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瀬戸内法改正、前進したが終わらない

〜現場での協議会参加と埋め立て監視を〜

環瀬戸内海会議幹事(首都圏連絡会)/食と農・環境フリーライター
若槻武行

 環瀬戸内海会議(環瀬戸)は昨2014年春、瀬戸内海環境特別措置法(瀬戸内法)に「埋め立て、産廃持ち込み、海砂採取」の3つの全面禁止の明記を求め、法改正を要求する署名10万筆を衆参両院議長に提出した。
 一方、自民・公明両与党は瀬戸内法の改正案(旧案)を昨2014年6月、通常国会終盤の参議院に議員立法として提出した(本誌109号参照)。その自公案は、通常国会の閉会で継続審議になった。続く臨時国会では一度も審議されず、11月の衆議院解散で廃案となってしまう。
 今年(2015年)の通常国会で自公与党は、野党の意見に配慮した瀬戸内法改正を進めるための議員連盟結成を、野党の民主・維新に提案してきた。

◆改善されたが、表現が曖昧

 4党の議連がまとめた瀬戸内法「新改正案」では、①「富栄養化」の対策を復活させ、②「貧酸素水塊」の文言を条文に明記し対策を提起した、③「生物多様性の確保」に配慮した、④各府県環境保全計画策定の湾灘協議会で「幅広く住民の意見を求める」と改正した、⑤旧案で多数あった「事業」をかなり少なくし、その偏重を緩和した、などで評価できる点が見られた。ただ、その内容は曖昧で、次のような問題点があった。
 第1に、旧案同様、年間100件の赤潮、富栄養化の原因の検証が不十分。浅瀬や干潟の埋め立てが、貝類、ゴカイ類などの海水を浄化させる生物を死滅させ、赤潮、「貧酸素海域」の原因となっていることの改善策が具体的でない。
 第2に、豊かな海の「再生・創出の事業」の内容が不明。「事業」が新たな埋め立て、それも産廃、特に「有害鉄鋼スラグ」による埋め立てに繋がる懸念は、依然残っている。
 第3に、「事業」が「人工磯浜・砂浜等の造成」であるなら、膨大な経費の浪費でしかない。その事業は全て失敗し、むしろ環境破壊を招いている。
 第4に、「事業」を言うなら、数多く見られる未利用・遊休の埋め立て地の「磯浜・干潟の復元・回復」を、自然に任せた形で試みるべきだ。
 第5に、「生物多様性」を奪った要因の究明・分析がない。浅瀬の喪失、海砂採取が、生物の産卵や生息域を壊し、赤潮と貧酸素海域を生んだことの反省がなく、放置されたままだ。
 第6に、各府県の湾灘協議会の構成メンバーに「環境NGOの参加」の明記がないこと、などだ。
 

◆混乱する国会で最後に可決

 新瀬戸内法案は、8月27日の参議院環境委員会・本会議、衆議院の環境委員会を経て、9月26日に衆議院本会議の最後で可決・成立した。
 提案者の議連の幹事長だった民主・水岡俊一議員は、戦争法案で混乱する国会内を回り、環瀬戸の主張をほぼ全面的に取り入れた民主党案を新改正案に反映させるよう、民主党内外の調整に努めてきたことが印象的だった。
 参院環境委員会では市田忠義議員(共)と水野賢一議員(無)、衆院環境委員会では島津幸広議員(共)と玉城デニー議員(生)が、特に未使用・遊休の埋め立て地の多さと広大さを指摘し、国土省・環境省が把握していない点を厳しく追及した。それが議事録に残ったのは大きい。
 衆院環境委員会では民主・田島議員の尽力で、付帯決議に、①無駄な予算のバラまき(埋め立てや人工砂浜造成に関わる業者などとの癒着)の抑制、②瀬戸内法、生物多様性の総括と調査・研究、③未利用埋め立て地や既存施設の活用を新たな埋め立てに優先させる、という、今後の埋め立て抑制につながる配慮をしている。
 瀬戸内法改正について、我々環瀬戸は20年近くも運動してきた。その間の現場での耐え難い思いからいうと、まだ少なからぬ不満が残っている。
 ただ、瀬戸内法には5年ごとの見直しが明記されている。今後は、瀬戸内の現場で有害鉄鋼スラグによる埋め立てなどの警戒を強め、湾灘ごとの協議会への参加を求めて自治体と交渉しながら、法案のさらなる修正を求めて運動することになるだろう。

写真3-1
瀬戸内法改正案を全員一致で可決した参議院環境委員会=2015年8月27日(水岡俊一参議院議員事務所提供)

 瀬戸内法改正をめぐる経過

2014月3月 環瀬戸内海会議が、瀬戸内法改正を求める署名10万筆を衆参両院議長に提出。
   6月 自民・公明両党が「瀬戸内法改正案」(旧案)を通常国会の参議院に提出。
   11月 旧案は廃案に
2015年8月 自民・公明・民主・維新4党の協議でまとまった「新改正案」が通常国会に提出される。
9月、衆議院本会議で全会一致により可決・成立

(JAWAN通信 No.113 2015年11月20日発行から転載)

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