本土からの辺野古埋め立て土砂搬出を止めよう
辺野古土砂搬出反対協議会などが防衛省・環境省交渉
61万人の請願署名を提出
「辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会」(土砂全協)と「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」は6月10日、辺野古新基地建設と西日本各地からの埋め立て用土砂採取・搬出計画の中止を求めて防衛・環境両省と交渉した。また、本土からの土砂採取計画の撤回を求める約61万139人の請願署名を4党1会派の国会議員に提出した。参加者は120人。
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土砂全協は、沖縄県名護市辺野古の海を西日本各地の土砂で埋め立てる計画を止めるため、4年前に結成された。スローガンは「どの故郷にも戦争のために使う土は一粒もない」である。協議会には鹿児島、熊本、長崎、福岡、山口、広島、香川、三重、沖縄の各県などから18団体が参加している。
防衛省とはつぎの3点を中心に交渉した。
①埋め立てに用いる土砂
②大浦湾の活断層と軟弱地盤
③西日本各地からの土砂搬入
◆岩ズリの単価が高すぎる
埋め立てに用いる土砂の問題では、岩ズリの単価が異常に高いことも追及した。岩ズリは岩をくだいたものだ。現在施工中の埋め立て工事は岩ズリを用いている。その単価は1m3あたり5370円である。沖縄防衛局が2014年度に発注した「シュワブ(H26)ケーソン新設工事」などでは、岩ズリの単価は1870円/m3であった。 「あまりに高額でないか」との追及にたいし、防衛省は「資材の単価は需給のバランスなど時期により変動しうるものである」という抽象的な回答に終始した。
◆活断層と軟弱地盤
「活断層の存在について改めて調査すべきではないか」と質した。
しかし防衛省は、「権威ある文献等においては、辺野古沿岸域に活断層の存在をしめす記載はない」「一般的に、空港土木施設や港湾施設を設置するさいは、活断層については文献などの既存の資料による調査を実施している。現地調査までは実施していない」と答えた。
政府は今年3月15日、「地盤に係る設計・施工の検討結果」と題した報告書を国会に提出した。報告書は、大規模な軟弱地盤が広がっているとし、「当初の想定よりも護岸等の安定性及び沈下に影響すると考えられる地層が確認された」と記している。
この点について防衛省はこうのべるにとどまった。「地盤改良工事については今後、沖縄防衛局において具体的な検討をしっかりとおこなう」。
前記の報告書によれば、地盤改良工事の敷砂・砂杭などのために650万m3もの砂が必要とされている。これ以外にもケーソンの中詰などで大量の砂が使われる。これらをあわせると、辺野古新基地建設事業では総量で何万m3の砂が必要になるのか、と質した。防衛省は「地盤改良に必要な材料が確定していないことから、現時点で説明することは差しひかえたい」の回答をくりかえした。
◆特定外来生物の侵入防止策
沖縄防衛局は、辺野古埋め立て用として沖縄県外の西日本各地から大量の土砂を運ぶことにしている。搬入土砂には特定外来生物が混ざる可能性が非常に高い。沖縄防衛局は特定外来生物の高熱処理を2017年度に実験し、「特定外来生物を死滅させるためには高熱処理が有効であるという結果が得られた」とした。だが、膨大な量の土砂を高熱処理することは設備、経費、時間的に不可能である。
防衛省はこう答えるにとどまった。
「実験の結果、特定外来生物を死滅させるためには高熱処理が有効であるとの結果が得られた。特定外来生物の駆除方法については、今後必要におうじて専門家などの意見をふまえながら適切に検討をおこなう」
◆海砂と鉄鋼スラグの使用
つぎは環境省とのやりとりである。
大浦湾の地盤改良工事では大量の砂が必要となる。海砂や鉄鋼スラグの使用も想定されている。海砂と鉄鋼スラグの使用は環境に大きな影響をおよぼす。この点について環境省はこうのべた。
「地盤改良工事のための採取場所などを把握していないため、環境への影響について現時点で答えることはできない。海砂採取による環境配慮については、事業者である沖縄防衛局において適切におこなわれるものと認識している」
「鉄鋼スラグの安全性については、製品によって性状が異なるため、個々の事業において水環境への影響などをモニタリングにより十分に確認するとともに、地域における丁寧(ていねい)な説明や合意形成が重要であると認識している」
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交渉後の報告集会で、北上田毅さん、末田一秀さん、湯浅一郎さんはつぎのようにのべた。3人とも土砂全協の顧問をつとめている。
◎辺野古基地建設に合理性はない
北上田 毅さん防衛省との交渉では鉄鋼スラグも問題になった。防衛省は「埋め立てに用いる材料は検討中なので話ができない」と言った。鉄鋼スラグは環境への影響が大きいので、検討の対象からはずさせることが必要だ。
サンドコンパクションパイルの作業船は日本に15隻しかない。そのうち11隻を2年も3年も大浦湾にはりつけることはできない。日本中のほかの海岸公共工事がストップするからだ。作業船の調達が少なくなると、辺野古埋め立て工事の工程が遅れる。防衛省が言うように4年8カ月どころではない。それよりかなり遅れることが確実だ。じっさいは15年から20年かかる。したがって、辺野古に固執することは普天間飛行場の危険性を長期固定化することになる。
軟弱地盤がある。活断層もある。工期はいつまでかかるかわからない。とんでもない巨額の経費がかかる。そして自然豊かな大浦湾の環境が破壊される。それから辺野古新基地反対という沖縄県民の圧倒的な民意がある。これだけのことがそろっているにもかかわらず、なぜ辺野古に固執するのか。合理的な説明はいっさいつかない。
◎環境省回答は一般論に終始
末田一秀さん環境省には生物多様性や海砂採取、鉄鋼スラグの問題を問うた。回答は一般論に終始し、危機意識はまったく感じられない。
土砂全協はこれまで岩ズリの搬出を問題にしてきた。本土では6県が搬出予定地となっている。海砂の採取地は岩ズリの採取地と別の箇所になる。海砂採取は、環境への影響が大きすぎるということで瀬戸内海ではすでに採取が禁止されている。熊本県も禁止した。いま採取しているのは福岡県、長崎県、沖縄県などだ。海砂採取は環境への影響が大きいので、それをやめさせる運動が必要だ。
鉄鋼スラグは産業廃棄物だ。鉄鋼スラグを産業廃棄物として処分すると金がかかる。そこで、鉄鋼業界はいろいろな使い道をさがしている。いまは、主としてセメントに混ぜている。一部は路盤材としても使われている。これを海砂の代わりに使うのかどうかを確認したかった。しかし、環境省の回答は一般論にとどまった。
◎海砂採取が新たな緊急課題に
湯浅一郎さん◇海砂採取がもたらす環境破壊
土砂全協(辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会)はこれまで、辺野古への岩ズリの搬出を止める運動をつづけてきた。ところがここにきて、海砂の供給を止めることが新たな緊急課題になってきた。大浦湾の軟弱地盤問題が浮上したからだ。
軟弱地盤問題を先に解決しないかぎり、埋め立て本体工事ははじめられない状態になっている。軟弱地盤の改良工事として海砂を使う可能性がでてきた。
海砂も、沖縄県内だけでは供給しきれない。防衛省の答弁をみると、沖縄県外からの海砂搬入も想定しているようだ。
海砂の採取は、1960年代後半から80年代後半まで、瀬戸内海を中心にしておこなわれた。瀬戸内海では、海砂採取によって生態系の破壊が各地でおこった。そのため、まず1998年に広島県が海砂採取を中止した。そのあと、岡山、香川、愛媛も中止した。瀬戸内海では海砂を採取しない方向にすすんだ。
瀬戸内海に代わって海砂を採取しだしたのは九州などだ。現在海砂を採取している県は、福岡、長崎、沖縄、鹿児島、佐賀、山口、高知、大分の各県だ。辺野古埋め立て用の海砂採取候補地は、こうした県のなかからあがるのではないか。
海砂採取がもたらす環境破壊はいかに大きいか。それは瀬戸内海における数十年間の経験がしめしている。
◇当面のとりくみ
当面の具体的なとりくみとして、私たちがめざさなければならないことはなにか。
まず、本土からの土砂採取計画の撤回を求める請願署名だ。きょう、61万というたくさんの署名を国会に提出することができた。これを倍増させたい。署名集めを継続しながら、全国的な世論形成をしていくことが必要だ。
辺野古への海砂供給を止めるというとりくみも必要だ。現在海砂を採取している場所からみて、福岡、長崎、佐賀、鹿児島、山口、沖縄などが候補地になりそうだ。これらのなかで、土砂全協に関係するグループがないのは佐賀県ぐらいだ。だから、土砂全協の組織を基盤にしながらとりくめば、この問題に対応できると思う。海砂の保管方法や採取場所などの実態調査をしながら、この問題に対処していくことが必要となる。岩ズリや海砂の採取候補地周辺における外来生物の分布について、それぞれの地で実態調査をおこなうことも重要だ。
時間的にはまだ余裕がある。さきほどの北上田毅さんの話からすれば、来年の春までは動きがでてこないと思う。
◇約100万種の動植物が絶命の危機
きょうの環境省交渉で私が知りたかったのは、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)が発表した報告書のことだ。IPBESは今年5月6日、「世界中に約800万種と推定される動植物のうち、約100万種が絶滅の危機にある」「海生哺乳類の33%超が絶滅の危機に直面している」とする報告書を発表した。
この報告書をふまえると、生物多様性が非常に豊かな辺野古の海を埋めてしまうということの犯罪性が浮き彫りになる。これをなんとかして止めなければならない。
きょうの交渉で、環境省はこの問題についてきちんと回答しなかった。環境省は防衛省にたいしてモノが言えないのかもしれない。しかし、IPBESの問題にかかわっている担当部局の職員は頭を悩ませているはずだ。生物多様性を後世に残していけるかどうかは、人類が直面している切実な問題だ。私たちは、彼らともつながりながら努力していかなければならない。
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