流域治水の考え方をとりいれ、
先進的モデルをめざす
~一宮川流域の水害対策で千葉県が表明~
「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」は浸水水害を防ぐため、流域全体で洪水に備える総合治水(流域治水)への転換を県に求めている。今年(2020年)8月25日の懇談で県は「流域治水の考え方をとりいれ、先進的な一宮川モデルをめざす」と表明した。
*4千戸浸水、6人犠牲
茂原市など一宮川流域は50年間で6回も大水害に見舞われている。その被害は回を重ねるごとに拡大している。2019年10月25日の記録的な大雨では一宮川と支流で水があふれた。約4000戸の住宅などが浸水し、6人が犠牲になった。
県自然保護連合と県野鳥の会、茂原市民は昨年12月、県の担当課と交渉し、一宮川流域の水害対策を根本的に見直すよう求めた。市川市など真間川流域の先進的な事例をあげ、総合治水の推進を要請した。
総合治水は、堤防強化など河道の整備だけでなく、流域全体を考慮した水害対策である。最近は流域治水ともよばれている。流域における対策には、遊水地(調節池)の整備、雨水貯留施設の設置、透水性舗装の推進、各戸貯留の奨励、盛土の抑制のほか、水害に安全な土地利用なども含まれる。
市川市などの真間川流域では、住民運動によって県が総合治水を推進した。その結果、浸水被害が激減した。昨年12月の県交渉でこう要望した。「一宮川でも先進的なモデルとなるような総合治水を推進してほしい」。
この交渉がきっかけとなり、一宮川流域6市町村(茂原市と長生郡5町村)の住民が「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」を結成した。今年3月24日である。
*国交省が流域治水をうちだした
近年は気候変動の影響で記録的な大雨が増え、各地で甚大な水害が多発している。これまでの治水は、ダムと堤防で洪水を河川に封じこめるやり方を基本にしてきた。流域に降った雨の大部分を一挙に河川に流れこませるというやり方だ。この治水方式は、大水害の多発によって破綻が明らかになった。
そこで国交省は今年7月、流域治水をうちだした。内容はこうだ。遊水地を整備したり、ビルの地下に貯留施設を設けたり、水田やため池を活用したりすることで雨水をためる量を増やす。水かさが増しても安全に水を流せるよう、堤防の切れ目から田畑に水を逃がす「霞堤」を整備する。さらに土砂災害や浸水の危険性が高い地域での開発は規制する。災害危険地帯の住宅は高台への移転を促す──などである。
*「先進的な一宮川モデルをめざす」
「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」は8月25日、千葉県の一宮川改修事務所と懇談し、総合治水(流域治水)の推進を求めた。
県はこう答えた。
「これまでの一宮川河川整備計画では一宮川の上流域と支川は整備計画の対象に位置づけていなかった。そこで『一宮川上流域・支川における浸水対策検討会』を6月29日に発足させた。構成メンバーは、河川と都市計画の専門家、国交省の研究官、同省関東地方整備局地域河川課長、県の関係部局の課長・所長(6人)、茂原市の副市長、長柄町の副町長、長南町の建設環境課長の計13人である」
「上流域と支川の浸水対策は流域治水の考え方をとりいれることにしている。流域治水は国土交通省が先月うちだしたばかりだ。その事例はまだない。検討会で合意されているのは、先進的な考え方を一宮川で推進すること。一宮川でうまくいけば先進的な一宮川モデルとして対外的に発表できるのではないか。それがメンバーの共通認識になっている」 昨年12月の県河川整備課交渉や、今年4月9日に「守る会」が県一宮川改修事務所に提出した要望書の効果がでた。
*行政まかせでは流域治水も中途半端に終わる
しかし国交省がうちだした流域治水は総花的だ。ダム整備も容認している。じっさいに、石木ダムの建設が予定されている長崎県川棚町の山口文夫町長は、国交省がうちだした流域治水について町議会でこう答弁した。「川棚川の治水では石木ダムが最も優位な方法に変わりはない」。国交省は、中止した川辺川ダム建設計画も復活させようとしている。
ようするに、総合治水がそうであったように、行政まかせでは流域治水も中途半端に終わるということである。効果的な流域治水を推進するためには住民運動が欠かせない。