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■NHK「さわやか自然百景」より

かけがえのない生命(いのち)の楽園

石垣島 名蔵アンパル


「日本の湿地を守ろう 2019」は沖縄の石垣島でひらきます。日本湿地ネットワーク(JAWAN)と「アンパルの自然を守る会」の共催です。ラムサール条約湿地の名蔵アンパルも見学します。昨年12月8日放送のNHK「さわやか自然百景」が名蔵アンパルをとりあげました。以下は放送内容です。

◇     ◇

*多様な生命でにぎわう湿地

沖縄県の石垣島。その一角に、海とつながる湿地があります。名蔵アンパルです。

潮が引くとあらわれる干潟。そこはカニたちの楽園です。湿地の奥には緑豊かなマングローブ林があります。ここも小さな生きものたちであふれています。

秋にはたくさんの渡り鳥が舞い降ります。夏から秋、多様な生命でにぎわう石垣島の湿地をみつめます。

図5-1

*亜熱帯地域ならではの多様な環境

沖縄本島から南西におよそ400キロの石垣島。周囲は160キロほど。沖縄県で3番目に大きな島です。島の西側、名蔵川の河口に、砂州によって海と仕切られた湿地があります。名蔵アンパルです。

名蔵アンパルは東西およそ1.5キロ、南北およそ2キロです。湿地は潮の満ち引きの影響を受け、干潮になると干潟があらわれます。その奥には広大なマングローブ林がみられます。ここは、亜熱帯地域ならではの多様な環境からなる湿地です。

6月、強い日差しが照りつける名蔵アンパル。よくみると、干潟をなにかがうごめいています。ミナミコメツキガニの大群です。甲羅の幅は1センチほど。前歩きで行進します。鹿児島県から南のあたたかい島にくらすカニです。

白いハサミをふっているのはオキナワハクセンシオマネキ。立派なハサミの持ち主は大人のオスです。メスやこどもには大きなハサミはありません。夏は恋の季節。オスはハサミをさかんに振ってメスをさそいます。

リュウキュウコメツキガニは、ハサミで砂を口にはこびます。砂についた有機物などをたべます。残りは丸めて捨てます。

ここでみられるカニはおよそ60種。名蔵アンパルは貴重な楽園です。

*広大なマングローブ林

干潟の奥にあるマングローブ林は広さが60ヘクタールもあります。

マングローブは、潮が満ちて水につかる場所に育つ樹木の総称です。海水と淡水の混じる汽水域の環境にうまく適応して生きています。

根をタコの足のように広げているのはヤエヤマヒルギです。この根はやわらかな泥や砂地で木を支えるのに役立っているといいます。

赤い花をつけているのはオヒルギです。地中からもりあがるように顔をだしているのは根です。水につかった地中では十分に呼吸ができないため、根を地上にだして呼吸をしています。

緑豊かなマングローブ林のなかに、黄色い枯れ葉をつけた木があります。汽水域に育つマングローブは、水とともに塩分も吸収します。ヤエヤマヒルギやオヒルギは、余分な塩分も葉にためこみます。黄色い葉はそのような葉です。葉を落として塩分を排出します。

おやっ! なにかが落ち葉を穴の中に入れようとしています。正体はミナミアシハラガニです。マングローブ林をすみかにしています。

ミナミアシハラガニは慎重に落ち葉に近づいてはこびます。このカニにとって、マングローブの葉は大切な食糧です。

葉を巣穴に入れるのにてまどっていると、もう一匹やってきました。そして葉をちぎりはじめます。あとからやってきたカニに葉を横どりされてしまいました。横どりされて残った葉を巣穴にはこびます。これでようやく食事です。

潮が満ちてきました。マングローブ林が水につかります。そこへ、満ち潮にのって小さな魚たちがやってきます。オキナワフグです。ミナミフエダイの幼魚も。水につかったマングローブ林は魚の楽園です。複雑にからみあう根は、魚たちの格好の隠れ場所となっています。マングローブ林は、小さな生きものたちの大切な拠り所なのです。

この時期、ヤエヤマヒルギに変化がみられます。枝先にぶらさがる細長いもの。これは胎生種子とよばれ、種(たね)が親木についたまま発芽したものです。

胎生種子は、長さ20~30センチになると落下します。落ちた胎生種子は、潮にのってはこばれます。そして根をおろす場所をみつけ、子孫を残すのです。

*50種以上の渡り鳥

10月。石垣島に秋のおとずれをつげる生きものが姿をあらわしました。島の上空を舞うのはサシバです。本州などの繁殖地から冬を越すため東南アジアなどへ向かう途中です。島の上空を、1000羽を超えるサシバが渡っていきます。

秋。名蔵アンパルはその様子が大きく変わります。たくさんの鳥が干潟に舞い降ります。シギやチドリの仲間です。北国からやってきました。ここで冬を越す鳥。さらに南へと旅をつづける鳥。そうした鳥たちが羽をやすめます。

めずらしい鳥も姿をみせます。クロツラヘラサギです。絶滅が心配されている鳥です。 クロツラヘラサギは毎年、繁殖地の朝鮮半島などから数羽渡ってきます。

渡り鳥たちが名蔵アンパルをおとずれるのには理由があります。

こちらはシロチドリです。あっ! なにか捕まえました。カニです。イソシギもカニを捕まえました。干潟には、数えきれないほどのカニがくらしています。鳥たちのめあては、そうしたカニです。干潟は格好の食事場所なのです。名蔵アンパルをおとずれる渡り鳥は50種以上にのぼります。

鳥たちが羽をやすめる干潟の片隅で小さな青い葉をみつけました。ヤエヤマヒルギが落とした種が根をおろしたのです。やがて若いマングローブも大きく成長し、多くの生きものを育むことでしょう。

石垣島名蔵アンパル。干潟やマングローブが広がる海辺の湿地はかけがえのない生命の楽園です。

(JAWAN通信 No.126 2019年2月28日発行から転載)

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