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和解への模索 諫早湾開門への戦いは続く

諌早湾の干潟を守る諫早地区共同センター
(諫干共同センター) 大島弘三

 はじめに、諫早湾干拓事業の主な経過をみてみる。
 ◇1989年(平成元年)11月
 干拓工事着工    以来28年
 ◇1997年(平成9年)4月
 潮受け堤防閉め切り 以来20年
 ◇2008年(平成20年)4月
 営農開始      以来9年
 ◇2010年(平成22年)12月
 開門判決      以来7年
 
 この間の裁判、市民活動、干拓営農地の現況を報告する。

1.和解への流れ

 ◇2015年(平成27年)10月 最高裁勧告
 紛争を抜本的かつ総合的に解決するには、話し合いによる以外に最良の途はないと思われる。
 ◇2016年(平成28年)1月 長崎地裁 和解勧告
 和解による解決の必要性が高いと考え、対立する関係者が和解協議という話し合いの場をもち、一定の方向での解決をめざすのが相当と考える。
 ◇2016年(平成28年)5月 国(農水省)
 開門しない代わりの漁業改善措置として「基金案」を提案。100億円の基金を代償に和解を求める。

2.「よみがえれ!有明訴訟」弁護団の和解協議案

 2018年(平成30年)1月、福岡高裁で審理されている請求異議控訴の審理のなかで、「進行についての意見─今こそ紛争の解決に向けた新たな和解協議勧告を」と題する意見書を提出した。
 その要旨はこうである。
 
 (1)円満かつ妥当な終結のためには和解協議が求められている
 その理由として、①紛争の長期化、②多くの訴訟が提起され、紛争が限りなく繰り返され、複雑化、深刻化している、③終局的解決の見込みが得られない。
 
 (2)和解協議案の内容
 ①干拓農地への影響が少ない手法で開門し、開門調査を実施する。
 ②両者協議のうえ、開門準備工事を確定し、実行する。
 ③農業振興基金を創設し、開門にともなう万一の被害発生の保証と背後地の旧干拓地の農業振興にあてる。
 
 「和解」というゴールへの認識はあるものの、その過程の道をそれぞれが異なる思いで進行しようとしている。しかし、裁判所は具体的な話し合いのイニシアチブをとらない。事業主体の国も「開門しない」前提での選択肢に傾いている。こうした状況では話し合いの場の設定もありえず、建設的な意見の交換に進展する気配は感じられない。

3.諫干共同センターが諫早市長に請願書を提出

 2017年9月、共同センターは「諌早湾開門に関する見解を求める請願」を諫早市長に提出した。請願の趣旨、具体的項目、経過はつぎのとおりである。
 
 ◆趣旨
 開門をめぐる裁判の中で和解が提案されたが不調。その行方、展望も開けない。諌早湾調整池の状況は改善の兆(きざ)しもなく、有明海漁業生産への負荷が増す。このさい市長が率先して広く市民との対話を図り、開門をめぐる情報の共有と解決への道のりを推進されるよう請願する。
 
 ◆具体的な項目
 (1)福岡高裁の確定判決を守るよう、国に要請する。
 (2)科学的な調査で事実関係を確認するために、開門調査を国に要請する。
 (3)諫早市の国に対する要請書にある「開門しない形での有明海の再生」の根拠を明らかにする。
 (4)市民による対話での解決を図る。
 
 ◆経過
 2017年10月、諫早市干拓室長から電話で「文書は受けとりました」「回答はしない」との返事があった。2018年1月、「行政が市民と対話することが民主主義の根幹である」として市長に対して再度請願し、文書回答を求めた。

4.干拓営農者が長崎県農業振興公社に損害賠償を求めて提訴

 2018年1月、農業生産法人2社が農地の貸主の公社と事業主体の国、県を相手に200万円の損害賠償を求めて長崎地裁に提訴した。
 2社は今年1月、4haの農地でレタス、ブロッコリーなどをカモに食べられ、4000万円の被害を受けた。営農者は数年来、調整池に飛来したカモの被害を訴えていたが、公社などは具体的な対策を怠った、としている。
 記者会見で法人代表は「農業を安心して続けられるなら開門してもかまわない」と述べた。
 昨年12月、公社は営農者2社に対し賃貸借契約更新の解除を通知し、今年3月までの農地返還を求めている。これは今年の契約更新に際し「農地のリース料を滞納した場合には契約解除する」との同意書の提出を求められ、営農者が拒否したのがその理由である。
 現在、干拓農地はその3割が不等沈下により埋めこまれた暗渠の排水不良をきたしていることが、公社による農家へのアンケート調査で明らかになっている。
 私たちはあくまで話し合いが基本であるとし、話し合いを問題解決の手段として追求していく。それが遠回りでも開門につながる道だと考えている。

写真2-4
国に対する抗議集会で開門を訴える参加者=2017年4月27日、諌早湾潮受け堤防北部排水門で
(JAWAN通信 No.122 2018年2月20日発行から転載)

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