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■石垣島シンポジウムの報告(要旨)

アンパルの自然を守る会の10年

アンパルの自然を守る会 事務局長 山崎雅毅さん

写真7-1

●「守る会」の結成

「アンパルの自然を守る会」の結成は2009年3月である。結成前はアンパルをラムサール条約に登録する運動が中心だった。運動によって、アンパルは2005年11月にラムサール条約に登録された。2007年8月には「西(いり)表(おもて)国立公園」に編入され、「西表石垣国立公園」となった。

●アンパルとその水系をめぐる諸問題

アンパルとその水系ではいろいろな問題が起きている。

◇石垣島製糖工場からの高栄養の排水

この排水がマングローブ林域拡大と干潟減少のひとつの原因になっている。野鳥の生息域減少にもつながっている。谷崎樹生さんが講演で話したアンパル再生計画案の提案も、発想の出発点はそこにある。

◇赤士の流入と土地改良事業

これは沖縄の環境破壊の最大の原因である。土地改良事業は失敗した。その失敗をとりかえすための方策として、サトウキビの農業のあり方を変えていくとりくみがすすめられている。春植えや株出し、畑の勾配修正、沈砂池の設置などである。

◇浦田原排水路の建設による赤土流入とマングローブ林の急速な拡大

その対策として、谷崎樹生さんが「アンパル再生計画案」を提案している。

◇名蔵ダム

名蔵ダムも大きな影響を与えている。名蔵ダムは農業用だ。できてからまだ十数年しかたっていない。山から流れてくる栄養分は非常に大事だ。それをダムでせき止めている。海の栄養分を減らしてしまい、名蔵海岸の生態系を貧弱にしてきた。ダム底に溜まっている水の放流が必要となっている。

◇コンクリート三面張り

神田排水路、嵩(たけ)田(だ)排水路、浦(うら)田(た)原(ばる)排水路は、もともとは川だった。たとえば浦田原排水路は南風川(ハイガー)という川だ。それをコンクリートの三面張りにして排水路にしている。川をコンクリートの三面張りにしたため、淡水湿地がなくなってしまった。その結果、淡水系の生物が激減した。

それらを川として復活させなければならない。ということで、石垣市のむらづくり課が浦田原排水路のハイガー再生計画を提案している。それをしないと、アンパルも危なくなる。

コンクリート三面張りの河川がよくないということは国交省も認めている。近自然型の河川に変える方向で努力しなければならない。

◇リゾートホテルの増設

白水川水系には貯水タンクが1基できているが、さらに4基増やすといっている。なぜ増やすかというと、3000室以上のホテルの建設計画がある。

石垣市は水が足りない。一昨年の渇水のさいは給水を停止したこともある。

水の問題は、石垣島のような島では決定的に重要だ。観音堂では、すでに水がでなくなったところもある。それなのに、3000室以上も増やすという。水をどうするのかということを考えないで開発だけがすすんでいる。これにきびしい警鐘を鳴らす必要がある。

アンパル水系では、ユニマット社によるリゾートホテル(300室以上)建設計画が先の見通しがないまますすもうとしている。陸上自衛隊のミサイル基地建設計画もおなじだ。

◇マングローブ林の拡大による干潟の減少

「マングローブ林が拡大すれば緑が増えるのでいいことだ」と思っている人も多い。わざわざマングローブを植えるひともいる。わたしたちは「アンパルにはぜったいに植えないでください」と言っている。

干潟にすむ生物がいないと生命の連鎖ができない。野鳥もやってこなくなる。したがって、マングローブだけが増えればいいというものではない。他方で、マングロープの縞(しま)枯れ現象も問題になっている。

◇不法投棄ゴミ

10年前のアンパルは不法投棄ゴミの山であった。そのときとくらべると、不法投棄はずいぶん減った。やはりきれいにしておくしか方法はないと思う。

かつては、家具、家電、自転車、バイク、コピー機、ボートなどの大きなゴミもたくさんすてられていた。いまは、そうしたゴミはなくなった。名蔵小中学校の年中行事として「アンパル清掃」が20年以上とりくまれてきた。そのこともあって、不法投棄ゴミは徐々に減りつつある。しかし、まだ多い。当会は、環境省からの受託事業として清掃をしていたこともあった。現在はそれはやっていない。自主的事業として市民参加型の清掃活動をしている。

◇ナイトカヌー

夜、カヌーでアンパルに侵入されると野鳥に大きな影響がでる。エリグロアジサシの営巣がなくなるなど、野鳥のネグラとしての環境を奪うことになる。そのため、アンパルにナイトカヌーを入れることを禁止するよう環境省と石垣市に要請している。それ以前の問題として、カヌー事業者の登録がまったくされていない。また、カヌー事業者などの実態がまったく掌握されていない。これを早急にやらないといけない。

●「守る会」の活動

こうしてアンパルをめぐる課題を整理してみると、課題は山積みだ。それらをどうするかということで、当会の日常活動がある。昨年は子どもアンパルクラブを10回おこなった。子どもたちに集まってもらってアンパルで遊んでもらう。魚やカニなどにふれあい、自然に親しんでもらう。これがいちばん大事だと思う。

小中学校の観察会もおこなっている。石垣青少年の家でおこなわれている宿泊学習もずっと手伝っている。昨年は、NHK「さわやか自然百景」の取材に協力した。陸上自衛隊のミサイル基地建設にかんするテレビ朝日と東京新聞の取材にも協力した。石垣島のミサイル基地建設問題を全国的に報道したのは東京新聞がはじめてだった。そこからはじまってテレビ朝日も取材にきた。このように取材協力も多くなっている。

さまざまな調査もおこなっている。そうした調査にもとづいてアンパルの自然再生計画案をまとめ、沖縄県に提案した。提案が採用されれば、協力したい。

(JAWAN通信 No.127 2019年5月30日発行から転載)

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