トップ ページに 戻る

生き物たくさん 豊かさ実感

〜新舞子干潟で生物観察会〜


 新舞子干潟は兵庫県たつの市御津町(みつちよう)黒崎の海岸にひろがる干潟です。関西随一の遠浅の干潟であり、すぐれた景観と貴重な自然環境を有しています。春には潮干狩り、夏には海水浴と、多くの観光客が訪れます。
 その新舞子干潟で(2016年)4月16日、海岸生物の観察会がひらかれました。主催は「播磨灘を守る会」(青木敬介代表)です。観察会を指導したのは南港ウェットランドグループの和田太一さんです。
 この日は潮干狩りのオープン日です。そのため、干潟は家族連れなど大勢の人でにぎわっていました。

*短時間で多様な生き物を確認

 新舞子干潟は生物相がたいへん豊かです。これまでの観察会で230種近い生物がみつかっています。そのうち60種以上は希少種や絶滅危惧種に指定されています。
 干潟の砂泥をスコップで掘って篩(ふるい)にかけると、いろいろな底生生物がみつかります。こんな生き物を確認しました。

◇二枚貝 …… ハマグリ、バカガイ、アサリ、ムラサキガイ、イソシジミ、マテガイ
◇巻き貝 …… アラムシロガイ、カラマツガイ、イボキサゴ、ウミニナ
◇ゴカイ …… スゴカイイソメ、ツツオオフェリア、ムギワラムシ、シロガネゴカイ、チロリ、ギボシムシ
◇カニ類 …… コメツキガニ、オサガニ
◇魚 ………… ヨウジウオ、アカエイ、イシガレイ、クサフグ、ハゼの一種、ボラの一種
◇海藻・海草… アマモ、アオサの一種
◇その他 …… タテジマイソギンチャク、ケハダヒザラガイ、オオワレカラ、ホシムシ、ヒモムシの一種、ヒラムシ、トゲモミジガイ、ヒラタマルソコエビ、クロフジツボ、イワフジツボ、サンショウウニ

 マテガイ、スゴカイイソメ、チロリはスコップで掘るたびにみつかりました。
 オサガニは兵庫県版レッドデータブックのAランク(絶滅の危機に瀕している種)、イボキサゴ、スゴカイイソメ、チロリはCランク(存続基盤が脆弱な種)です。

写真1-1
写真干潟をスコップで掘って生き物を観察
写真1-2
オサガニ。兵庫県版レッドデータブックのAランク(絶滅の危機に瀕している種)に掲載されている

*数百個の目をもつヒザラガイ

 たくさんのケハダヒザラガイが岩に張りついていました。
 ヒザラカイについては昨年11月、画期的な発見がありました。ヒザラガイの殻に数百個の目があることがわかったのです。米国マサチューセッツ工科大学などの研究グループが米科学誌『サイエンス』(昨年11月20日付け)で発表しました。
 数百個の目によってまわりのものをみているそうです。近づいてくる捕食者をみつけると、岩からはがされないよう、しっかりと張りつくようにしているとのことです。

写真1-3
数百個の目をもつとされるケハダヒザラガイ。岩にたくさん張りついていた

*広大なアマモ場

 新舞子干潟の前面には広大なアマモ場が存在します。そこにいろいろな生き物がすんでいます。
 東京湾の三番瀬では、千葉県がアマモの造成(移植)試験を2003年度から2009年度までつづけました。事業費は1776万9000円です。しかし、移植したアマモは毎年夏に枯れてしまいます。枯死の原因は二つです。①夏場は水温が28度以上の日がつづく。②赤潮の発生により透明度が極端に低下する。こうしたことから、三番瀬ではアマモの繁茂はむずかしいことがわかりました。県はアマモの造成試験をやめました。
 この話を和田さんにしました。和田さんはこう言いました。
 「アマモが自生しない海域にアマモを移植しても、うまくいくはずがない」

写真1-4
干潟の前面にひろがるアマモ場
写真1-5
トゲモミジガイ(左)とサンショウウニ(右)

*砂泥の移動で多様性が低下

 新舞子干潟では2012年と2014年に砂泥の移動がおこなわれました。
 干潟の東側に富島川(とみしまがわ)があります。その河口に堆積した砂泥を浚渫し、新舞子海岸に運び入れたのです。砂泥の移動で新舞子干潟の海岸生物がダメージを受けました。この日の観察会は、そのダメージがどれだけ回復したかという調査も兼ねました。
 観察会のあと、指導員の和田さんはこう話しました。
 「砂泥の移動(搬入)前と比べると生物多様性が低くなっている。まだ回復していないということだ。たとえば以前いたスジホシモドキはまったくみることができなかった。ギボシムシ、ムギワラムシ、オサガニも、以前にくらべてかなり少なくなっている。逆に、砂泥搬入後に増えた生物もいる。イソシジミである」
 「下層がヘドロのようになっている場所も4カ所あった。そこはずぶずぶの状態になっていて、足がすっぽり入り込む。スコップで掘ってみたら、生き物はほとんどいなかった」
 新舞子干潟は30年ぐらい前から浸食がすすみました。浸食の原因として次の二つがあげられています。①揖保川(いぼがわ)の上流に引原(ひきはら)ダムが建設されたため、砂の供給が止まった。②新舞子干潟の東側に位置する網干(あぼし=現在の姫路市網干区)の海岸を埋め立てたため、潮の流れが変わった。
 浸食によって新舞子干潟の砂は減少しつづけ、浜に岩が露出するようになりました。そのため、兵庫県西播磨県民局が新舞子海岸の養浜事業を実施しました。同じ海域の富島川河口付近の浚渫砂を新舞子海岸に移動させました。海底に敷設したパイプ(鉄管)を使ってです。
 和田さんはこう話しました。
 「他所(よそ)から砂泥を運び入れると、どうしても生物多様性は低くなる」

写真1-6
ヨウジウオ
写真1-7
ムラサキガイ

*三番瀬の人工干潟造成はくいとめたい

 千葉県は、三番瀬の浦安寄りに位置する猫実川(ねこざねがわ)河口域の人工干潟化をめざしてきました。「三番瀬再生」がうたい文句です。本当のネライは、そこに第二湾岸道路を通すことです。 三番瀬保全団体はねばり強い運動によって人工干潟造成をくいとめています。新舞子干潟の観察会に参加し、人工干潟造成阻止の大切さをあらためて認識しました。

(中山)
(JAWAN通信 No.115 2016年5月20日発行から転載)

>> トップページ >> REPORT目次ページ