「もう水害はこりごり」
─「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」が千葉県に要請─
「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」は2020年4月9日、効果的な水害防止策の推進を求める要望書を千葉県一宮川改修事務所長あてに提出した。
◆50年間で6回の大水害
千葉県内では昨年10月25日、台風21号の影響による大雨で深刻な被害が発生した。人口約9万人の茂原市では、二級河川の一宮川や、その支流の豊田川、鶴枝川、梅田川、小中川の計14カ所で水があふれ、住宅地などが広範囲に浸水した。堤防が決壊しないのに氾濫した。3000戸以上の住宅などが被害を受け、2人が犠牲になった。避難所になっていた中央公民館も浸水し、16人が市役所に再避難した。
茂原市は、1970年7月の豪雨以来、50年間で6回も大水害に見舞われてきた。その被害は回を重ねるごとに拡大している。県は40年ぐらい前から一宮川などの堤防改修や河道拡幅などをすすめてきた。それでも氾濫した。
たとえば同市中の島地区の堤防900mは前年、30cmかさ上げしたばかりなのに越水した。茂原市民からは「大雨が降るたびに自宅が浸水する。茂原から引っ越すしかない」という声もあがっている。そこで県自然保護連合と県野鳥の会、茂原市民は昨年12月、県の担当課と交渉し、茂原市など一宮川流域の水害策を抜本的に見直すよう求めた。
この交渉がきっかけとなり、一宮川流域6市町村(茂原市と長生郡5町村)の住民が「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」を結成した。今年3月24日である。
「守る会」は、県が一宮川改修事務所を4月1日に発足させたことにあわせ、9日に要望書を提出した。この日は、要望書を提出したあと事務所長などと懇談する予定だった。ところが新型コロナウイルス感染拡大防止の緊急事態宣言が発令されたため、懇談は中止となった。要望書提出も人数を制限されたため、「守る会」役員の6人だけが提出に参加した。共同代表の小林洋二さん、後藤英輝さん、松本悟さん、事務局長の東條昌典さんなどである。
◆流域全体を考慮した総合治水対策の推進を
要望書は、「昨年の水害では、今まで被害を受けなかった住宅などにも被害が拡大し、多くの被災者が水害の恐怖にさらされ、困り果て転居する市民もでています」「もう水害はこりごりです。二度と水害にあわないために貴事務所の今後の取り組みに期待し、私たちも協力することを申し上げます」としている。具体的な対策として、一宮川第二調節池増設の早急な完成や、流域全体を考慮した総合的な治水対策の推進、地盤沈下対策などを求めている。
提出のさい、「新たな治水計画における一宮川流域全体の流量配分図を早急に作成してほしい」と要望した。これにたいし、応対した一宮川改修事務所の改修課長は「作成中」と答えた。一宮川第二調節池増設の完成時期については「令和3~5年度になる」とのべた。
「守る会」は、緊急事態宣言の解除後に改修事務所や茂原市と懇談することにしている。
◆茂原市はかつて湿地帯だった
「茂原」の地名は江戸時代から使われるようになった。湿地や沼が多かったため、 そういう名がついた(『千葉日報』2019年7月17日)。
戦後の高度成長期に入るまで、茂原市などには「茂原・八積(やつみ)湿原」という名の大規模な湿原が広がっていた。多様性が豊かな湿原植物群落もあった。牧野富太郎博士は「日本の植物学の父」といわれている。博士は、この湿原を「植物の宝庫である」と絶賛した。
ところが高度成長期以降、「茂原・八積湿原」は次々とつぶされる。耕地整理によって水田になる。また、開発によって工場や住宅、商業施設などが集まる市街地に変わった。水をためていた場所がなくなったので水害が発生しやすくなった。
それだけではない。茂原地域は地盤沈下もすごい。天然ガスかん水の採取が盛んだからだ。茂原市は天然ガスの生産量が日本一である。市内には数多くの関係企業が立地している。採取によって、1968年から2017年までの50年間で地盤が1.1mも沈下した。
これらの結果、記録的な大雨が降ると市街地全体が調節池になってしまう。根本的な対策を講じないかぎり、豪雨による水害は避けられない。
「守る会」のとりくみには県自然保護連合と県野鳥の会も協力している。両団体は、野生生物の生息地を兼ねた調節池(遊水地)の増設などを県に求めている。
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