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野生生物の生息地を兼ねた遊水地の増設を

─水害対策の抜本的見直しを千葉県に要請─

県自然保護連合、県野鳥の会、茂原市民

千葉県内では2019年10月25日、台風21号の影響による大雨で深刻な被害が発生した。11人が死亡。茂原市や佐倉市では河川の氾濫によって住宅街などが広範囲で冠水した。茂原市民からは「大雨が降るたびに自宅が浸水する。茂原から引っ越すしかない」という声もあがっている。そこで県自然保護連合と県野鳥の会、茂原市民は12月13日、県(河川整備課、河川環境課)と交渉した。茂原市など一宮川流域の水害対策を抜本的に見直し、総合治水対策を推進するよう求めた。参加者は17人。

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浸水被害の写真を見せながら治水対策の抜本的見直しを県に求める茂原市の被災者=2019年12月13日、千葉県庁舎

◆河川改修しても甚大な被害

茂原市では、台風21号の影響による大雨によって甚大な水害が発生した。二級河川の一宮川や、その支流の豊田川、鶴枝川、梅田川、小中川の計14カ所で水があふれ、住宅地などが広範囲に浸水した。堤防が決壊しないのに氾濫した。約3400戸の住宅などが被害をうけ、2人が犠牲になった。

茂原市では甚大な水害がなんども発生している。そのため、県は40年以上前から一宮川などの堤防改修や河道拡幅などをすすめてきた。それでも氾濫した。たとえば中の島地区の堤防900mは前年、30cmかさ上げしたばかりなのに越水した。

県交渉で、茂原市民は被災写真を見せながらこう訴えた。

「床上浸水を受けると、日常の生活がいかに幸せだったかということがしみじみわかる。治水対策を抜本的に見直してほしい」

「茂原市民は、地球温暖化によって今回と同じような大雨が来年(2020年)も降ると心配している。堤防のかさ上げなど小手先の技術では水害を防げない。地盤沈下対策も含めた総合的な対策を検討してほしい」

「茂原市の長清水に住んでいる友人の家は、6年前は床上70cm、今回は床上110cmだった。温暖化によって今後も大雨が降る。上流地域の乱開発を止めるなどの抜本的な手をうたないと水害は防げない」

図表5-1

◆総合治水対策の推進を

~真間川流域は水害が激減~

市川市や松戸市などの真間川流域では、遊水地(調節池)、分水路、雨水貯留施設の設置や透水性舗装の推進など、流域全体を考慮した総合治水対策を県が住民参加ですすめている。その結果、真間川流域の浸水被害は激減した。今回の台風21号による大雨では浸水被害がゼロだった。県自然保護連合と県野鳥の会は、「一宮川流域においても、流域全体を対象にした総合的な治水対策を住民参加で推進してほしい」と要望した。

県はつぎのようにのべた。

「真間川流域では、総合治水対策というかたちで水の流出を抑制する対策をすすめている。住居での浸透枡設置や透水性の舗装などだ。河川の改修や調節池の設置なども実施している。昨今は、異常気象などによって計画以上の大雨が発生し、河川の整備だけではいかんともしがたくなっている。一宮川流域においても、総合治水のような対策をとりいれることが必要ではないかと思っている」

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真間川流域の水害激減で大きな効果を発揮している大柏川第一調節池。ふだんは環境学習の場(湿地)として利用されている

◆狭い川に水を押しこむ考え方は見直しが必要

県野鳥の会の富谷健三会長はこう要望した。

「南白亀川の流域懇談会では、河川堤防のかさ上げだけではダメで、水をいかに逃がしてあげるかが必要、ということが話しあわれている。増水した川の水を広い範囲に薄くあふれさせる。田んぼへの湛水をとりいれる。そういう話もでている。水を逃がすところがなければ、市街地に水があふれる。農業者には申しわけないが、補償を考慮して薄く広く流すということも必要になる。狭い川に水を押しこみ、その水を短時間で川下に流すという考え方は見直しが必要だ」

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一宮川流域の水害対策の見直しを求める県知事あて要望書を手渡す県自然保護連合の牛野くみ子代表と県野鳥の会の富谷健三会長(右)

◆遊水地の増設を求める

県自然保護連合と県野鳥の会は、野生生物の生息地を兼ねた遊水地(調節池)の増設も求めた。

「今回の水害では茂原の市街地が調節池になってしまった、と茂原市民はなげいている。大雨のときは茂原の市街地が巨大なプールになる。対策として、人の住んでいないところに調節池を数多くつくってほしい」

「湿地帯は野生生物の生息地でもある。南白亀川の流域懇談会では、こんなことも了解された。河川を、景観や地域住民の利用、野生生物の生息環境として総合的にみよう、と。一宮川はかつて、河口部から途中の八積の湿地帯まで、日本でも有数の水鳥の生息地となっていた。それがほとんどなくなってしまった。いまは、川の本流のわずかな浅瀬に水鳥が来るぐらいだ。おなじようなことが九十九里平野のいたるところで起きている。野生生物、とくに水鳥の棲むところがなくなってしまった。遊水地を数多く確保し、地域住民の憩いの場所と野生生物の生息環境をつくってほしい」

県はこう答えた。

「調節池を増やすことは、川への負荷を軽減する対策として有効だと思う。抜本的な治水計画のなかに調節池増設を盛りこむことも考えたい。新たな場所に調節池をつくるとか、既設の調節池をもっと深くするなどの対策を検討したい」

◆治水事業の見直しに反映

このほか、さまざまな問題や対策について県と意見を交わした。堤防より低い地域での住宅建築規制や、天然ガスかん水のくみ上げによる地盤沈下の抑止などである。

最後に県はこう話した。

「貴重な意見や要望をたくさんいただいた。具体的な改善策も提案していただいた。今後の治水計画を検討するさいに反映させたい。地元のみなさんには事業で、環境団体のみなさんには環境面でご協力いただきたい」

県は2020年度から一宮川流域浸水対策特別緊急事業に乗りだす。県が2月上旬に発表した同事業の主な内容はこうだ。

①21年度完成予定の第二調節池(容量約40万m3)の増設など既存事業のほか、河川の拡幅を新たに追加する。

②支流の阿久川や豊田川などで調節池の新設を検討する。災害危険区域の住宅を守る輪中堤や宅地かさ上げも検討する。

③雨水流出抑制や避難方法などソフト対策も関係自治体と連携してすすめる。

④「一宮川改修事務所」を4月に新設する。

調節池の新設、輪中堤、宅地かさ上げ、下流への雨水流出抑制、避難対策は総合治水対策に沿ったものだ。県自然保護連合や県野鳥の会などの要請をとりいれたかたちになっている。

本当に水害を防ぐことができるかどうかは、住民参加がカギになる。浸水被害を激減させた真間川流域では地元住民の参加が大きな効果を発揮している。

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(JAWAN通信 No.130 2020年2月28日発行から転載)

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