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広島県福山市 鞆の浦埋め立て架橋計画

─広島県が代替・山側トンネルに20年度予算化─

環瀬戸内海会議 事務局長 松本宣崇

中世の港の風情・景観・主要設備を残す福山市鞆の浦の港。鞆の浦の町は狭い道路の交通渋滞と通行の安全に悩まされてきた。そして浮上したのが、鞆の浦の生活道路の確保を目的として、鞆の港の3分の1を埋め立て、橋を架けるという広島県の埋立架橋計画であった。計画が明らかになったのは1983年のことだった。実に37年の長い時を要した。

いくら鞆の住民の生活環境の改善=交通渋滞の解消・通行の安全確保のためとはいえ、中世の港や町家の景観と相いれない、むしろ破壊する計画が、当時の福山市長により鞆住民への十分な説明もなく強引に進められ、住民の中に分断をもたらした。そこでは計画に反対する代替案にも耳を貸さなかった。今回予算化された山側トンネル案はおおよそ住民の代替案そのもの。

2009年10月、住民が提訴した埋め立て架橋計画取り消しを求める住民訴訟で、広島地裁は広島県に「計画取消」を命令する判決を出した。広島地裁は、「鞆の浦の歴史的景観を享受する利益は法的に保護するに値する」「鞆の浦の景観は瀬戸内海の美的景観を構成し、文化的歴史的価値を有する景観として国民の財産ともいうべき公益」と明快に断じ、瀬戸内法が公益として保護しようとする景観を侵害するとした。

広島県は不当にも高裁に控訴したが、2016年2月、埋立事業者たる広島県自らが埋立免許申請を取り下げることで訴訟は終結していた。

国民共有の財産として鞆の港の文化的歴史的景観を後世に引き継いでいく道筋が、やっと一歩前に進んだ。

4月10日亡くなられた映画監督大林宣彦さんは尾道市に生まれ、尾道を愛し平和を願う映画を数多く世に送り出してきた。その大林さんがかつて、「鞆の浦は古きものを温めているところだ」(2008.3.3TBS筑紫哲也のニュース23「特集鞆の浦」での発言)と語られていた言葉の重みを、深く心に刻みたい。そして行政にはあらためて重く受け止めてもらいたい。

(JAWAN通信 No.131 2020年5月20日発行から転載)

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