三番瀬保全をめぐる攻防と市民調査
三番瀬は東京湾奥部に残る唯一の自然干潟・浅瀬である。三番瀬埋め立て計画は、反対運動の高まりにより2001 年9 月に白紙撤回になった。しかし、その後も人工改変の危機にさらされている。
第二湾岸道路の建設に固執
白紙撤回された三番瀬埋め立て計画の主な目的は三番瀬に第二東京湾岸道路を通すことだった。この道路は、首都圏自動車専用道路ネットワーク「3 環状9 放射」の一翼を担う重要な道路として位置づけられている。
浦安、船橋、習志野、千葉の埋め立て地に8車線の道路用地が確保されているが、三番瀬で中ぶらりんになっている。埋め立て計画が白紙撤回になったからである。
千葉県はその後も第二湾岸道路を三番瀬に通すことに固執している。具体的には、浦安寄りに位置する猫実川河口域を「三番瀬再生」や「干潟的環境形成」の名で人工干潟(人工砂浜)にすることである。人工干潟造成工事の際に沈埋方式(ボックスカルバート方式)で道路を通すというものだ。
三番瀬のラムサール条約登録が進まない最大の理由もそこにある。登録湿地になると、人工干潟造成や道路建設が規制される。だから、県は登録に消極的である。
第二湾岸道路は不要
第二湾岸道路の構想浮上から半世紀近くたつ。この間に状況は一変した。東京−千葉間の臨海部道路の交通量は大幅に減少している。県の人口は、県の予測より7年も早く減少に転じた。国と自治体の財政も破綻状態になっている。第二湾岸道路は不要である。
猫実川河口域は三番瀬の中でもっとも生物相豊かな海域である。東京湾漁業にとっても大切な" いのちのゆりかご" となっている。
そこを人工干潟にし、第二湾岸道路を通せば、東京湾漁業は「ゲームオーバー」(船橋漁師の大野一敏さん)となってしまう。
猫実川河口域の市民調査
「三番瀬を守る連絡会」を構成する9つの自然保護団体は、三番瀬を守り抜くためにさまざまな活動を繰り広げている。そのひとつは猫実川河口域の市民調査である。調査は「三番瀬市民調査の会」(伊藤昌尚代表)が2003 年から続けている。
この海域は大潮の干潮時に広大な泥干潟が現れる。しかし護岸の前が深くなっているため、ボートを使わないと干潟に渡ることができない。遊船協会が市民調査を支援し、モーターボートを何艘もだしてくれている。
調査は3 月から9 月にかけて月1 回実施している。調査項目は、生物、カキ礁、アナジャコ巣穴数、酸化還元電位、強熱減量、塩分濃度、透視度などである。毎回参加する調査員のほか、学者、研究者、大学生、弁護士、議員、記者なども参加している。これまで1回以上参加した人は300 人を超える。
地元の市川市や自民党県議の一部は、猫実川河口域を「ヘドロの海」「死んだ海」と呼んでいた。調査の結果、生物相豊かな海域であることを証明した。
この海域には約5000 ㎡の天然カキ礁が存在していることや無数のアナジャコが生息していることも、市民調査ではじめて明らかになった。それらをマスコミが大々的に報じてくれた。市民調査は、人工干潟化と第二湾岸道路建設を食い止めるうえで重要な役割を果たしている。
今年の調査は初参加が30 人だった。法政大学人間環境学部の高田雅之教授(日本湿地学会理事)も5 回参加された。高田ゼミ生23 人も交替で参加した。干潟に足を踏み入れるのは初めてという学生ばかりである。調査後の報告会では、ゼミ生からこんな感想がだされた。
「東京湾は汚れていて生き物が少ないと思っていたが、違っていた。いろいろな種類の生き物がたくさんいた」、「工場やビル群のすぐそばにたくさんの生き物がいる。それに感激した」、「名前をはじめて聞く生き物が多かった。こんなところが開発の危機にさらされていると知り、イカンと思った」
11 月30 日(土)、2013 年市民調査報告会を船橋市内で開く。報告会では、調査員が調査結果を発表するほか、高田教授とゼミ生も講演や報告をしてくれることになっている。
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