されることがある。③に関しては、各国いろいろなやり方で合意形成や確認が行われる。

 ◆ラムサール条約における「国際的に重要な
 湿地」選定クライテリア

A. 代表的、希少、固有な湿地タイプを含む場合[1]

 生物地理区内で、自然度が高い湿地タイプの代表例や、希少あるいは固有な湿地を含む

B. B-1 種及び群集 絶滅危惧種[2];生物多様性の維持[3] 生活環・避難場所[4]

B-2 水鳥基準:2 万羽[5] 1% [6]

B-3 魚類基準:固有、生活史、種間相互作用、湿地の価値を代表[7];産卵場、稚魚生育場、回遊経路(漁業資源)[8]

B-4 他分類群:1% [9]

 注:生物地理区に関して日本は、中央アジア、ヨーロッパを含む旧北区に入っている。

講演する小林聡史教授

2. 登録後は?

 ラムサール条約事務局から公式の条約湿地認定証をもらった後はどうなるのだろうか?
 条約加盟国として条約湿地を指定するということは、我が国が世界に向けて、湿地の価値を認めその保全とワイズユースの取り組みを促進していく約束をしたことになる。そのため、①国と自治体の取り組みが始まることになる。また、②市民との協働のあり方が問われることになる。さらに登録前から重要なことなのだが、一層の③普及啓発活動が必要となっていく。
 日本に国内にある46 ヶ所の条約湿地に関わる市町村会議や様々なネットワークを通じての情報交換、さらには同じような問題を抱える世界各地の条約湿地関係者とつながっていくことが必要になる。もちろん英語が堪能な方がいたら(フランス語かスペイン語でもOK)、直接スイスにあるラムサール条約事務局にメイルしたり電話したりすることも出来る。

(4月6日講演会「日本の湿地を守ろう」資料より)
(JAWAN通信 No.105号 2013年6月21日発行から転載)

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