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葛西臨海公園のカヌー競技場計画は「見直し」へ

〜2020年東京オリンピックに向けて〜

日本野鳥の会東京 探鳥会リーダー 今関一夫

◆はじめに

 東京都は、東京湾に面する葛西臨海公園(江戸川区)で2020年東京オリンピックのカヌースラローム(激流下り)競技場建設計画を進めてきました。しかし、「貴重な生態系が破壊される」と見直しを求める声が強まったため、6月都議会で「計画を見直す」と表明しました。
 競技場計画の概要や影響、今後の動向などをまとめてみました。

◆カヌー競技場建設計画

 この計画は、同公園西側の樹林、草地域の3分の1の用地20ha(東京ドーム4個分)でカヌースラローム競技場を建設するものです。計画の概要は次のとおりです。
 カヌーのコースは、子供用の滑り台を想定して高さ7〜9mから地上へ下りる300mのコースと200mの補助コースを造り、そこへ毎秒13㎥の急流(淡水)とともにカヌーが滑り下るというものです。
 上記のほか、貯水施設、ボート回漕用の水路、ポンプアップ施設、高さ17〜18mの常設スタンド(1万2000席、武道館並み)、その仮設(3000席)を造ります。

◆葛西臨海公園の自然環境

 葛西沖は1950年代に埋め立てられました。葛西臨海公園は、周囲の都市化に伴い、東京都が「自然との調和の最後の砦」として整備を進めたものです。開園は1989年です。それから24年、整備が進み、自然が定着してきました。
 同公園の西側地域は樹木や低木が茂り、芝生が広がっています。市民が野鳥、昆虫、草花などを観察したり、親子の遊び場、バーベキュー広場などを平日・休日とも楽しんだりしています。
 ここは、山野の鳥76種(絶滅危惧種17種、繁殖7種)、昆虫140種、クモ80種、樹木91種、野草132種が確認されています。海辺〜淡水の池〜芝生〜低木の茂み〜樹林と、自然環境が連続して一体的に整備され、多種多様な生物が生息しています

◆競技場建設の影響

 この公園でカヌー競技場を建設すると、次のような影響が考えられます。
 地球温暖化が進んでいる中で自然豊かな公園を破壊することは、温暖化をさらに促進することにつながります。同競技場の建設により、連続した自然環境が寸断・破壊され、自然環境の機能が十分作用されなくなります。
 親子の遊び場、バーベキュー広場など市民の楽しみと憩いの場が奪われます。生物の観察も不可能となります。また、巨大な競技場の出現により、オリンピック終了後も海辺から富士山に至る景観が失われてしまいます。

写真1
葛西臨海公園のカヌー競技場計画をとりあげたテレビ番組に登場し、「湿地だとか森林は潰すな」と訴えた今関一夫さん=2013年10月13日放送、TBSテレビ「噂の!東京マガジン」のひとこま

◆代替地決定まで署名継続

 日本野鳥の会ほか134団体は昨年8月、東京都と東京オリンピック招致委員会に対し、「同公園は、東京都が整備し、豊かな生物が生息している。カヌースラローム競技場はここでなければならない理由はない。他の代替地で見直してほしい」と申し入れました。
 代替地は隣の都有地(図面右下の「臨時駐車場」等)などがあげられています。これらは未利用地で、同競技場を容易に建設できる状況にあります。これに対して東京都は、「自然を破壊するつもりはない。この公園にカヌー競技場があること自体は矛盾しない。影響を極力減らせる整備・手法を検討し、地元の理解をえるよう努力する」と答えました。しかし6月の都議会で、「カヌースラローム競技場は、隣接する都有地を活用するなど会場計画全体について見直す」と表明しました。
 日本野鳥の会東京は、「代替地がどこになったとしても、その場所であらたな環境破壊が起きないように見届けることが建設地変更を求めてきた私たちの責任」とし、今後「代替地について、詳細な環境評価を行うこと」「予測される問題があれば、しっかり対策をとること」を要望し、代替地の決定まで署名活動を継続することにしています。

写真2

◆おわりに

 多くの人々の手によって豊かな自然環境がつくられ、定着している同公園を守り育てることは、東京都内の海辺の公園としてたいへん貴重です。
 東京都がカヌースラローム競技場計画を「見直す」にいたったことは、問題解決へ大きな一歩です。その背景には、多くのテレビ、新聞、週刊誌などの報道や各種団体の現地見学による世論の高まり、1万5000筆の署名などが大きな力となっています

(JAWAN通信 No.108 2014年8月31日発行から転載)

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