石垣島名蔵アンパル源流域のリゾート計画に画期的な「知事意見」
アンパルの自然を守る会の結成総会(2009年)で、元琉球新報副社長で八重山研究者の三木健氏は「アンパルを守れなくて石垣島のどこの自然が守れるのか」と言われた。そのことが今まさに問われています。それは、ラムサール条約登録湿地・アンパルの源流域における「石垣リゾート&コミュニティー計画」のことです。石垣市長が公約で「ゴルフ場建設」を掲げたのは10年前。その立地場所がアンパルの源流域であり前勢(まえせ)岳(たけ)(197m)の中腹ということになりました。110ha超の敷地(牧草地と森林)に、約360戸のホテルと18Hのゴルフ場の計画。本計画が発表され、「計画段階環境影響評価配慮書」の説明会(2017年)がありました。立地場所そのものが自然豊かな貴重な場所であり、アンパルの源流域であることから、当会はこれに反対してきました。特に計画地の中心部にあるウガドゥカーラの沢を堰き止めるという無謀な案を批判してきました。説明会当日、(株)ユニマットプレシャスは、沢のせき止め撤回と下水処理の3次処理(BOD10ppm以下)の実施などを表明しました。
当会は県知事要請、県議会陳情、石垣市と交渉、3度の現地見学会、講演会、2回のウガドゥカーラの沢遡行、数度の新聞投稿、事業者との直接対話、八重山ゴルフ協会と意見交換など多様な活動、キャンペーンをしてきました。
他方、石垣市は本計画の最大の法的ネックである「優良農地の農振除外」を突破するため「地域未来投資促進法」の適用申請という新手を使い、これを政府が承認しています。
その後ユ社が「環境影響評価準備書」を報告し、それに対し当会は新聞等で批判の意見表明をしてきました。そこに「知事意見」(2021年2月)が発表され、本意見書の内容が当会の主張してきたこととほぼ同じでした。これまでの当会の主張を県環境部がしっかり読み込んでいたことに驚きました。「地域未来投資促進法の共同提案」とのギャップもあり全く油断はできないのですが、少なくとも近々の着工は不可能と言えます。
「知事意見」のコアの部分について紹介します。
1.地下水頼みのリゾート経営の危険性について、知事意見は「地下水に係る水象について十分に把握されないまま予測及び評価が実施されているなど、必ずしも地域特性および事業特性を十分に考慮したものと言えず、客観的かつ科学的な根拠を欠いているものが散見される」。さらに「予測及び評価の実施をより詳細に可能な限り定量的に行った上で準備書を修正して評価書を作成し、その過程において必要に応じて追加調査の実施や情報収集を行うとともに、環境保全措置を十分に検討して環境への負荷を回避、低減し、周辺地域の生活環境、自然環境の保全に万全の措置を講じること」と指摘しています。事業者は地下水の実態、動態が把握されないまま地下水頼みの危ういリゾート経営を計画しています。そもそも石垣島には「地下水マップ」がないので、地下水の実態、動態が分かりません。にもかかわらず、石垣市はホテル等に上水が十分に供給できない地域で、地下水利用を指導しています。島嶼の地下水過剰汲み上げが「塩水化」をもたらすのは常識です。「知事意見」が地下水の利用がアンパル、名蔵湾の自然破壊を進める可能性について言及したことは画期的なことです。(今後、当会は県に『地下水マップ』作成を要求していきます。)
2.カンムリワシについて、「対象事業区域及びその周辺では特別天然記念物のカンムリワシの生息が確認されており、その繁殖場となっている可能性もある」と認識しています。当会がウガドゥカーラの沢の保全とカンムリワシ営巣地の保全について強く主張してきたことが「知事意見」に反映され、まずウガドゥカーラの沢をせき止める計画が撤回され、かつ、カンムリワシの営巣が確認された場合は「工事を中止する」という事業者の見解も確保されてきました。(当会は現在『カンムリワシ保護条例制定』の準備を始めています。)
3.集中豪雨について排水対策の項で、「令和2年5月の以前の降雨量の結果をもとに算定されているが、令和2年6月に発生した(最大24時間降雨量416mm)等も考慮すること」としています。芝生の雨水地下浸透力は弱く表流水としてほとんど流出してしまいます。ゴルフ場に降った雨が、貯留池を超えて流れ出せば、浦田原、湧川原の水田は甚大な被害を受けることになると危惧しています。(当会はこの地域で稲作をする農業者と連携し、『自然農法』の水田拡大、ラムサール条約編入を模索しています。また市民の『小さな田んぼ運動』を企画しています。)
その他ほとんどの論点で「知事意見」には当会の主張と同じ見解が記載されていました。
(ゴルフ場反対は当会の活動領域のごく一部です。次号で緊急の課題である「石垣島のミサイル基地建設と自然保護」、次々回で当会の「日常活動」ついて報告させていただきます。)
(2021年4月)