トップ ページに 戻る

奄美大島と徳之島の
辺野古埋め立て土砂採掘の実態 (上)

土砂採掘は至る所で。進む自然破壊、戦争の脅威

辺野古土砂搬出反対/首都圏グループ 若槻武行

Ⅰ. 奄美大島 (1)

奄美大島と徳之島の地層の大部分は古生層の花崗岩が含まれ、沖永良部島・与論島・喜界島のような珊瑚礁の島とは違い、石材の産地だ。島の国道58号線などの幹線道路を走るとき、山肌をちょっと注意して見ると、至る所に採石場があり、石材を採った残りの砂利と土の「岩ずり」が仮置き場で野積み(放置)されている。岩ずりの山は一年もすると草木が生えて判り難くなってしまう。

島の海沿いの集落には「全て」と言っていいほど船溜まりが造られ、護岸堤も伸びている。奄美群島が1953年の日本復帰後、集落前の砂浜には波返し型の護岸堤が設置されたが、浜砂が波にさらわれ浜全体が細くなり、挙(あげ)句(く)の果ては離岸堤までが設置されている。河川や道路工事の赤土流出で美しい珊瑚礁のリーフが姿を消した所もあった。

最近、山の頂に自衛隊の基地や施設が新・増設され、貴重な動植物の棲息する森が伐採された。道路は長いトンネルができ道幅が広くなるなど、自然への負荷が高まっている。

奄美大島は土砂崩れも多いようだ。インターネットで検索するとたくさん出てくる。手つかずの崖が大雨などの自然災害で崩れたものもあるが、土砂の採掘現場のものも少なくない。今、奄美群島全体が「世界自然遺産」と「国立公園」で観光客を呼ぼうと賑わっているが、そんなことなどお構いなしに、採掘現場周辺ではけたたましい騒音が響き、粉塵が舞っていた。現場近くは「天然記念物のアマミノクロウサギの生息地」の筈だが、その範囲は急速に狭まっている。

沖縄防衛局の辺野古新基地建設・埋め立て用土砂搬入計画の変更では、奄美大島では530万m3から1190万m3に拡大。業者には「A社100、B社300、C社50、D社120、E社200、F社150、G社150、H社120万m3」と割り当てている(沖縄県は不承認)。

◆住用町 住用川の河口付近

砂地と国内2位のマングローブの林が広がる観光スポット。中~下流ではカヌーが楽しめる。河口では、砕石を運び出す港の開設で川砂の港への流入を防ぐ導流堤を造ったため、下流域に土砂が溜まって川底が浅くなった(①)。2019年の奄美豪雨の災害にも何らかの影響を与えたといわれている。行政当局は浚渫を検討しているが、国立公園特別保護区にあり、未だ実現できていない。

写真5-1
① 導流堤により河口に溜まり続ける土砂

◆住用町・市集落

集落に向かう市道の脇には大量の岩ずりが積まれていた。道路の採石現場は操業休止だが、奥の川上の方で新たに採掘を始めている(②A)。集落民の反対をよそに、県も採石許可を与えた。法律を無視した工法で、いつ崩落事故が起こるか不安を抱えている。

写真5-2A
②A 違法な採掘現場が遠望できる

廃土は道路の両側に数百メートルにわたって仮置きされていて、一目では分からないほど草や木が生えていた。外来種のセイタカアワダチソウ、オオキンケイギク、アメリカハナグルマなども生え、有毒昆虫のセアカゴケグモも見つかっている。

2015年、雨が降って積上げた土砂が流れ、道路を遮断。県道が通れなくなった。赤泥水は住用湾に流れ出て、透明度が高く美しい珊瑚礁の海を汚し、採石場直下の珊瑚は死滅状態に。湾内の海岸からトビラ島の周辺の珊瑚の一部は死滅していた。当時の海の視界1m、ヘドロの厚さはひどい所で20~30㎝だった。今の濁りは若干少なくなってきたが、珊瑚の復活は不明だ(②B)。

写真5-2B
②B 市湾とトビラ島。手前は土が流失した痕跡

土砂流出は小中学校からも見えた。積上げた土砂の崩壊、地すべり(熱海市伊豆山のように)が心配。子供は海水浴ができない。湾ではかつて魚が全く取れなかった。住民団体は地元自治体や県に抗議を行った。採取地は、アマミノクロウサギの生息地だったが、激減。ソテツの森も破壊している。

◆住用町3か所の土砂の搬出港

中部砕石(奄美市住用町山間)が扱いで、2か所の専用桟橋から搬出する計画。戸玉集落では石材搬出用桟橋が造られていた(③A)。辺野古行きの搬出港にする可能性は十分あり得る。

昼夜騒音を伴う仕分けや船への運搬作業が続く。集落民が作業の騒音に苦情を上げたら、業者は粗末な仮設の防音壁を造った(③B)。

写真5-3A
③A 業者専用の土砂搬出港
写真5-3B
③B 右奥がセメントブロックを積んだだけの防音壁
写真5-4
④ 石材・砂利・岩ずりが仕分けられた戸玉の採石場

◆瀬戸内町・嘉徳集落海岸

嘉徳砂丘は日本に3か所残る手つかずの砂丘の一つ(他に鳥取砂丘、西表砂丘)。2014年の台風で砂丘に浜崖ができ、鹿児島県は保全地区に指定し、当初は波返し型の護岸堤530mの建設を予定したが、環境団体の要請で環境配慮型180mを2019年までに完成させると変更。その後、ウミガメの上陸等の配慮から本体工事は中断し、今に至っている(⑤)。

写真5-5
⑤ 沖合での10年間にわたる海砂採取後の嘉徳砂丘

2021年7月、嘉徳川流域全体が世界自然遺産・緩衝地に編入されたのを契機に、環境団体から護岸堤工事の見直しを求める声が上がっている(⑥)。

写真5-6
⑥ 世界自然遺産・緩衝地区での護岸堤建設予定砂丘

しかし県は、集落民の生命と財産を守ることが優先との立場で、建設予定地の砂浜に木の杭を打ち込み、砂丘の森を壊して工事用の道路づくりに着手。住民の命と自然保護、どちらも大事で、話し合いの場が必要になっている。

なお、小中学校のこの集落の旧嘉徳分校の廃校舎が美術館になっていて、住民や観光客に安らぎの場を与えている。

* 嘉徳集落の隣、節子集落の山の上の陸上自衛隊・瀬戸内分屯地には、地対艦ミサイル部隊が配備され、大型弾薬貯蔵庫ではトンネル式5本(1本1000m2)が建設中。現場に至る構内道路は幅が広く頑丈そうだ。

また、これまで何度か、工事現場のプラントから嘉徳川へ白濁水が放出されているようで、住民の抗議に環境省はモニタリングを始めている。

奄美群島では陸上自衛隊駐屯地の開設後、自衛隊の訓練などが住民生活に影響を与えている。沖縄・普天間基地から飛び立った米軍機・オスプレーの低空飛行訓練も、奄美自衛隊基地周辺を標的にして頻繁に行っている。

◆瀬戸内町阿木名

阿木名集落は瀬戸内町の市街地古仁屋地区に隣接している。国道のすぐ脇に緑原採石の大きな採石場の山(⑦)があった。同社は近くの伊須湾の南側の道路沿いの膨大な土砂も仮置き場(⑧⑨)にしている。計画では古仁屋港から搬出するとしている。湾内に会社独自の仮桟橋を設け、ベルトコンベアーで運び出すことも予想される。

写真5-7
⑦ 国道脇の緑原採石の石剤置き場
写真5-8
⑧ 海岸沿いの場外仮置き場の廃土(岩ズリ)
写真5-9
⑨ 岩ズリの仮置き場には道の山と海の両側に

周辺の山は「イジュの木」やイタジイが茂る貴重な原始林で、アマミノクロウサギなど貴重な生物の宝庫。さらに、大雨時には廃土から赤土が海に流れ出す恐れも気になる。

廃土置き場の対岸には、自衛隊瀬戸内分屯地の隊員用のマンション風の5階建ての立派な宿舎が2棟ある。エレベーターは運動のため付いてないとか。空き地には子どもの遊具を備えた公園もあったが、撮影は禁止。

※ 許せない自然破壊

奄美大島と徳之島では辺野古基地建設工事を請け負う大成建設が指定業者や孫請けの業者を使って、各地に「産廃」として仮置きしている「岩ずり」を集め、それをまとめて辺野古へ運ぶ計画だ。岩ずりは島の至る所に放置されていて(いつ土砂崩れで被害が出ても不思議でない状態だ)、それを集めるのは容易にできるだろう。

土砂の採掘や搬出は補助金付きの道路拡張整備事業、護岸堤延長、漁港整備、さらには自衛隊基地建設などと共に行なわれている。それらは多大な自然破壊だ。多くの島民、特に国立公園や世界自然遺産で観光や地場産業に関係する住民、農林漁業者らとは利害が反する敵対行為ではあるが、現地ではそれが明確にされていない。

この報告は奄美大島・徳之島(次号)が中心となった。沖永良部島や与論島は珊瑚礁の島で、石材の採取は少ない。しかし、環境破壊については、共通した問題がある。沖永良部島には、自衛隊のレーダー・通信基地があり、道路整備で自然が壊され、珊瑚礁に囲まれた海岸線は護岸がさらに増えている。このままだと砂の流れが変わり、透明で美しい海は変貌する。

与論島は沖永良部島の南50km、辺野古や高江のある沖縄本島北部までは30kmにある。この与論島の「百合が浜」という「砂浜」の島は干潟ではないが、珊瑚礁の沖合に時々現れる。島に近い大金久海岸に港を造る話があったが、反対運動で計画は止まった。護岸に囲まれた港ができたら砂の流れが変わり、砂浜の島は出現しなくなるだろう。

※ なお、奄美大島の土砂が那覇の第2滑走路の埋め立てに使われたが、この時、沖縄県が条例で侵入を規制している特定外来生物のアルゼンチンアリ、セアカゴケグモなどをはじめ、外来種のオオキンケイギクなどが見つかった。今回はこの点について細かく観察できなかった。


〈注〉この報告は奄美ブロック護憲平和フォーラム事務局長 城村典文さんにご協力いただきました。

JAWAN通信 No.138 2022年2月28日発行から転載)