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流域治水(総合治水)の推進で水害を防ごう

 ─「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」が現地調査─


近年は全国各地で甚大な水害が頻発している。千葉県の茂原市も大雨が降るたびに大水害が発生している。住民は「もう水害はこりごり」「行政まかせでは水害を防げない」とし、「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」を3月に結成した。「守る会」は8月8日、現地を調査した。参加者は17人。日本湿地ネットワークの牛野くみ子共同代表と中山敏則事務局長も参加した。


*市が分譲した住宅地も1.6mの浸水

人口約9万人の茂原市では昨年10月25日、台風21号の影響による大雨で深刻な被害が発生した。二級河川の一宮川や、その支流の豊田川、鶴枝川、梅田川、小中川の計14カ所で水があふれ、住宅地などが広範囲に浸水した。堤防が決壊しないのに氾濫した。3000戸以上の住宅などが被害を受け、2人が犠牲になった。避難所になっていた中央公民館も浸水し、16人がボートで市役所に再避難した。

現地調査では、最初に長清水地区の住宅団地を訪れた。団地は一宮川のすぐ近くにある。昨年10月の大雨では浸水深が1.6mにおよぶ被害を受けた。この団地は茂原市が分譲した。参加者からは「こんな危険な場所で市が宅地を造成し、分譲するとは」と驚きの声があがった。

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浸水深1.6mの表示を指さす茂原市民=茂原市長清水の住宅団地で

つぎは一宮川第一調節池である。容量は30万m3だ。ふだんは鶴枝遊水公園として利用されている。野鳥や水草などの自然観察ができる自然湿性園がある。野球、サッカー、ゲートボールなどのスポーツやイベントができる多目的広場もある。

この調節池は、大雨が降るとすぐに満杯になる。地元の人が説明した。「この調節池は排水のしくみがよくない。調節池にたまった水をすべてはきだすのに何日もかかる。排水の機能や運用の改善が必要だ」。

つぎは中央労働金庫茂原支店だ。八千代地区にある。ここは大雨が降るたびに浸水被害が発生している。昨年10月の大雨では浸水深が1.5mを超えた。現金自動預払機(ATM)などの機器が水没し、使用できなくなった。そのため1か月近く臨時休業となった。

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茂原市の市街地にある中央労働金庫茂原支店は昨年10月の大雨で浸水深が1.5mを超え、1か月近く臨時休業した

一宮川第二調節池と、その増設工事箇所も見た。第二調節池の容量は既設が70万m3、増設が40万m3である。この調節池も、大雨が降るとすぐに満杯になる。越流堤(洪水調節の目的で堤防の一部を低くしたもの)が低すぎることも影響しているという。参加者からこんな声がだされた。

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現地調査の参加者。後方は一宮川第二調節池

「大雨が降るとすぐに満杯になるということは、調節池が足りないということだ。越流堤の高さも改善すべきだ」

現地調査のあとは中央公民館で意見交換である。こんな意見がだされた。

「これまでのように河川改修に偏った対策では豪雨時の浸水被害を防ぐことができない。総合治水(流域治水)への転換が必要だ。遊水地(調節池)を数多く増やしたり、ため池や田んぼを治水に活用したりするなど、さまざまな手をうつことが重要だ。浸水の危険度が高い場所では住宅などの建設を規制する。上流域の開発も規制する。さらに、天然ガスかん水のくみ上げによる地盤沈下を止める。そういう対策を講じないと水害はなくならない」

*流域治水(総合治水)への転換が急務

「守る会」は7月14日、茂原市の都市建設部長と懇談し、総合治水(流域治水)への転換を求めた。部長はこう答えた。

「県は『一宮川上流域・支川における浸水対策検討会』を6月29日に発足させた。総合的な治水対策を検討し、一宮川の上流域や支川の整備計画をつくることにしている。検討会には市も加わっている」

「市は内水氾濫の対策に力を入れている。

また、茂原市の上流域に位置する長柄町と長南町にたいし、俗にいう田んぼダムなどの協力を要望している。茂原市内の上流部にもため池や田んぼなどがある。それらを治水に活用することをお願いしている」

「守る会」は県の一宮川改修事務所と8月下旬に懇談する。現地調査の結果をふまえ、流域治水(総合治水)の推進を求めることにしている。

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茂原市の都市建設部長など(手前右)と懇談する「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」のメンバー=7月14日、茂原市役所で

*国交省が「流域治水」をうちだした

いまの治水対策は、洪水を河道に押しこめ、川からあふれさせないというやりかたを基本にしている。このやりかたでは想定外の大雨には対応できない。河川の流下能力を超える量が流れ込めば、越流氾濫や堤防決壊が起きて深刻な災害が発生する。昨年10月の台風19、21号による甚大な水害はそれを実証した。今年も7月に球磨川(熊本県)や最上川(山形県)などが氾濫し、深刻な浸水被害が発生した。

《明治以来、治水の基本はダムと堤防であり、水を河道の中に治めることに力を入れてきた。治水工事をすればするほど、流域の水は河川に集中し、流量は増加する。近年の頻繁な豪雨はそれに拍車をかけ、毎年のように大きな水害が発生している。》(『東京新聞』2020年7月7日、社説)

国交省は今年7月6日、「流域治水」をうちだした。これは、建設省(現国交省)の河川審議会が1977年6月に発表した総合治水対策とほとんど同じである。流域治水の内容はこうだ。

《堤防やダムだけに頼らず、貯水池の整備や土地利用規制、避難体制の強化など、企業や住民も参画する「流域治水」への転換を明記。(中略)具体的には、時間と費用がかかるダムや堤防の整備だけではなく、土砂災害などの危険がある地域は開発を規制し、住宅移転も促進。調整池、ビルの地下貯水施設整備などで雨水をあらゆる場所でためられるようにする。》(『東京新聞』2020年7月7日)

流域治水は、茂原市など一宮川流域の総合的な治水対策を推進するうえで重要なツールとなる。総合治水対策がそうであったように、行政まかせでは流域治水も掛け声倒れに終わる。流域治水(総合治水)を具体的に推進するためには住民運動が欠かせない。

流域治水のイメージ図

総合的な治水対策を早急に

日本湿地ネットワーク 牛野くみ子

JR外房線の本納駅を出ると田んぼが広がっている。自然の貯水池になっていて、水をためることができる。その一角の少し盛り土がされたところに住宅がたてられている。周りは緑で美しいが、いったん自然が暴れだしたら怖い。

茂原市が分譲した長清水地区の住宅団地は、昨年10月の大雨で1.6mの浸水被害を受けた。近年は雨の降り方が尋常ではない。茂原市では天然ガスかん水のくみ上げもつづいている。そのため地盤沈下が止まらない。住民を守るため、総合的な治水計画を県、市、住民を交えて早急に立ててほしい。

(JAWAN通信 No.132 2020年8月30日発行から転載)

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