トップ ページに 戻る

中池見湿地をめぐる現状

─深山トンネル貫通と中池見湿地管理条例制定─

ウエットランド中池見 笹木智恵子

中池見湿地がラムサール条約に登録されて8年が過ぎた。しかし、この間は北陸新幹線問題に対応してきた毎日でもあった。また、昨年冬に敦賀市が制定、今年4月から施行の中池見湿地の管理条例で活動は許可制となったため、現在は活動を見合わせている状況にある。

北陸新幹線問題は、ラムサール条約に登録(2012年7月)と同時に鉄道・運輸機構が北陸新幹線の金沢・敦賀間延伸工事着工の大臣認可を受けたとルートを公表したことに始まり、国内外で大きな問題に発展。

鉄道・運輸機構は各方面から中池見周辺ルートの変更や見直しの要望・意見などを受けて、環境アセスの事後調査として専門家による検討委員会を設置、ルートの再検討を依頼。答申に基づいて登録範囲を完全に回避することができなかったもののアセス時ルートに近い形とトンネル位置の変更(より高い所へ)で大臣に変更申請を行った。工事着工認可後に変更が行われるという極めて異例なことで決着をみたが、私たちは「これで良し」ということではなく、工事に際して、ラムサール条約決議に則った「環境管理計画」の策定とモニタリング、特に水環境を重視した監視強化と報告を要望。お互いに情報・意見交換を行いながら日々、環境変化に目を向け、観察を続けている。また情報の公開を要望。委員会資料や議事録、月々の水環境モニタリングの結果などが機構のホームページで見ることができることになった。

中池見付近の北陸新幹線ルート

◆深山トンネル掘削工事に関して

北陸新幹線は石川県境から敦賀までの間に12本のトンネルが掘られた。その中で新北陸トンネルは最長で1万9760メートル。6工区に分割、約6年かかって7月10日に貫通したが、この工事により4工区13か所で河川や沢水の流量減少が確認され、トンネル湧水を川の上流にポンプで送水や新たに代替の井戸を掘るなどの応急対策が行われたという。

深山トンネルについても、中池見の後谷地籍に工事が近づくにつれ、沢水の減少や干上がりが見られるようになり、ちょうど環境省のモニタリングサイト1000のホタル調査の時期とも重なり心配された。そのことは機構側も水環境のモニタリングで確認しており、対処方法について相談があったが、日照りが続いていたこともあり、原因が特定できないことから経過観察を行うことにした。

今年のホタル調査の結果は、ゲンジボタルの確認数は前年比で約3分の2、ヘイケボタルは半減という数字となったが、過去15年のデータから消長の波があることが確認されているので、来年以降の様子を見なければ、これも因果関係については何とも言えないことで、情報と見解は機構側にも連絡。要注意とすることになっている。また調査期間中は、現地近くの工事事務所の街灯消灯などのホタルに対しての光害防止の協力を得た。

深山トンネルは8月3日に貫通。これで県内のトンネル12本が貫通したことになる。深山トンネルは中池見湿地の集水域の中を通ることから地下水脈の分断を警戒しての工法、他のトンネルとは異なる構造が採用されている。この工法について機構は「同湿地の水源の一つとなっている地下水の減少抑制を図るため、トンネルの断面を直径約10メートルの円形にする構造を北陸新幹線で初めて採用し、全周を防水シートで覆う対策を行ってきた」(『福井新聞』2020年7月30日)と説明している。私たちも2回、深山トンネル掘削現場を見学し、工法が計画通りに施工されていることを確認してきた。

一方、「昨年2月に掘削土から国の環境基準を超えるヒ素が検出され、対応などのため工事は約4カ月中断。さらに地盤が予想以上にもろかったため、再開後の掘削も難航し、作業は7カ月程度遅れた」(同紙 2020年8月4日)と、深山の複雑な地質、地層について述べている。

工事による地下水脈、水環境への影響はすぐには地表へ現出しないため、今後は周辺部で息の長い観察が必要となってくる。このことは機構側にも申し入れていることである。

写真4-1
8月3日に貫通した北陸新幹線の深山トンネル北側口(福井方面)。すぐ下を走るのは北陸自動車道の上り線。手前の川は木の芽川

◆敦賀市が中池見湿地管理条例を制定

大阪ガスは事業計画で取得した中池見の土地と造成したエリア、施設を、計画中止に伴い2005年春に敦賀市へ寄付して撤退した。その後しばらく、敦賀市は、造成エリアと施設管理を大阪ガスの子会社に「中池見の保全及び管理に関する要綱」に基づき業務仕様書を作成、委託していた。2009年から管理を目的に設立されたNPO法人に業務を委託するようになって10年。大阪ガスからの寄付金(4億2千万円)の枯渇と、要綱では不明瞭な点が多いということから、昨年から管理費用の縮減、条例化の動きとなり、今年5月から一般競争入札により市内のアセス会社が管理業務を行うことになった。

条例では中池見全域が「中池見 人と自然のふれあいの里」(注:大阪ガス造成の公園エリアの名称)という施設と位置づけられ、この範囲で行う作業(ボランティアも)や活動すべてについて完全許可制となった。かつては「中池見利用許可申請書」のみでゆるやかに処理されてきたものが13種類の様式に分けられるなど、管理強化となり、私たちはモニタリングサイト1000調査以外の全活動を停止。成り行きを見守っている現状である。

(JAWAN通信 No.132 2020年8月30日発行から転載)

>> トップページ >> REPORT目次ページ