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■2017年「干潟・湿地を守る日」イベント

宝の海をとりもどそう

〜諫早湾閉め切り20年で集会〜


図1-1 図1-2

 ギロチンとよばれる諫早湾の閉め切りから4月14日で20年を迎えました。それにあわせ、潮受け堤防の開門と有明海の再生を訴える市民らが4月8日、諫早市でシンポジウムを開きました。主催は「干潟を守る日2017in諫早実行委員会」です。250人が参加しました。
 諫早湾の閉め切り以降、湾を含む有明海では漁獲量の大幅減少やノリの変色など深刻な被害がつづいています。調整池の水質汚染対策や有明海の再生などに多額の公費投入も続いています。潮受け堤防水門の開門は待ったなしの状態です。ところが、開門を求める漁業者側と、開門に反対する干拓地営農者側がそれぞれ国を相手どって訴訟を起こし、「開門命令」と「開門禁止」の相反する司法判断が並び立つ構図になっています。国(農林水産省)はそれを口実にし、いまだに開門していません。そればかりか、開門しないことを前提として有明海沿岸4県の漁連に100億円の基金案を提示し、漁業者の分断をはかっています。
 実行委員長の大島弘三さんは開会あいさつでこうのべました。
 「日本はいま、いたるところで冷たい風が吹いている。諫早湾の開門もなかなか実現しない。DVDを見たり話を聞いたりしながら、有明海はいまどういう状態になっているか、これから先どうしたらいいか、そういうことをみんなで考えていきたい」
 干潟の海の詩合唱団は、かつての諫早干潟や有明海をしのぶ組曲を披露しました。
 記録映画「苦渋の海」のDVDも鑑賞しました。この映画は、諫早湾や有明海をテーマに30年余り撮影してきた諫早市の映像作家、岩永勝敏さんが制作したものです。過去5作品の映像を再構成し、新たに撮影した漁業風景を加えて40分間にまとめました。諫早干潟にいたムツゴロウなどの様子や、タイラギが採れなくなって窮状を訴える漁業者の姿もおさめてあります。岩永さんは、「日本中の干潟を歩いたが、諫早湾は生物層が厚く最高だった。有明海を駄目にしたのは人間の愚かさだ」と語りました。 日本野鳥の会熊本県支部の安尾征三郎さんは、諫早湾の対岸に位置する荒尾干潟の豊かさや、同干潟がラムサール条約に登録されたいきさつなどを報告しました。
 「よみがえれ!有明訴訟」弁護団の堀良一事務局長は、諫早湾の開門をめぐる裁判の現状を報告しました。堀さんは、「開門義務を負う国は、開門差し止め訴訟の裁判で納得できる説明をしていない」と批判し、「漁業者や農業者などのいさかいを解決し、地域のしこりをなくすためには、話しあいで決着することがいちばんだ。話しあいによって農業、漁業、防災の共存と開門を実現しよう」とよびかけました。
 集会で採択された宣言文にはこう記されています。
 「諫早湾は、利害関係者といわれる人たちだけの海ではありません。われわれ現世代だけの海でもありません。水門を閉じることで、諫早の次世代の可能性を閉じてはならないのです。われわれはもっともっと諫早湾の未来を語り合わなければなりません。水門を開けないというギロチンに継ぐ二度目の後悔は、諫早市、長崎県にとどまらず、世界の環境史に最も愚かな選択として再び刻まれることになるでしょう」
 シンポジウムを新聞各紙が写真入りで大きく報じました。長崎新聞、佐賀新聞、西日本新聞、朝日新聞、毎日新聞などです。
 翌9日は国営諫早湾干拓事業でつくられた干拓地(農地)などを見学です。NHKと朝日新聞の記者も同行取材しました。

写真1-1
諫早湾閉め切り20年を迎え、「宝の海をとりもどそう」と開門実現を訴えた集会に250人が参加。諫早干潟の豊かさをしのぶ合唱組曲も披露された
=4月8日、諫早市中央公民館、中山敏則撮影
写真1-2
翌日は干拓地(農地)などを見学。右端はNHK記者、その左は朝日新聞記者=中山敏則撮影

■膨れあがる諫早湾閉め切りのツケ

 〜数字でみる諫早湾干拓事業〜
 
◇総事業費 2530億円
 潮受け堤防工事 964億円
 内部堤防工事 286億円
 排水門工事 218億円
 農地造成 145億円
 その他工事 162億円
 その他(漁業補償、設計など) 755億円

 
 ※着工時は1350億円の計画。ほぼ倍増
 
 ◇農地1haあたり費用         3億7648万円
 干拓農地666haで40事業者が畑作を営む
 ◇潮受け堤防の長さ         7km
 湾の奥3分の1、約3500haを閉め切る
 ◇消えた干潟           1550ha
 ムツゴロウなどがいた国内最大級の干潟が消滅
 ◇費用対効果              0.81
 土地改良法で望ましいとされる1を下回る
 ◇干拓農地の売却額          51億円
 672haを国が長崎県の公社へ一括売却
 
 〔今度も増え続ける三つの数字〕
 
 ◇有明海再生事業費   (2016年度まで)  498億円
 漁業者が求めた開門の代わりに国が続ける 農林水産省分
 ◇調整池の水質保全費  (2015年度まで)  352億円
 堤防で閉め切られた池の水質汚染対策が続く
 ◇開門できず払った罰金(2017年3月現在) 7億6500万円
 判決を守れなかった国が支払う間接強制金
 (4月6日付け『朝日新聞』より)

■教訓学びとって

 〜宮入興一・長崎大名誉教授(財政学)の話〜
 
 農水省は、諫早湾干拓事業の費用対効果を算出する際、失われる干潟の浄化能力や、漁業の被害を勘定に入れていなかった。そのつけを今払っているということだろう。国民の血税による終わりの見えない後始末だと言える。公共事業が無限の国民負担を強いることもあるという、最悪の事例だ。この教訓を、国も納税者も学びとらなければならない。
 (4月6日付け『朝日新聞』より)
 

(JAWAN通信 No.119 2017年5月30日発行から転載)

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