北陸新幹線のルート変更を求める
〜中池見湿地を視察したラムサール条約事務局長〜
ラムサール条約事務局長のクリストファー・ブリッグス氏が4月9日、福井県敦賀市の中池見湿地を視察した。
最初に、ビジターセンターで説明会が開かれた。事務局長は、中池見湿地の歴史や特徴などに関するセンター長の話を熱心に聞いた。現場視察では、湿地の状況についてNPO法人「中池見ねっと」の職員にいろいろと質問した。「中池見ねっと」は、中池見湿地の管理を敦賀市から受託している。
■北陸新幹線の貫通計画に関心
ブリッグス事務局長が中池見湿地を視察した目的は、ラムサール条約の登録区域内に北陸新幹線を通す計画が浮上したことである。事務局長はこの計画に強い関心をもっている。
NPO法人「法人ウエットランド中池見」の笹木智恵子理事長が新幹線の予定ルートを案内し、新幹線貫通計画を説明した。旧ルートは中池見湿地の集水区域外を通ることになっていたが、国交相の認可を受けた新ルートは集水区域内を通ることになった。トンネルで新幹線を通すことになっているが、集水域にトンネルを掘られると中池見湿地の水環境は大きな影響を受ける──。そんなことをくわしく話した。
事務局長は、同行した国交省事務所の職員にこう質問した。
「なぜ当初計画を変更し、湿地の集水域にルートを変更したのか?」
国交省職員は明快な回答ができなかった。
■北陸新幹線のルート変更を強く求める
事務局長の視察には、テレビ局や新聞社の記者が多数、同行取材した。12時から現地で記者会見がおこなわれた。
「今回の来日の目的は何ですか」の問いに、事務局長はこう答えた。
「日本のラムサールサイトを視察し、関係地域の人たちや政府・自治体の担当者と話をしたかった。中池見湿地については、ラムサール登録区域の中を新幹線が横切るという計画を知ったので、それを確認したかった。新幹線の新ルートは2つの小川をまたがることになっている。トンネルで通すということだが、中池見湿地の生態系に影響を与えることが懸念される」
「中池見湿地についての感想は?」についてはこうだ。
「湿地としてすばらしい価値をもっている。たいへん豊かだ。池や水田やヨシ原などがあり、多様性に富んでいる。日本のみなさんは、こういう場所があることを誇りにしてほしい。そうした豊かさと多様性を維持保全してほしい。そのためには、外的なインパクトをできるだけ抑えることが必要だ。湿地の集水域(ラムサール条約登録区域内)に新幹線を通すような計画は修正してほしい」
「ラムサール条約が掲げるワイズユース(賢明な利用)にはインフラの整備も含まれるのか」という質問もだされた。事務局長はこう答えた。
「それはむずかしい問題で、開発を求める人が多いことも事実だ。しかし、日本はすでに開発(インフラの整備)が非常に進んでいる。インフラを整備する際は、自然環境にダメージを与えないようにしてほしい。とくに、中池見湿地は国際的に重要な湿地としてラムサール登録湿地になった。日本政府がラムサール条約に登録したのだから、中池見湿地の豊かさと多様性を後世に引き継いでほしい」
「ラムサール条約登録区域内に新幹線を通すことは、物理的なダメージだけでなく、文化的なダメージももたらす。すでに、ラムサール登録区域外に高速道路(北陸自動車道)がつくられている。新幹線のルートも高速道路のそばに変更すればいいと思う。そうすれば、湿地への影響はなくなる」 (文責・中山)
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