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■自然と環境を守る交流会の講演(要旨)

世界的に希少な湿地を未来に残すために

〜敦賀市・中池見湿地〜

ナチュラリスト敦賀 緑と水の会 笹木智惠子さん

写真13-1
笹木智惠子さん

 敦賀は原発が集中している地域である。原発問題と並行して、25年前から全国のゴミが敦賀に押し寄せてきた。市民が飲み水として使っている川の上流にゴミが埋め立てられるという話ももちあがった。そこで、最初はゴミ問題にとりくんだ。
 ゴミ問題が起きたところのすぐそばに中池見湿地があった。当時は水田として利用されていた。そうこうしているうちに中池見湿地がLNG基地になるという問題が起きた。危険なガス基地が街のすぐそばにつくられる。しかも、私たちが子どもたちと楽しく遊んでいた場所がなくなる。さらに地域の水田文化がなくなる。そういうことからガス基地は問題だと思った。
 ちょうどそのとき、釧路市でラムサール条約締約国会議が開かれた。1993年6月である。そこで、中池見も湿地だからラムサール条約湿地にしようという運動をはじめた。LNG基地建設は中止になった。そして2012年7月、中池見湿地は念願のラムサール条約湿地となった。
 ところが、喜びは束の間だった。ラムサール条約登録区域内を通る北陸新幹線の着工が国交大臣から認可された。湿地の命の水を供給する山にトンネルを掘って新幹線を通すというものである。この工事が進めば、湿地の生態系は重大な影響を受ける。
 私たちは新幹線のルート変更を求めて行動した。ラムサール条約事務局長も直々に現地を視察し、登録区域外への変更を求めた。その結果、「認可ルート」よりも約100m湿地の外側を通るルートに変更された。
 ルート変更によって中池見湿地への影響は回避されたというが、それはまやかしである。変更後も、ルートの一部がラムサール条約登録区域にかかったままである。私たちは、「ラムサール条約登録っていったい何なの?」と疑問をもっている。変更後のルートを歩いてみると、図面で考えている以上の怖い工事がはじまるということをひしひしと感じる。
 ラムサール条約の事務局長など、外国から現地視察に来られた方はみんなこう言う。「こんなところになぜトンネルを掘るのか」「ルートはラムサール条約登録区域外に移したほうがいいのではないか」と。
 中池見湿地には13万年分の泥炭層が積もっている。もし新幹線工事によって水が涸れてしまったら、世界的に希少な泥炭層も消滅する可能性がある。そこで、私たちは現地調査をつづけている。もし異常や危険を感じたら、みんなに知らせたり、新幹線の事業者につきつけたりする。そういう活動を進めながら湿地を守っていきたいと考えている。

(JAWAN通信 No.114 2016年2月20日発行から転載)

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