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■シンポジウム「日本の湿地を守ろう 2016」講演要旨

貝屋の欲目から診た日本の干潟(貝産地)の現状

アジアの浅瀬と干潟を守る会 山本茂雄さん
写真3-1

★二枚貝の減少と開発は相関関係

 私は貝の卸業者をしていた。ハマグリを中心に扱っていた。
 ハマグリは、もともと豊川河口には豊富にあった。ところが2009年以降、ハマグリ単独の統計がとられなくなった。「その他の貝」の項目に合算されるようになった。それくらい数が減った。環境省のレッドリストにも、絶滅が心配される貝類のなかにハマグリが含まれている。
 2011年の東日本大震災の大津波以降、千葉県の九十九里浜ではチョウセンハマグリが少し増えている。しかし皮肉にも、ハマグリの保全に力を入れていた茨城県の鹿島灘はハマグリが減ってしまった。
 利根川河口堰ができるまでは、利根川河口の銚子でも大きなアサリがたくさん捕れていた。九十九里浜や鹿島灘のほうにも利根川から砂が供給されていて、チョウセンハマグリが売りつくせないほどたくさん捕れていた。
 ダムや河口堰ができると、アサリやハマグリ、シジミは極端に捕れなくなる。二枚貝の漁獲量はツルベ落としのような急降下を描く。二枚貝の漁獲を示すグラフにいろいろな公共事業を加えると、貝の減少と開発工事は相関関係があることがわかる。

★ハマグリ類の9割以上は輸入

 二枚貝の流通を示すグラフをみると、国内産はどれもこれも捕れなくなって、地を這(は)うような状態になっている。ハマグリ類にいたっては、その9割以上が輸入で占められている。
 輸入の中心はシナハマグリである。かつては韓国や北朝鮮から直(ちよく)にきていた。韓国も、最大の産地だったセマングムが大規模干拓で消失したため、日本同様、中国を介して北朝鮮産のシナハマグリが流通している。中国も、かつてシナハマグリの産地だったところが海底油田の一大拠点になったりしている。ハマグリを捕るよりも石油や天然ガスを掘るほうが儲かるということらしい。
 ヤマトシジミは、ダムと河口堰の影響が統計に見事なまでに反映される貝である。
 三河湾に流れ込む豊川の場合、昔は、現在海になっているところまでヤマトシジミの漁場だった。ところが、水を農業用水にとられてしまってからは塩辛くなって、いまはヤマトシジミの生息域は3分の1に減ってしまった。それでも現在、年間200トンぐらいの漁獲がある。青潮がここ5、6年発生してないからだ。
 利根川では、かつては年間4万トンぐらいヤマトシジミが捕れていた。ところが、利根川河口堰ができて利根川のヤマトシジミがなくなったことで、水産物として全国流通するようになった。
 国内のヤマトシジミの漁獲グラフも、右肩下がりとなっている。やや持ち直したようにもみえるが、たぶんもう一段階減少する踊り場ではないかと思っている。

★日本のアサリは最盛期の11分の1に減少

図3-1

 アサリも開発の影響を受けている。開発の影響は関東地域からはじまった。統計上、アサリの最盛期は全国で16万トン(1983年)ぐらいの漁獲があった。ところが昨年の速報値では1.4万トンまで落ちたそうだ。最盛期の11分の1に落ちてしまった。庶民的な食材だったアサリも、種の絶滅を心配しなければならないレベルにまでなった。
 アサリは、鹿児島から北海道まで全国的に減少している。「日本のアサリ資源は三重県(伊勢湾)と愛知県(三河湾)、静岡県(浜名湖)の3県で支えている」と荒っぽい言い方が許されるほどだ。
 千葉、東京、神奈川3都県のアサリ漁獲量の減り方をみると、最初に東京、次に神奈川がゼロになった。千葉はがんばっていたが、最近は危なくなっている。千葉の昨年の実績は200トンである。最近は外来種のホンビノスガイの漁獲が安定していて、船橋を中心に年間1000トンぐらいの漁獲があるようだ。
 昔、東京湾のアサリは「パンダアサリ」と言われていた。パンダのような模様をしているためだ。ところが最近は輸入貝の模様に変わっている。
 千葉県庁に「観光潮干狩りを続けるために輸入アサリの直播放流をしてますね」とたずねても、「知らない」と返事が返ってくる。ところが各漁協に問い合わせると、潮干狩り客が年間何十万人と来るので輸入の貝を浜にまいているという。そういうことから、輸入貝(外来種)をまくことは規制できないというのが実情のようだ。
 悲惨なのは九州・有明海沿岸の3県(佐賀県、福岡県、熊本県)である。漁獲グラフをみると佐賀県と福岡県のアサリがはじめに減少したことがわかる。とくに筑後川の近傍への影響が目立つ。アサリについては、諫早湾の閉め切りよりも筑後大堰の影響が大きかったのではないかと思う。
 熊本県でも、熊本港の新設など海の領域でかなり開発行為がおこなわれたようだ。沿岸各県の川や浅い海の改変の足し算掛け算が、有明・不知火海の今をつくったのだと思っている。
 これらの地域は、千葉県と同じように1990年代から輸入アサリの大量放流が延々とおこなわれてきた。東京海洋大学の北田修一教授によると、有明海では国内種と大陸種の交雑もみられるという。
 瀬戸内海もアサリの減少がひどい。たとえば山口県である。ここは5mから7mとかなり水深の深いところがアサリの漁場だったため、100kgもある潜水服を着て海底を歩く漁がおこなわれてきた。しかし港湾と空港を同時につくったために、カルスト台地から流れ込む海底湧水が断たれ、最盛期は8500トンあった漁獲がゼロになった。
 大分県も減少が大きい。これらの地域では、量だけでなく質もかなり悪くなった。

★六条潟の稚貝の発生・供給は安定

 愛知県もここ1、2年、アサリが減少している。それが気になっている。
 そういうなかで、六条潟の稚貝の発生と供給はわりに安定している。ほかの2位以下の産地と比べてみると、六条潟の稚貝の発生量はたいへん多いことがわかる。
 六条潟は前知事の時代に埋め立てが止まった。今の知事はもう少し時代を前に進めてくれ、「再生事業をやりましょう」と言っている。いろいろなプロジェクトがはじまっている。小学4年生に川や海にふれてもらうため、六条潟の「山川里海健康診断」もおこなっている。

(JAWAN通信 No.116 2016年8月20日発行から転載)

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