トップ ページに 戻る

山を動かせ

─諫早湾開門訴訟 高裁和解の提案をバネに─

諫早湾の干潟を守る諫早地区共同センター 大島弘三

写真1-1
長崎県の三大悪政(諫早湾閉め切り、石木ダム建設、カジノ誘致)に対する抗議行動=2021年4月、長崎市鉄橋

1 福岡高等裁判所の和解提案

(1)裁判では解決できない

今年4月28日、福岡高裁は請求異議控訴事件の中で和解協議を提案しました。内容は、「本件の判決だけでは、統一的かつ抜本的な解決には寄与できない」というものです。諫早湾の事件に関して、裁判では解決のメドが立たないので自分たちで話し合い、解決の道を見つけなさい、と述べています。

福岡高裁の「和解協議に関する考え方」は下記のサイトを参照下さい。

http://isahayabay.g2.xrea.com/newpage2055wakaikyougi-fukuoka21.html

諫早湾の干拓工事を裁判の経過から見てみると、

1989年 干拓工事の着工

1996年 ムツゴロウ裁判(自然にも権利あり、と工事の差し止めを求める)

1997年 前面堤防の閉め切り(ギロチン)

2010年 福岡高裁が5年間の開門を命じる判決。国が控訴せず、確定。

この間、数えることのできないくらいの裁判が提起され、それぞれに判決、控訴が繰り返されてきました。

国や長崎県が「裁判の判決に従う」などと言っていたのは、「裁判では解決はあり得ない」ことを見越しての戦略があったのです。

(2)国が責任を持って解決の道を

国(農水省)は諫早湾の干拓事業を進めてきた当事者であり、国民に対する責任ある説明と行動をする義務があります。「開門しないことを前提にした和解」とか「100億円の基金による和解」とか、目先のゴマカシと時間稼ぎでは解決はあり得ません。

高裁は「当事者双方が腹蔵なく協議・調整・譲歩することが必要である」と言います。特に「控訴人(国)の主体的かつ積極的な関与を強く期待する」と求めています。

さらに「利害の対立する漁業者・農業者・周辺住民の各団体、各地方自治体等の利害調整と、これに向けた相応の手順が求められていることには疑いがない」と、国による話し合いの場の設置を促しています。

(3)有明海は国民の財産である。

最近の流行語になっているSDGs(持続可能な開発目標)。その典型が有明海であり、諫早湾です。

「はやり」に敏感なお役所は、いち早く文書やサイトでの情報発信に熱をあげていますが、農水省、長崎県、諫早市には諫早湾に関するその動きは見えてきません。

高裁は「有明海は、国民にとって貴重な自然環境及び水産資源の宝庫として、その恵沢を国民が等しく享受し、後代の国民に継承すべきものとされ、国民的資産というべきものである」と、明確です。諫早湾と同じ有明海にあるラムサール条約指定の「荒尾」「鹿島」の干潟を念頭に、諫早湾を貴重な宝庫としている視線を読み取ることができます。

(4)和解協議の場に着いて、協議を重ねることを求める

高裁はこうも述べています。

「その根本的な解決を図るため、当事者双方に対して、集中的に協議を重ねることを求める。国民的資産である有明海の周辺に居住し、関連する全ての人々のために、地域の対立や分断を解消して、将来にわたるよりよき方向性を得るべく、本和解協議の過程と内容がその一助となることを希望する」

私たちの希望と願いの全てを満たしてくれる画期的な「和解協議への提案」です。

2 「話し合い」が民主主義の原点

「話し合い」が民主主義の原点──。こんなフレーズを書いているようでは、この国の民度が疑われます。小学校のクラス会でも当たり前のことが、諫早では通用しません。

「話し合いの場を持ちましょう」と言っても、市議会は「開門しない」と決議しています。長崎県干拓課は「開門派とは話さない」です。国の口癖は「開門しない。基金案での解決がベスト」です。

地元では、県知事、市長、県議会議員、市議会議員などへの申し入れ、要望が相次ぎました。さらに、有明海沿岸の福岡、熊本各県の漁民、議会での要請も続いています。国内の研究者や市民団体からの意思表示と農水省、高裁への声明は、「持続可能な開発」が世界のコンセンサスであることを証明しています。

今年10月、諫早市で「森里海を結ぶフォーラム」が実施されます。この中で「森は海の恋人」の畠山重篤さんや環境省事務次官の基調講演などが予定されています。

https://sites.google.com/view/1st-morisatoumi-forum/

このところコロナに席巻された感じの地球ではありますが、人の考えはまともな方向へと確実に向かっていることを確信します。

写真1-2
次代を担う大学生へのガイド=2020年2月、南部排水門

JAWAN通信 No.136 2021年8月30日発行から転載)