トップ ページに 戻る

奇跡の海・名蔵湾と生物多様性の宝庫・
アンパルの干潟

~二つの講演会から見えてきたこと~

アンパルの自然を守る会 山崎雅毅

◆地下水を大量に使うリゾート計画

アンパルの自然を守る会が主催した東田盛善氏の講演会「命の水」(昨年9月23日)と九州大学浅海フロンティア研究センターの「石垣島の海底遺跡と名蔵湾の奇跡」(12月5日)の2つの講演会を聞き、豊かな自然が奇跡的に残るアンパル、名蔵湾の自然を壊さないことが極めて大切ということを改めて確認しました。

東田先生の講演では次のことです。

ユ社の段階的揚水試験は10分ごとに6回です。しかし工業用水、上水の段階的揚水試験は60分ごとに6回の試験が必要で、データの変異点を見つけ、安全率70%をかけて安全揚水量を決めています。相当危ない地下水利用計画と思われ、塩水化の危険性が強く危惧されます。そのためか、ユ社は2027年度の「水道事業計画見直し」の際に供給水量を増やすことを石垣市に求めています。一企業の一リゾートがかくも多量の水を消費するのです。しかも80~90%が地下水頼みです。

石垣市は大浜で1日約2000トンの地下水を汲んでダムの水と併せて市民に配水していることを考えると、いかにリゾート施設が多量の水を使うかがわかります。特にユ社のリゾートはすべてのホテル棟と各戸建てビラにプールがつく豪華な施設です。

問題は、地下水を大量に使用するリゾート計画が「奇跡の海・名蔵湾、生物多様性の宝庫・アンパル」を壊してしまう危険があるということです。

◆今なら間に合う

九州大学の講演会で菅浩伸、奈波敦、藤田喜久氏らから驚きの新たな知見を聞くことができました。未だ研究途上ということで中間発表的な話でしたが、「石西礁湖(せきせいしようこ)のサンゴ礁の8、9割が白化しているにもかかわらず、名蔵湾のサンゴ礁が健全な状態であり、多種な種類が見られ、本来のサンゴ礁の生態系を持続させている」ということでした。

名蔵湾は「奇跡の海」なのです。奇跡の海が存在できている理由は今後の研究を待たなければなりません。名蔵湾にも白化減少はあったそうですが、部分的な白化にとどまり、その後再生してきたというのです。かけがえのない海であることは確かな事実です。沈水カルストという特殊な地形が海底にあることと、於茂登岳、バンナ岳、前勢岳からの雨水を集め海水の高温化を低減していること、さらに赤土汚染がサンゴ礁域に達せずアンパル、名蔵海岸にとどまっていることなどの複数の要因が重なったためと思われます。この奇跡の海を囲む陸域こそが重要であり、ここの環境が保全されることが大切だということでしょう。

屋良部岳の麓からオキナワウラジロガシ5本を伐採して首里城に提供するために搬出路を伐開する必要があり、明らかな森林破壊計画があります。現場に行けばわかることですが、オキナワウラジロガシが生息する森はオキナワウラジロガシの純林です。白神山地のように広大ではありませんが、極めて価値の高い森です。この森を壊すことは名蔵湾を壊すことでもあります。アンパルの自然を守る会による4度の新聞投稿、崎枝公民館の公開説明会の開催、映像作家会田昌平によるChange・org(2万以上のネット署名を獲得)の連携が功を奏し、沖縄県、沖縄総合事務局(国)は伐採中止を通知しました。

さらに前勢岳で計画されている「石垣リゾート&コミュニティー計画」が奇跡の海、名蔵湾を殺し、アンパルの生物多様性を台無しにするのです。二つの講演会からは石垣島の貴重な自然を守るために私たちがやらなければならないことが鮮明になりました。

昨年12月16日、アンパルに自然を守る会をはじめ世界自然保護基金(WWF)など地域、全国の自然保護団体が沖縄県知事に要請書を提出しました。

さらに今年2月2日の「世界湿地の日」の前日、アンパルの自然を守る会主催でWWF、日本野鳥の会、日本魚類学会、九州大学浅海フロンティア研究センター、カンムリワシリサーチの等の協賛を得て「石垣リゾート&コミュニティー計画」に関する記者向け「セミナー」(リモート)が開催されました。当日の登壇者の発言映像はYouTube(ユーチューブ)で見ることができます。

当会と「我が島の自然環境を考える会」が進めてきた署名は、紙によるものが8000を超え、ネット署名は1万5000を超えて現在も増え続けています。

50年遅れのリゾ-ト開発を石垣島で始めることが石垣島の貴重な自然を壊すことになる──。このことが研究者の手によって次々と明らかになっています。今なら間に合います、前勢岳の「石垣リゾート&コミュニティー計画」を中止し、奇跡の海・名蔵湾、生物多様性の宝庫を守りましょう。ここが止まれば、川平の大型ホテル(これも住民の活動で止められそうです)や、大幅に観光客が増えることを見込んだ石垣島の自然を破壊する計画にもブレーキがかかることでしよう。

現在、市長選挙のさなかにあります。2月27日が投票日です。私たちは「イデオロギーを超えて市民の大同団結」をめざし、活動しています。現職を倒すことができれば石垣島の自然保護は確実に前進できるはずです。

写真6-1
アンパルの干潟を観察するJAWANシンポジウムの参加者
=2019年3月31日

JAWAN通信 No.138 2022年2月28日発行から転載)