諫早湾干拓地農漁業共存を目指す
たたかいがはじまった
1 本年7月30日の福岡高裁判決
「安心して農業できる」干拓営農者判決に安堵
地元西日本新聞の見出しです。2018年7月30日、福岡高等裁判所は、「諫早湾干拓地調整池の開門を命じた確定判決に基づく強制執行を許さない」という判決をしました。開門を命じた2010年12月の福岡高裁確定判決を自ら否定し、不漁に苦しむ漁民たちの願いを一蹴した判決です。一方、干拓営農者は、決して「安堵」したと言える干拓地営農の状況ではないのです。そこで、漁業と農業の共存を目
指して、被害を回復する共同のたたかいが、今はじまったところです。
2 干拓地営農者と開門差止判決
干拓事業は2008年3月に終了し、同年4月から干拓地における営農が開始されました。国から干拓地の一括配分を受けた財団法人長崎県農業振興公社が、長崎県の支援を受け、各営農者に干拓農地をリースするというリース方式によって営まれています。このリース事業により、41経営体が賃貸借契約に基づいて入植しました。
しかし、2010年に調整池の開門を命じた高裁判決が確定し、開門が現実化したことに対し、干拓地に入植した営農者や、周辺の旧国営干拓地に入植していた農民は、開門によって農業が重大な被害を受ける、という危惧感から、開門に反対する取組みを開始しました。さらに開門に反対する人達は、2011年4月、長崎地裁に国を被告として、開門判決を履行しないよう差止請求を提訴しました。国は開門をしたくない立場なので、この裁判は両当事者の「なれあい訴訟」、国がまったく勝つ気がない「無気力訴訟」になることが明らかでした。2017年5月に開門禁止判決が言い渡されました。裁判所が下した開門を命じる判決を履行してはいけないという、驚くべき結論ですが、国は勝つ気がない無気力訴訟ですから、国は当然のように敗訴判決を認め、控訴しませんでした。
3 干拓営農地で現在生じている重大な被害
営農開始から10年が経過した現在、「開門」などしてはいないのに、農地自体が持つ欠陥と、淡水化した調整池の存在自体による重大な被害がすでに明らかになっています。
第一に、排水不良が著しい欠陥農地です。
公社が実施したヒアリングでは、諫早湾干拓農地の全147区画のうち、3割の45区画(201ha)で「排水不良」の回答があり、目視でも16区画(76ha)で問題を確認しました。
第二に、調整池の水が使えない
調整池の水は水質が悪く、掃除しないと、しじみの殻やフナ等のゴミが詰り、夏場は腐った匂いがし、農業にも悪い状況です。
第三に、淡水化した調整池(潮受け堤防の閉切り)による被害
(1)カモ食害
1997年の潮受け堤防の閉切り以降、冬季に食害をもたらすマガモ、コガモ、ヒドリガモという4種類のカモが増えています。諫早湾干拓環境保全型農業推進協議会の資料によると、2016年の11月から2017年2月までのカモ食害は、レタス、ブロッコリー、大麦、キャベツの各作物に、合計約83ha(施設園芸を除く野菜経営面積473haの17%)の被害面積で、被害金額は約3152万円とされています。
(2)冷害・熱害
諫早湾干拓農地では、調整池が淡水であるため、海水に接する沿岸部と違い、夏は暑く、冬は寒くなっています。
このように将来行われる開門によって、被害が生じるという心配以上に、現在すでに開門しない淡水の調整池の存在自体によって、重大な被害が生じており、また、干拓農地自体が持っている欠陥については、開門に関係なしにただちに解決をしなければならない問題なのです。決して開門しないということが確定すれば、営農についてはそのままで良かったということではないのです。
4 農業も漁業も共に前進する取組みを
2018年1月30日、新干拓地の営農者(法人)2社が国、長崎県及び公社に対し、カモの食害等の損害賠償請求を求めて提訴し、さらに同訴訟の原告営農者らは、同年2月26日、損害賠償請求に加えて、開門請求も追加したのです。漁業者だけでなく、新干拓地の営農者も開門こそが現状の被害を回復できる手段だと考え、開門を求めたのです。私たちは、営農者と共闘するための補助参加を申立て、裁判に参加して共闘する体制を確立しました。
私たちは、ほかの営農者も現在生じている被害発生防止としての回復を求めて提訴し、さらに多くの営農者との共闘を求め、取組みを開始した動きをさらに大きくして、幅広い漁民と農民が多数参加してくる、みんなが良くなる強力な運動として展開していきたいと願っています。
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