市民調査と行政交渉が大きな効果
〜三番瀬の人工改変と第二湾岸道建設を防ぐ〜
三番瀬の人工改変(人工干潟造成)と第二湾岸道路建設をくいとめるうえで、市民調査と行政交渉が大きな役割をはたしています。
◇喜びも束の間の大ピンチ
2001年9月、三番瀬埋め立て計画は白紙撤回になりました。しかし喜びも束の間でした。堂本暁子知事(当時)が猫実川(ねこざねがわ)河口域の人工干潟化をめざしたからです。うたい文句は「三番瀬の自然再生」です。本当の目的は、そこに第二東京湾岸道路を通すことでした。
堂本知事は、住民や市民団体、漁協などの合意を得るために三番瀬円卓会議をたちあげました。丸2年におよぶ円卓会議は、最初から最後まで猫実川河口域の人工干潟化が焦点となりました。土壇場で人工干潟造成をもりこんだ提言を採択しました。三番瀬保全団体の猛反対を押し切っての強行採択でした。
強行採択に反対したのは24人の委員のうち大浜清委員(当時千葉の干潟を守る会代表)だけです。環境派として名高い委員も人工干潟造成に賛成しました。吉田正人委員(日本自然保護協会代表理事、筑波大学大学院教授、当時日本自然保護協会常務理事)、清野聡子委員(九州大学准教授、当時東京大学大学院助手)、蓮尾純子委員(日本野鳥の会評議員)などです。
この提言をうけて、県は人工干潟造成の布石となる事業をすすめました。地元の市川市は広報紙で人工干潟造成の必要性をあおりたてました。市は「人工干潟も都市部では貴重な自然」とするキャンペーン本も出版しました。
市川市自治会連合協議会会長や漁協幹部も県の審議会などで「人工干潟を造成すべき」の大合唱をくりかえしました。県議会では自民党議員が猫実川河口域を「ヘドロの海」をよび、人工干潟造成と第二湾岸道路建設を主張しました。環境団体の「三番瀬フォーラムグループ」も猫実川河口域の人工干潟化を後押しです。
日本の海洋生物研究の第一人者とされる風呂田利夫氏(東邦大学名誉教授、元日本ベントス学会会長)も人工干潟造成を後押しする主張をくりかえしました。風呂田氏は猫実川河口域のカキ礁を有害物とし、除去して人工砂浜(人工干潟)をつくるべきと主張しました。その根拠は、足を切ったりするのでカキは人間にとって危険な生物である、子どもたちが安全に海に入れるように砂を入れて人工砂浜にすべき、というものです。
三番瀬は大ピンチになりました。
◇窮地打開に市民調査が貢献
窮地を打開するうえで大きな効果を発揮したのは猫実川河口域の市民調査です。2003年からはじまりました。
市民調査によって、猫実川河口域はたいへん豊かな海域であることが証明されました。絶滅危惧種が何種類も生息しています。約5000平方メートルの天然カキ礁が存在することもはじめてわかりました。この海域は東京湾の漁業にとって“ゆりかご”の役割をはたしています。
それを新聞が大々的に報じました。『読売新聞』『朝日新聞』『毎日新聞』『東京新聞』『千葉日報』などです。テレビもとりあげました。『サンデー毎日』2005年7月24日号はグラビア(3ページ)と記事(4ページ)をつかってデカデカと報じました。見出しは、「“江戸前”自然のワンダーランドに危機迫る」「“埋め立て中止”の三番瀬に『人工干潟』?!〜東京湾の奇跡『巨大カキ礁』がつぶされる!!〜」です。この記事はTBSテレビ「噂の!東京マガジン」の中吊り大賞を獲得しました。
日本とアメリカのカキ礁研究者を招き、日米カキ礁シンポジウムも開きました。カキ礁をテーマとした国内初の国際シンポでした。
◇行政交渉の成果
行政交渉も大きな効果を発揮しました。こんな成果をあげました。
①護岸改修を審議する委員会で人工干潟に関する発言を封印
市川市塩浜2丁目の護岸改修事業を審議する委員会では、会合のたびに、漁協や自治会合連合協議会、再開発推進協議会などの代表委員が「改修護岸の前面(猫実川河口域)で人工干潟を造成すべき」と発言しました。“人工干潟造成大合唱”の様相を呈していたのです。
担当課(県河川整備課)との交渉でその不当性を指摘し、「人工干潟を議論するのなら、環境問題の専門家や環境団体の代表も委員に加えるべき」と追及しました。その結果、委員会では人工干潟造成をいっさい議論しないことになりました。
②漁場再生事業を審議する委員会でも人工干潟の議論を封印
三番瀬漁場再生事業を審議する「三番瀬漁場再生検討委員会」でも「猫実川河口域を人工干潟にすべき」が盛んにとなえられていました。
県水産局との交渉でその理不尽さを追及しました。その結果、三番瀬漁場再生事業を審議する委員会や協議会でも猫実川河口域の人工干潟はいっさい議論しないことになりました。
③「漁場再生事業連絡協議会」を公開に変更
県水産局は2011年5月、「三番瀬漁場再生事業連絡協議会」を非公開でスタートさせました。交渉でその不当性を追及しました。第2回から公開に変わりました。
④三番瀬再生事業関連会議の開催案内メールを希望者に配信
県は「三番瀬専門家会議」などの開催を記者発表と県庁ホームページ掲載だけで知らせていました。これでは新聞が報じなければわかりません。県のホームページを毎日チェックするのもたいへんです。県に開催案内方法の是正を申し入れました。その結果、「三番瀬専門家会議」「市川海岸塩浜地区護岸検討委員会」「市川海岸塩浜地区護岸整備懇談会」などについては、開催案内のメールを希望者に配信することになりました。
⑤立ち入り禁止期間中の野鳥飛来調査を実現
2011年3月11日の東日本大震災によって、ふなばし三番瀬海浜公園の施設や、公園前の砂浜、突堤などが甚大な被害を受けました。三番瀬の船橋側は補修工事が完了するまで立ち入り禁止になりました。
県企業庁と交渉し、立ち入り禁止期間中の野鳥飛来調査を要望しました。交渉の結果、特例措置として、企業庁職員立ち会いによる月1回の調査が認められました。立ち入り禁止は1年間です。千葉県野鳥の会と日本野鳥の会東京が調査をつづけました。
⑥三番瀬鳥類調査報告書を大幅修正
2009年春、県自然保護課が「平成19年度三番瀬鳥類個体数経年調査報告書」を発表しました。この調査は自然保護課が「NPO法人野鳥千葉」(志村英雄理事長)に約390万円で委託したものです。
同NPO法人を設立した日本野鳥の会千葉県は猫実川河口域の人工干潟化推進に加担しています。また、三番瀬のラムサール条約登録に反対する意見書を知事に提出しました。
報告書は、考察部分で「鳥類の出現種数は減少傾向にある」「三番瀬は餌資源が減少」「アオサが堆積して干潟・浅海域の底泥が無酸素状態になっている」「三番瀬の環境は悪化傾向」などと結論づけました。
自然保護課と交渉し、データをつきつけて大幅訂正を求めました。その結果、同課は報告書の考察部分(約3分の1)をすべて削除しました。県がいちど発表した報告書を3分の1もカットしたのは異例中の異例です。
⑦漁場改善事業貸付金を全額返還
県企業庁が信漁連(県信用漁業協同組合連合会)を相手どった市川地区漁場改善事業貸付金返還訴訟では、裁判長がたびたび和解を勧告しました。
「三番瀬公金違法支出判決を活かす会」はそのたびに企業庁と交渉し、和解に応じないよう強く求めました。交渉は4回におよびました。
企業庁が和解に応じない姿勢を貫いたため、企業庁の完全勝訴となりました。信漁連は県(企業庁)にたいし、貸付金(5億5000万円)と遅延損害金(8084万2465円)、訴訟費用(175万9854円)を支払いました。完済は2014年10月です。
企業庁はこれまで、信漁連を介して漁協に不正な公金を支出したり、漁協と不明朗な取り引きをしたりすることで、三番瀬の埋め立てなどをすすめてきました。貸付金の全額返還は、長年にわたる県と漁協の癒着にメスを入れるものとなりました。
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