新たな湾岸道路のルート・構造で県交渉
─三番瀬保全7団体─
三番瀬保全団体は第二東京湾岸道路の建設を28年も阻止している。だが国交省と千葉県はあきらめない。今年4月に就任した熊谷俊人千葉県知事は「新たな湾岸道路」の建設に意欲を示している。9月2日、県知事と沿線6市長が新たな湾岸道路の早期整備を国交大臣に要望した。そこで三番瀬保全団体は県と交渉し、新湾岸道路のルートや構造の検討状況を質した。この道路は計画段階評価を適用することになっている。
◆第二湾岸道路の建設を28年阻止
第二湾岸道路は東京都大田区と千葉県市原市を結ぶ構想だ。「世界最大規模のエネルギー・素材産業の集積地」京葉臨海コンビナートと東京を結ぶ国家事業(国策)である。東京湾奥部に残った貴重な干潟・浅瀬の三番瀬を通ることになっている。
浦安市、習志野市、千葉市などの埋め立て地には8車線の第二湾岸道路用地が確保されている。しかし三番瀬保全団体が反対しているため、三番瀬で中ぶらりんになっている。第二湾岸道路を建設できない。
第二湾岸道路計画が最初に具体化したのは1993年3月だ。三番瀬を埋め立てて、その真ん中に第二湾岸道路を通すというものだった。だが30万人の署名を集めるなど、県民世論を味方につけた多彩な反対運動によって埋め立て計画は白紙撤回になった。第二湾岸道路も通せなくなった。
◆新湾岸道路整備促進大会を開催
2019年3月、国交省が千葉県湾岸地区道路検討会を設置した。検討会は2020年5月、新たな湾岸道路建設計画の基本方針をまとめた。今年7月20日は県と沿線6市が「新たな湾岸道路整備促進大会」を開いた。大会で採択された決議にはこんなことが盛りこまれた。
(1)市川市の外環道高谷JCT(ジャンクション)周辺から千葉市の蘇我IC(インターチェンジ)周辺ならびに市原IC周辺までの湾岸部において、多車線の自動車専用道路として早期に計画の具体化を図る。
(2)ルートや構造の検討にあたっては三番瀬再生計画との整合性を図る。
(3)湾岸部の都県間についても検討をおこない、計画を具体化する。
(4)新たな湾岸道路の早期実現をめざすため、県と沿線市による既成同盟会を設立する。
新たな湾岸道路についてはこんな指摘がある。「三番瀬への壊滅的な影響から県民の目をそらすため、まずは三番瀬を避けて東側をつくる。その後、西側の東京方面に着手するもくろみだ」。上記③に記された「湾岸部の都県間」は、東京と千葉を結ぶ第二湾岸道路のことである。
◆船橋市を通るルートが当面の焦点
三番瀬保全7団体は10月11日、新たな湾岸道路の問題で県の道路計画課と交渉した。7団体というのは、日本湿地ネットワーク(JAWAN)に加盟している5団体(三番瀬を守る会、千葉の干潟を守る会、三番瀬を守る署名ネットワーク、千葉県野鳥の会、千葉県自然保護連合)や市川三番瀬を守る会などである。
7団体が問題にしているのは船橋市を通るルートである。千葉市や習志野市の埋め立て地に確保されている第二湾岸道路用地と外環道高谷JCTを結ぶと、船橋航路に橋をかける必要がある。大型船が航行できる構造にするためには40m程度の高さが必要といわれている。この場所は三番瀬の野鳥たちが行き来している谷津干潟との間にある。そこに40mの高さの壁ができると大きな影響がでる。この問題を新聞も大きく報じた。たとえば1999年6月29日の『東京新聞』は「鳥たちにとっては『万里の長城』が出現するようなもの」と記している(11ページ)。
その一方で「三番瀬を地下方式で通したらどうか」という話も耳にする。道路を地下方式で三番瀬に通すことについては、三番瀬埋め立て計画が議論になったときに千葉県土木部(現在の県土整備部)が「施工は非常に困難」と結論づけた。県土木部は、地下方式の問題点として、掘削土量が膨大、大量残土の処分方法、止水の困難さ、軟弱地盤の地震に対する安全性、開削施工による三番瀬生息環境への影響、地盤改良・薬液注入による浅海域の環境への影響などをあげた。
県交渉ではこうした問題を指摘した。調査結果や資料を示してである。「新湾岸道路のルートや構造を検討するうえで、このようなことは議論しているのか」と質した。
県は答えた。
「現時点では新たな湾岸道路のルートや構造は検討していない。そのようなことは議論していない」
◆計画段階評価制度を適用
新たな湾岸道路は計画段階評価の手続きで進めることになっている。計画段階評価は国交省が導入した制度だ。「地域の課題や達成すべき目標、地域の意見などを踏まえ、複数案の比較・評価をおこなうとともに、事業の必要性や事業内容の妥当性を検証する」というものである。
県は話した。
「本県では計画段階評価の適用事例はない。他県でとりくんだ事例をみると、計画段階評価はルート案を選定していく過程のひとつになっている。そのなかでみなさんの意見を聴くことになっている」
「これまでの公共事業は、ルートなどを一方的に提示するケースがけっこうあった。しかし計画段階評価というスキーム(しくみ)は、いろいろな人の意見を聴きながらルートを選定する。新たな湾岸道路の基本方針には『地元への丁寧な説明や意見把握を行うなど、地域とのコミュニケーションを行いながら検討を進める』と書いてある。それをきちんとおこなうことは国交省も理解している。われわれもそれを理解したうえでやらなければならないと思っている」
「このプロジェクトを進めるさいは、長い期間をかけてさまざまな関係者から意見を聴かなければならないと考えている」
◆三番瀬再生計画との整合性
新たな湾岸道路の基本方針には「三番瀬再生計画との整合性を図る」が盛りこまれている。これは三番瀬保全運動の成果でもある。7団体は「三番瀬再生計画との整合性はどのように担保されるのか」と質した。
県は答えた。
「三番瀬再生計画との整合性を図るということが基本方針にしっかりうたわれている。これは大事なことだ。三番瀬再生計画を主管する環境部局と調整しながら進めることになる」
◆「三番瀬最優先の方針は変わらない」
9月14日に開かれた船橋市議会の一般質問で岩井友子議員(共産党)が新たな湾岸道路と三番瀬保全をとりあげた。
岩井議員の質問はこうだ。
「市長はこれまで、三番瀬は次の世代にきちんと伝えていかなければならない大事な自然なので、それを最優先にしていく、と私に答弁していただいた。三番瀬最優先が船橋市の立場であることをくりかえし表明されてきた。そのことが三番瀬を守る力になってきたと私も評価している。しかし7月20日に開かれた『新たな湾岸道路整備促進大会』での決議や、それを受けた国土交通大臣への要望に船橋市長も名を連ねた。これは三番瀬の自然環境を壊すことにつながりかねないのでないかと心配している。三番瀬最優先でひきつづきがんばっていただきたいが、市長は方針を変更したのか」
これに対し、松戸徹・船橋市長は「三番瀬を最優先にするという市の方針は変わらない」と表明した。
7団体は、三番瀬を守りぬくため、動きを注視しながらさまざまな運動をつづけることにしている。
(三番瀬を守る連絡会 中山敏則)