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■石垣島シンポジウムの報告(要旨)

東京湾三番瀬を守りぬくために

三番瀬を守る連絡会 代表世話人 中山敏則

図12-1

東京湾三番瀬では、第二東京湾岸道路計画が大きな問題になっている。三番瀬保全団体は、この道路の建設を1993年の発表以来26年くいとめてきた。しかし国交省と千葉県はあきらめない。2019年1月17日、第二湾岸道路建設にむけた検討会の設置を石井啓一国土交通大臣が表明した。国交省は3月28日、大臣表明を受けて第1回「千葉県湾岸地区道路検討会」を非公開でひらいた。

*世論を味方につける

三番瀬保全運動でもっとも重視しているのは世論を味方につけることである。

千葉県は1993年、三番瀬埋め立て計画を発表した。それに第二湾岸道路も盛りこまれていた。三番瀬保全団体は「東京湾をこれ以上埋め立てさせない」を合言葉に反対運動をすすめた。運動では一般市民への働きかけを重視した。世論を高めるためには、高齢者、若者、女性、サラリーマン、子どもなど幅広い層にわかりやすく訴えることが必要だ。現地観察会のほか、コンサートや写真・絵画展も旺盛にくりひろげた。これらは敷居が低い。シンポや集会に参加しないひともたくさん来場する。埋め立て計画の白紙撤回を求める署名は30万人分を集めた。こうした多彩な運動をねばり強くつづけた結果、埋め立て中止を求める世論が大きく高まった。

2001年春の千葉県知事選では三番瀬埋め立てが最大の争点となった。朝日、読売、毎日の3紙が選挙中におこなった県民世論調査では、いずれも「三番瀬埋め立てに反対」が過半数を占めた。それをみた堂本暁子候補は、選挙戦の後半で「三番瀬埋め立て計画の白紙撤回」を唯一の公約に掲げ、当選した。堂本知事は、埋め立て中止を求める運動と世論の高まりにおされて2001年9月、埋め立て計画を白紙撤回した。

県はその後、第二湾岸道路を三番瀬に通すことをめざした。そのために、市川側の猫実川河口域を「三番瀬再生」や「干潟的環境形成」の名で人工干潟にする計画をうちだした。人工干潟造成工事のさいに沈埋方式で第二湾岸道路を通すことが目的である。

三番瀬保全団体はこの計画を中止させるためにさまざまな運動をくりひろげた。三番瀬の恒久保全策としてラムサール条約登録を求める署名運動もくりひろげた。この署名は現時点で17万人分を県知事に提出している。このようなとりくみをマスコミがひんぱんにとりあげてくれた。2016年10月、人工干潟造成計画は中止になった。

*行政交渉の有効活用

三番瀬保全団体は2009年4月以降、10年間で行政交渉を74回おこなった。交渉はいくつも成果を生みだした。

第二湾岸道路にかんする交渉では、三番瀬保全を求める世論が背後にあることを行政にしめすことが必要である。第二湾岸道路を三番瀬に通そうとしたら反対運動がわき起こる。それを認識してもらうことが必要だ。そのため、できるかぎり多くの参加者が発言するようにしている。1回の発言は1分以内を原則にしている。今年2月4日の国交省交渉では17人、3月15日の国交省千葉国道事務所との交渉では14人が発言した。発言のさい、喧嘩腰になったり、相手を罵倒したりすることは禁じている。

いうまでもなく、行政はムダなことばかりやっているわけでない。いいこともたくさんやっている。こうした関係職員の努力や苦労をきちんと評価することも大事だ。

たとえば既存の湾岸道路(国道357号)の改良である。国交省は国道357号の渋滞緩和策として、さまざまな道路改良をすすめている。右左折レーン設置、車線増設、地下立体化などである。これらの道路改良によって、渋滞がかなり緩和された箇所もある。渋滞が解消された箇所もある。わたしたちはこのような努力を高く評価し、交渉では「道路改良を今後もどんどんすすめ、三番瀬を通る第二湾岸道路の建設することはやめてほしい」と訴えている。

前述のように、国交省は3月28日、第二湾岸道路建設に向けた第1回検討会を非公開でひらいた。配布資料には、三番瀬を避けるかたちのルート略図が提示されている。開催結果概要には、今後の進め方として「三番瀬再生計画との整合性の確保」が記されている。翌29日の『朝日新聞』(千葉版)は、ルート上にある干潟「三番瀬」の環境に配慮しながら計画をつくることを確認した、と報じた。これは運動の成果である。だが、油断はできない。

写真12-1
2019年2回目の三番瀬市民調査。この調査は第二東京湾岸道路が通る予定の猫実川河口域を対象にし、道路建設を阻止するうえで大きな役割をはたしている。法政大の学生も毎年20人ぐらい参加している=2019年5月6日

*裁判所には頼らない

三番瀬保全団体は第二湾岸道路建設の差し止め訴訟はおこさないことにしている。行政訴訟では万にひとつも勝ち目がないからだ。

公共事業をめぐる行政訴訟は、事業の手続きによほどの瑕疵(違法性)がないかぎり、原告が勝訴することはない。環境影響評価を形式的に実施すれば、裁判所は環境への影響も問題にしない。

行政訴訟がはじまると、マスコミは事業の問題点や反対運動をとりあげなくなる。また、行政当局は係争中を理由にして議会答弁や交渉を拒否する。弁護士にすべてをまかせるという「おまかせ主義」もはびこる。

こうしたことから、三番瀬の埋め立てや第二東京湾岸建設をめぐる運動では、訴訟ではなく、世論を味方につけた大衆運動で建設を阻止することにしている。

地元の市川市では、昨年4月の市長選で三番瀬の恒久保全を選挙公約にかかげた村越祐民さんが当選した。船橋市も三番瀬を観光の目玉に位置づけるようになった。これらはわたしたちにとって有利な条件となっている。


(JAWAN通信 No.127 2019年5月30日発行から転載)

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