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アサリ産地偽装をマスコミがようやく報道

熊本県産として流通するアサリの大半は外国産だった--。これをテレビや新聞が連日のように報じている。こうした実態は10年以上前からわかっていた。日本湿地ネットワーク(JAWAN)も、過去に本通信で3回とりあげた。それをホームページにも掲載した。新聞記者から問いあわせをうけたこともある。しかし記事にはならなかった。行政に対応を求めても、無視である。テレビや新聞がようやくとりあげてくれた。しかし、裏に横たわっている重要な問題は隠されたままである。

きっかけは今年1月22日放送のTBSテレビ「報道特集」だった。その後、アサリ産地偽装問題をマスコミが一斉にとりあげだした。「報道特集」では、TBSテレビをキー局とするJNNが3年にわたる取材によって産地偽装の実態を明らかにした。「アジアの浅瀬と干潟を守る会」の山本茂雄さんも取材に協力した。

1970年代、熊本県のアサリの漁獲量は全国の4割を占めていた。年間6万トンを超えていた。だが、近年は深刻な不漁が続いている。生育環境の悪化が原因だ。2020年はわずか21トンに激減した。ところが、全国の店頭には「熊本県産」が並ぶ。農水省の調査によると、全国の小売店で熊本県産として販売されたアサリの推計量は、2021年10月~12月の3か月間だけで2485トンにのぼる。年間の漁獲量はわずか21トンなのに、である。2485トンの97%は外国産の可能性が高いという。

農水省や熊本県によると、輸入アサリを熊本産と偽る手口は二つある。ひとつは輸入アサリを熊本県内の浜に一時的にまき、現地で蓄養したかのように見せかける手口だ。最近は、いちども浜につけることなく、中国のアサリを熊本産として流通させるケースが増えているという。もうひとつの手口は、下関港などで陸揚げし、そのまま熊本産として市場に出す手口だ。「熊本県産」の7~8割は後者とみられている(『朝日新聞』2022年2月3日)。

福岡県柳川市の水産物加工販売会社の社長は証言する。

「中国や韓国から輸入したアサリを熊本産として出荷していた。こうした産地偽装は業界の常識だった」

産地偽装が明るみにでたため、熊本県は2月8日からアサリの出荷を2か月程度停止した。

◆マスコミがふれない問題

アサリの産地偽装では、マスコミがふれない問題もある。ひとつは、全国各地で干潟が消滅したことだ。東京湾では、埋め立てによって干潟が9割も消失した。干潟の激減がアサリ不漁の最大の原因である。有明海でアサリの漁獲量が激減したのも、諫早干潟の消滅と関係があると思われる。

もうひとつは、中国からの輸入アサリには北朝鮮産が含まれている可能性もあることだ。

「アジアの浅瀬と干潟を守る会」の山本茂雄さんは輸入アサリの実情にたいへんくわしい。アサリの卸売業を営んでいたからだ。山本さんは話す。

「近年は、中国でもアサリが激減している。韓国も、日本とおなじように干潟の減少が著しい。最大の産地を干拓によって失ってしまった。そのため、アサリやハマグリも、北朝鮮でとれたにもかかわらず、中国産と名のっていいという強引な貿易のとりきめがある。このような三角貿易がおこなわれている」

農水省も、北朝鮮産のアサリを熊本産として販売した九州のスーパーマーケットチェーンなどを公表したことがある。2005年だ。東京湾の潮干狩り場では、北朝鮮産のアサリがまかれている可能性もある。しかし北朝鮮産の輸入が明らかになると大騒ぎになる。だから、三角貿易にふれるのはタブーとなっている。マスコミも報じない。このほか、生物多様性の毀損(きろん)もある。アサリ産地偽装の背景には、このようにさまざまな問題が横たわっている。

以下は、シンポジウム「日本の湿地を守ろう2018」における山本茂雄さんの講演要旨である。このシンポはJAWANが船橋市で開いた。2018年3月である。


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■シンポジウム「日本の湿地を守ろう2018」の講演要旨

日本に出回るアサリと潮干狩りをめぐる不都合な真実

~政界業界のタブー~

アジアの浅瀬と干潟を守る会 山本茂雄

*三角貿易で原産地が不明に

私は2003年ぐらいまで二枚貝専門の卸売業をしていた。国内の干潟が減少し、海域の水質が悪化したため、地元だけでは商品をまかないきれなくなった。中国や北朝鮮など近隣のアジア諸国に活路を求めた。

最近は日本のアサリは絶滅寸前になっている。そこで輸入のアサリを放流している。中国も海洋汚染がひどくなっている。そのため、中国の近海でとれる海産物は少ない。したがって中国を経由してくるが、必ずしも中国でとれたものではない。

アサリやハマグリも、北朝鮮でとれたにもかかわらず、中国産と名のっていいという強引な貿易のとりきめがある。このような三角貿易がおこなわれている。いまはロシアからもアサリが一部入っている。三角貿易をすると原産地の情報が消えてしまう。

最近は中国もアサリが激減した。韓国も、日本とおなじように干潟の減少が著しい。最大の産地を干拓によって失ってしまった。韓国も日本とおなじような状態になっている。

小売を含めた流通業者にとっては、輸入アサリのほうが原料が安いので、それを高く売ればもうけが大きくなる。だから、三角貿易は知らせてはいけないということになっている。

*感染症が蔓延

いまは畜養という方法によって有明海などでアサリを一時保管している。そこでは種が入れ替わっている。輸入アサリの放流にともない、目に見えない感染原因生物・ウイルスによって感染症も蔓(まん)延(えん)している。その結果、国内ではアサリの稚貝が発生しないようなことになっている。どこも壊滅状態になっている。

*生物多様性を毀損

東京湾では年間400万人ぐらいが潮干狩りや釣りを楽しんでいる。

潮干狩りについてはいえば、熊本県の三角港、熊本新港、八代港、福岡県の三池港などに中国籍の貨物船が入り、20kg入りの麻袋に入ったアサリを有明海に放流する。それを東京湾の潮干狩り場にもまいている。国内のアサリがほぼ絶滅状態なので、観光潮干狩りも輸入に頼るしかない状態になっている。

これは、いちばん身近なところで生物多様性を毀損していることになる。外来種のアサリを生きたまま放流するからだ。これが潮干狩りの現状である。

こうした事実を表沙汰にすることについては反発もある。千葉県も、このような潮干狩りの実態を知っている。しかし、「漁業者(漁協)の裁量の範囲でやっているから仕方ない」というスタンスである。

環境省だけではどうにもならない。農水省や、港湾を担当する国交省などもかかわって新たなしくみをつくらないと、生物多様性を守ることはできない。しかし、これらの問題を報道したメディアはない。外来種のアサリを海にそのまままいてしまうので、いろいろとまずいことが起こる。したがって法整備でしっかり守ろうというのが、私の提案である。

東京湾もかなり被害がでているはずだ。たとえば輸入の貝が生きてしまって、そこで卵を産んだり、精子を放流したりする。そうすると、交雑はないにしても、有明海のように種が入れ替わってしまう可能性がある。早めに対策を講じることが必要である。東京湾の場合は、もともとパンダアサリとよばれるような固有の殻や精子をもっていたアサリがいた。ところが、それが輸入アサリにとって替わりつつある。


JAWAN通信 No.138 2022年2月28日発行から転載)