アンパルの変遷と再生計画
谷崎樹生さん
昔のアンパルには、こんなに広いマングローブ林はなかった。昔は干潟がもっと広がっていた。1962年当時の航空写真をみると、マングローブ林が島状にある。そのあいだに人が通れるだけの水路がある。1985年に浦田原排水路ができてから状況がいっきに変わった。
1995年には、排水路の河口がヤエヤマヒルギの丘に変わってふさがってしまう。島状のマングローブ林のあいだにあった水路もヤエヤマヒルギの枯れ木で埋められてしまう。2002年はマングローブ林が最大規模になる。
そして2006年に大きな台風があった。茶色になっているのはマングローブ林が倒れてしまったところだ。枯れたところは裸地化した。
つまり、浦田原排水路ができる前は、マングローブ林の拡大はほとんどなかった。ところがその後いっきに拡大する。台風のあと木がたくさん倒れて枯れ、あちこちに空き地ができた。
注目すべきは、浦田原排水路の河口の南側だ。ここは台風の被害を受けていないのに空き地になっている。大きな台風がこなくても木が徐々に立ち枯れるという現象が、あちこちでいまも進んでいる。
昨年、気象庁が過去の潮汐偏差(天文潮位と実測潮位の差)をグラフであらわした。異常高潮位がおこったことがわかるようになっている。1994年8月をみると、潮位が極端にあがっている。70cmほど異常にあがった。そのときの実際の潮位は300cmぐらいだ。たぶんアンパルのオキナワアナジャコの個体群を壊滅させたのは、この異常高潮位だと思う。ただし空気が抜けてしまえば、だ。つまり、地下に自生するカニが多く、カニの巣穴から空気が抜けてしまうとオキナワアナジャコは死んでしまうのだと思う。
異常高潮位は1970年代ごろからおこった。70年代に2回、80年代に3回、90年代に4回、2000年に入って4回、2010年以降で3回だ。このように10年に3回か4回ぐらい異常高潮位が起きている。
ところが、アンパルの大変動が起きたのは2006年だ。それ以前は、オキナワアナジャコの個体群はダメージを受けていない。これはカニの巣穴が増えたからではないか。つまり、干潟の富栄養化がおこって、アナジャコの地下に寄生するカニの巣穴が増えてしまった。このカニの巣穴が原因でアナジャコの穴の空気が抜けてしまう。それが問題ではないかと思う。
オキナワアナジャコがいなくなると有機物が多くなり、土のなかの環境が悪化する。無酸素状態になる。硫化水素が溜まって根腐れを起こす。オキナワアナジャコがトンネルをたくさんつくってくれると、潮の満ち引きで水の入れ替えがあるので、マングローブの木は助かる。だが、オキナワアナジャコが壊滅すると土壌の環境が急激に悪くなるので根腐れが起こる。そこに台風がくると木が倒れる。
浦田原排水路ができるまでは、そこは湿田と湿原であった。マングローブ林もあって、水が干潟に直接流れこむことはなかった。水がじわじわと分散していた。湿地草原は水牛の遊び場だった。水牛も水も自由に遊べるような場所が昔はあった。だから大雨が降っても、陸からの影響が干潟に直接でることはなかった。バッファゾーン(緩衝帯)があったからだ。
アンパル再生計画案
1985年に浦田原排水路ができた。土地改良(区画整理)が終わると立派な田んぼになった。トラクターの乗り入れもできるようになった。
しかし、そもそもの問題は石垣島精糖工場からの有機物流入と浦田原排水路からの土砂流入だ。製糖工場からの有機物流入はもっとうまく処理できるのではないか。浦田原排水路から流入する土砂は、かつてのように湿地草原などでうまく受けとめる。いわばフィルター効果を期待するということだ。そうやって湿地を回復させればいい。
幸いなことに、湿地草原の大半は環境省が買いあげて国有地になっている。ここをうまく活用すればアンパルも幸せになるのではないか。われわれはそのように考えている。
有機物の発生源となっている製糖工場の排水をオキシデーションディッチ(酸化溝)という素朴なシステムで制御する。オキシデーションディッチは、水車で水をぐるぐるまわすものだ。湿地草原にループ状の素掘りの溝を掘り、製糖工場の排水を流し込んで水車で曝気攪拌する。有機物で汚染された水は、酸化と還元をくりかえさないとうまく浄化できない。
もうひとつは、浦田原排水路が湿地草原の中までズドンときているので、これを撤去する。そして湿地草原に掘った遊水池で水と土砂を受けとめる。かつて流域各所に点在していた淡水湿地という環境の復元である。
この二つのシステムを組みあわせれば、アンパルは若返るのではないか。生えるべきでなかった場所に生えてしまった木は徐々に枯れる。溜まるべきでない場所に溜まってしまった土砂や有機物は日々の潮汐流で洗いだされるだろう。
われわれが提案したいのは、図で示した「アンパル再生計画案」だ。
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