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ミサイル基地建設と石垣島の自然保護

アンパルの自然を守る会 事務局長 山崎雅毅

1.自然保護団体が「ミサイル基地」に反対する理由!

いうまでもなく戦争こそ最大の自然破壊です。だから石垣島が戦場になることに絶対反対です。沖縄防衛局、石垣市のこれまでの行為の数々は、ミサイル基地建設に関することを「住民に丁寧に説明する」(沖縄防衛局)、「市民に情報を速やかに開示する」(石垣市長)という言葉が、まったくのまやかしでしかありませんでした。

アンパルの自然はアンパルだけで守れない。したがってこれまで島中の自然保護に関する活動と連携しています。島全体の自然保護ができなければアンパルの自然を守ることは不可能です。当然、ミサイル基地建設によって失われる希少で貴重な自然が壊されることにも反対です。これは結成当初からの当会の基本姿勢です。

2.3万本樹木伐採問題の不思議、異様さ!

於茂登岳(おもとだけ)の山麓に建設が強行されている陸自ミサイル基地で、石垣市が貸与または売却した土地で3万本以上の樹木が伐採されます。しかし、その詳細は伏せられたままでした。石垣市景観形成審議会で行われた沖縄防衛局の報告には、同局が実施した「事前調査=現況報告(H30)」にない樹種もあり、謎だらけのデータをもとに「審議」されました。この件について当会役員のコメントです。

【沖縄防衛局の発言で大問題なのは、平得大俣でサキシマスオウノキやアマミアラカシを大量に伐採するというものです。陸域山間部のサキシマスオウノキがそんなにあったら天然記念物ものです。要するに樹種がめちゃくちゃです。沖縄防衛局が平成31年に報告した「現況報告(H30)」に両種は出現していません。しかもだれも(景観審議会委員)指摘していない。こんなアホな伐採計画がありますか?】

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沖縄防衛局が於茂登岳の麓で建設を強行している陸上自衛隊ミサイル基地=2021年8月4日現在

3.環境アセスから逃げた沖縄防衛局

沖縄県は「環境アセスメント」の対象開発面積を50haから20haに変更しました。ミサイル基地は2019年4月以降、環境アセスメントの対象になります。そこで沖縄防衛局は同年3月に着工という姑息なアセス逃れをしました。その後、徹底的に住民を無視する態度をとり現在に至っています。

当該地の近くに特別天然記念物に指定の「サキシマスオウノキ群落」(約150本)がある。巨大なサキシマスオウノキは、西表島の観光名所の一つになっている。船で浦内川を上り、潮間帯で見られるのですが、それが通常の生育場所です。ところが、海抜70メートル近くの森の中に生育している事例は少ないため石垣島の「サキシマスオウノキ群落」は特別天然記念物なのです。結論から言うととんでもないでたらめ情報です。アマミアラカシ8846本についても同じです。今回伐採予定地は石垣市が沖縄防衛局に売り渡しまたは貸与した地域です。30年前までパイナップル畑でした。30年たって密林になったのですが、地元の人はサキシマスオウノキやアマミシラカシが存在しないことを知っています。コンサル業者のでたらめ調査を、沖縄防衛局も石垣市も、何の疑問も持たなかったのです。景観形成審議会には、環境省の職員もいたのですが一言も発言していません。

当時、石垣市が全国一の新型コロナ患者発生率という状況でした。集まって議論もできず、メールで意見を交換し、見解をまとめ新聞投稿をしました。記者会見、石垣市への要請に参加し、会の見解を「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」とともに表明しています。

4.特別天然記念物カンムリワシの保護

近接する森に棲むカンムリワシは絶滅危惧種で特別天然記念物です。ミサイル基地建設予定地のすべての巨大な花崗岩(家一軒分ほどの大きなものもある)をすべて削岩、砕石化しなければ基地建設ができない場所です。基地周辺で2年に渡り80デシベルを超える大騒音を響かせ花崗岩削岩、破砕作業が続いています。カンムリワシのみならず周辺に住む人々をも苦しめています。周辺住民の多くは沖縄本島で米軍による基地建設で土地を奪われ、石垣島に移住し、ジャングルを開拓してきた農家のみなさん。

氏名不詳の「カンムリワシ専門家」の助言だけが頼りの防衛局。

沖縄防衛局は「氏名不詳のカンムリワシの専門家」のアドバイスを受けカンムリワシに対する保護対策を実施していると強弁しています。「カンムリワシの専門家」のことは、石垣島と西表島のカンムリワシの観察者の誰も知りません。実在するのかどうかも不明です。研究者であるならカンムリワシに関する「論文」があるはずですが、それも明らかにされません。住民を納得させる一切の説明を拒否して、住民を馬鹿にした態度を平然と続けています。

これも「環境アセスメント」を逃れたことによって「可能」になったことです。「環境アセスメント」が実施されていれば「住民説明」が義務付けられ、簡単に住民を騙すことはできませんでした。

カンムリワシ保護のために最低限必要なことは。雌のテリトリー500m以内を60デシベル以下(削岩作業をしていない=基地建設前の音量)にすることです。特別天然記念物であり石垣市の鳥であるカンムリワシを保護する条例が存在しないというのもおかしな話です。カンムリワシ保護条例制定に向けた活動も加速させなければなりません。

5.中山市政が生んだ、目を覆うばかりの幹部職員の劣化

石垣市は6月の議会答弁で「現況報告書(H30)」を持っていないので、一覧表にサキシマスオウノキ、アマミアラカシがないということを確認できないなどと、白々しい言い訳をしています。もしそれが事実とすれば、石垣市が売却、貸与した地域の自然環境について自ら調査もしていないし、防衛局の調査結果すら見ていないと公言しているのです。

石垣市の議会答弁を聞いていると全く市民の側を向くことができない幹部職員の劣化する姿が歴然としてきました。これも中山市長の在任11年余の間に、市職員を忖度(自発的隷属)しかできない姿にしてしまったのです。こんな市長は一日も早く退場してもらわなければなりません。

6.米・中の軍事覇権の渦中の琉球列島

ではこのようなやりたい放題の公共事業が日本本土で果たして可能でしょうか。秋田県、山口県で計画されていたイージスアショア配備計画が、住民、首長の反対で撤回されました。ブースターという燃焼装置が住民の住む地域に落下することが大きな理由でした。石垣島をはじめ琉球列島に配備されるミサイルも同じくブースターを装置しています。しかもミサイル搭載車輛は自走式ですから島のどこからでも発射できるので、島中を戦場にします。どこが違うのでしょうか。まさに沖縄差別です。

「市長のミサイル基地建設容認」の口実が「尖閣問題を抱えている地方自治体」であるということです。琉球列島全体に配備の準備をしているミサイルは、中国の台湾軍事進攻を「想定」したアメリカの軍事戦略であって「尖閣有事」を想定していません。アメリカは尖閣諸島の領有権についてさえ旗色を明らかにしていないのです。中国軍を太平洋に進出させない、米中の軍事覇権をめぐる争いであって、その最前線に琉球列島が置かれているのです。

7.琉球列島は世界史上初のミサイル戦争の戦場になります

琉球列島は、かつての沖縄戦の惨状を超える悲惨な状況になるでしょう。中東で、アメリカをはじめとする有志国家連合軍がイラクに大量のミサイルを撃ち込み、米軍等がイラクに地上軍を送り込んだことは記憶に新しいことです。結局、口実であった大量破壊兵器はどこにも存在しませんでした。フセイン政権打倒のために実行された戦争でした。しかし、双方がミサイル戦闘能力を持つ国が、ミサイルを撃ち合うという戦争は、歴史上ありませんでした。琉球列島で想定されている戦争は中国軍と自衛隊がミサイルを撃ち合う戦争です。自衛隊は殲滅され、そのあとから米軍が加わり、離島奪還の軍事行動を開始するというシナリオです。住民の命はまったく保証されていません。オフショア作戦という地域限定戦争を想定していますが、それは日米政府が勝手に想定しているだけです。おまけに、石垣市は自治体に義務付けられている「国民保護計画」を非公表にしたのです。開いた口が塞がらない市民無視の政治姿勢です。

8.住民投票の権利を奪う自治基本条例の改悪

基地建設地の元所有者は友寄永三市会議員です。防衛局はいくらで売却したのか情報を隠していますがよほど高額で買ってもらったのでしょう。「有権者の4分の1以上の署名を集めた場合、石垣市に住民投票の義務があることを定めた自治基本条例」がありました。その当該条項を削除する議員提案をしたのです。6月本会議最終日に、ほとんど議論もなく与党多数の賛成で可決してしまいました。昨年、1万4000筆を超える署名を集めて住民投票が実施できる条件をクリアーしていたのですが、市長は義務を果たさず、これを議会にかけ否決させてしまいました。辺野古住民投票の結果を見ている市長、与党議員は、投票が実施されれば大変なことになると恐れていたのです。現在裁判に持ち込まれ最高裁に上告していますが、地裁も高裁も屁理屈にもならない理屈で住民投票の権利を否定する判決を出しています。裁判に何の期待もしていませんから、結局は市長を変えるしか方法がないということです。来年2月の市長選挙に向けて市民の手で市長候補と政策を作る準備を進めています。新型コロナは住民運動を停滞させています。これに負けない住民運動を作らなければならないという困難がありますが、「野党議員に任せておけない」という市民の気持ちが形成されつつあります。

写真3-2
建設中の陸上自衛隊ミサイル基地(山麓)と開南集落(手前)

JAWAN通信 No.136 2021年8月30日発行から転載)