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ラムサール登録地が増えても湿地は激減

〜核心外したラムサールシンポに違和感も〜

三番瀬を守る連絡会 代表世話人 中山敏則

 ラムサール条約事務局長の来日を記念するシンポジウムが4月10日、東京のJICAビル国際会議場で開かれた。テーマは「世界の湿地保全のために、つながる、『ワイズユース』の知恵」である。三番瀬保全団体のメンバーも9人が参加した。
 ラムサール条約事務局長のクリストファー・ブリッグス氏が基調講演したあと、環境省自然環境局野生生物課湿地保全専門官の柳谷牧子氏、豊岡市コウノトリ共生課の宮垣均氏、ラムサール条約登録湿地市町村会議の山村嘉康氏、JICA地球環境部の宍戸健一氏がそれぞれのとりくみを報告した。報告のあとは、5人でパネル討論である。

写真1
130人が参加したラムサール条約事務局長来日記念シンポジウム=4月10日

◆中池見湿地の問題にはふれない

 報告やパネル討論を聞き、違和感を抱いた。ラムサール条約をめぐる焦眉の問題が論議されなかったからである。
 ブリッグス事務局長は、シンポの前日(9日)、福井県敦賀市の中池見湿地を視察した。事務局長は、中池見湿地のラムサール条約登録区域内を北陸新幹線が横切る計画に関心をもっていた。新幹線は同湿地の集水域を貫通することになっている。視察を終えた事務局長は、記者会見で新幹線のルート変更を強く求めた。
 事務局長の視察を報じた10日の『東京新聞』(夕刊)は、「計画ルートが修正されずに登録湿地が損なわれる場合、注意喚起を目的としたリスト『モントルーレコード』に記載されることもある」と記
 した。ところが、10日のシンポでは中池見湿地をめぐる問題はまったく議論されなかった。

◆減少著しい日本の湿地

 焦眉の問題はもうひとつある。日本の湿地が激減していることである。日本のラムサール登録湿地は、1980年に釧路湿原(北海道)が第1号として登録されて以降、大幅に増えた。現在の登録湿地は46カ所である。ところが、ラムサール登録は湿地減少の抑止にあまり役立っていない。
 今年1月31日の『毎日新聞』は、「ラムサール条約採択から40年余/湿地保全 現状と課題」を見出しに掲げてこう記した。
 《日本の湿地は減少が著しい。国土地理院によると日本に存在する湿地は約821平方キロで、明治・大正時代の40%足らずでしかない。この間に約1290平方キロ、琵琶湖の面積の2倍に当たる湿地が破壊されたことになる。調査のとりまとめは2000年なので、今では湿地はもっと少なくなっているとみられる。減少量が最も多いのは北海道で、以下青森県、宮城県の順。東京都、千葉、埼玉両県の減少率は90%を超え、大阪府の湿地はほとんどなくなった。》
 たとえば瀬戸内海では、いまも干潟や藻場、浅瀬の埋め立てが続いている。

◆条約締約国の義務を放棄

 そもそも、ラムサール条約は湿地の保護を目的としている。破壊の脅威にさらされている重要湿地を国際協力で保護しようというものだ。ラムサール条約加盟国には、登録湿地だけでなく、すべての湿地の保護が義務づけられている(条約第4条)。
 ところが、日本政府はそれを無視している。ラムサール条約締約国に課せられた義務や国際的責任を放棄しているといっても過言ではない。10日のシンポでは、この点もまったく議論されなかった。
 私はたまらず、会場から発言した。『毎日新聞』の記事を紹介し、環境省の湿地保全専門官にこう質問した。
 「日本では、ラムサール登録湿地が増えても重要湿地の減少に歯止めがかからない。これは大きな問題だ。たとえば私がかかわっている東京湾三番瀬では、恒久保全を実現するため、ラムサール登録を求める署名を14万集めた。しかし、登録が進まない。それは、三番瀬の開発(第二東京湾岸道路の建設)をあきらめない県が登録に消極的だからだ。県は、漁協が反対していることを口実にし、三番瀬の登録に消極的な姿勢を貫いている。ラムサール条約を担当している環境省は、登録条件の一つとして地元自治体などの賛意を掲げている。しかし、開発計画を掲げている自治体(県)の姿勢を市民団体が変えるのは困難だ。この点について環境省の考えをお聞きしたい」
 湿地保全専門官はこう答えた。「全国規模の署名を14万集めるよりも、地元の方々の同意を得ることのほうが重みがある」。ようするに、地元の漁協や自治体などを説得し、同意を得てほしい、ということだ。
 これにはがっかりした。日本の湿地が激減しているという問題についてはいっさい答えないからだ。また、地元の漁協や自治体などを説得するのは、本来、政府(環境省)の役割である。だが、環境省はいっさい働きかけない。三番瀬保全団体の努力を傍観しているだけである。

◆「環境省よ、もっとしっかりしてくれ!」

 日本湿地ネットワークの初代代表を務めた山下弘文さんは、ラムサール登録についてこう述べていた。
 《「地元自治体の了解」にこだわると、肝心の、開発との関係で危機にさらされている湿地・干潟は、登録湿地に指定されにくくなります。実際、基準に合う湿地・干潟の多くは、自治体が進めている埋め立てなどに関係しているものがほとんどなのです。開発主体である地元自治体は、開発を困難にする登録湿地の指定を簡単には受け入れません。要は、国として国際的な責任をどう果たしていくか、という性質の問題なのです。むしろ、埋め立てなどの公共事業で、湿地・干潟を破壊しようとする地元自治体の抵抗があっても、国として自治体を指導・監督して、湿地・干潟保護のイニシアチブを発揮することこそが求められています。(中略)何よりも、ラムサール条約推進を喚起し、地元自治体への行政指導を通じて必要性を納得させるように努力することが、ラムサール条約締約国としてとるべき態度ではないでしょうか。》(山下弘文『西日本の干潟』南方新社)
 これは問題の核心をついている。山下さんの提起から20年近くたつが、日本の湿地をめぐる危機的状況はまったく変わっていない。10日のシンポで湿地保全専門官はこうも述べた。
 「これまでは、ラムサール条約に登録しやすい湿地を登録してきた。今後は、登録湿地の質の向上に力を入れたい。それが登録湿地を増やすことにもつながる」
 これにはため息がでた。登録湿地の質を向上させれば、重要湿地の開発計画を掲げている自治体が開発をやめてラムサール登録(=恒久保全)に転換するというのは空理空論である。
 杉本裕明著『環境省の大罪』(PHP研究所)によれば、環境省は他省から「きれいごとを言っているだけの気楽な役所」と揶揄(やゆ)されているそうだ。残念ながら、そのとおりだと思う。
 このままでは、ラムサール条約に登録すべき重要湿地はどんどん破壊されてしまう。「環境省よ、もっとしっかりしてくれ!」と叫びたくなった。

写真2
シンポのパネリスト
(JAWAN通信 No.107 2014年5月31日発行から転載)

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