トップ ページに 戻る

裁判所は国(農水省)のデマを鵜呑みにするな

~諫早湾開門確定判決の「無効」を認めた福岡高裁判決~

諫早湾の干潟を守る諫早地区共同センター 大島弘三

去る3月25日、福岡高等裁判所は請求異議控訴事件の判決を言い渡しました。その内容は、「2010年の判決で確定した諫早湾干拓堤防の開門は、状況が変わったので無効とする」というものです。

民事訴訟では、いったん確定した判決でも状況が変わるなど相応の理由があれば判決を逆転できるようです。今回は、以前敗訴が決まった国がいくつかの理由をあげました。裁判所は、国がでっちあげたデタラメを鵜呑みにし、自らが下した開門判決を無効にしました。

問題は、国があげた理由であり、これをウソと知りながら鵜呑みにした裁判所の不誠実な対応です。以下、高裁の判決と、それに対する私たち共同センターの反論を対比させながら、裁判所と国へのメッセージとします。

まず、今回の裁判の経過を時系列で見てみます。

2005年10月 佐賀地裁で、排水門の開放と開門調査を求めて漁民が国を訴える。

2008年6月 佐賀地裁は漁業被害を認め、排水門の開放を命令。

2010年12月 福岡高裁が、3年間の猶予と5年間の常時開放を命令。国が上告しなかったため確定。

2010年12月 国が、確定判決に異議ありと取り消しを求め、佐賀地裁に訴える。

2018年7月 佐賀地裁が認めなかったので国が控訴。福岡高裁は「漁業権は10年で消滅するので確定判決も取り消す」とした。

2019年9月 最高裁が高裁判決を取り消し、福岡高裁に差し戻す。

2022年3月 福岡高裁は、年の経過とともに事情の変動があったので2010年の確定判決に基づく強制執行は許されないとの判決を言い渡した。

今回の判決は、いくつかの疑問があります。

高 裁 の 判 決私 た ち の 異 議

1.確定判決 (2010年)から今回の判決 (2022年)まで12年の間に状況が変わつた

この間、被告の国は何をしたのか、何をしなかったのか、の検証もなく、単純に国の言い分を鵜呑みにした判断は、以下のとおりお粗末の一言である。

今回の例にならって逃げ回つて時間を稼ぎ、判決に従わなくてもいいのであれ ば、法秩序 は破綻する。

2.漁業

「漁業への影響は依然として深刻」

「漁獲量は増加傾 向にあり、今後もこのような傾向が見込まれる」

「諌早湾周辺の漁獲量」としてエビ類、タコ・イ カ・カニ類などの漁獲量を1997年から2017年まであげている。1997年以降徐々に下降した漁獲量は、2013年以降はエビ類の増加 により97年の漁獲量まで回復したとしている(次ページのグラフ参照)。

「漁獲量の減少の全て又はその大半の原因が、潮受け堤防の閉め切りによるものであるといい得るかについては、なお疑義がある」

さらにその原因が「潮受け堤防の閉め切り」にあるかは分からない。

「漁業への影響は深刻」と言いながら、「漁獲量は増加傾向」としている。この矛盾を説明してほしい。

その根拠を国が裁判の中で示した資料がある。ここでいうエビ類は「シバエビ」である。以前は獲れていて、高価で取り引きされる「クルマエビ」や他の魚類は獲れない。生活のため、やむを得ずシバエビやクラゲでしのいでいるのが現状である。タイラギは1997年以降低迷し、2011年から休漁が続いている。

アサリは稚貝の生育ができず、輸入物でしのいでいる。熊本県の産地偽装で漁師が悪者になっているが、真犯人は有明海異変の原因をつくつた「公共事業」ではないのか。

「開門調査」をしなければ、永久に分からない。これをやり過ごそうとしているのが国(農水省)の戦略である。裁判所はこれらのトリックを知りながら、国に付度し「開門しない」という結論に固執している。

3.防災

「水害被害軽減のための対策工事も実現の目途が立たず、これを実施せずに排水門を常時開門した場合、被害がよリー層深刻になる」

開門の前にそのやり方、対策工事などの詳細を関係者で協議するのは当たり前である。それを10年間放置していたのは国だ。いきなり「常時開門した場合」と突き進むのは妄想である。いい加減にしてほしい。

4.営農

「排水門を常時開門した場合に生じる営農上の支障は大きい」。さらに「新たな漁業被害の可能性も考慮する必要がある」

「対策工事実施の目処が立たない現状では、より慎重に考慮すべき事情である」

国は対策工事をしたうえで「3-2開門をします」と明言している。裁判所が、「工事の 日途が立たない」「常時開門した場合に生じる営農上の支障」とか、根拠のないデマを理由にする方が理解できない。

5.その他

「千陸地など、新たに形成された生態系や自然環境は再び変容を余儀なくされる」

干拓工事をする前の 自然環境や生態系は無視していいのか。「有明海及び人代海等を再生するための特別措置に関する法律」にある「国民にとって貴重な自然環境及び水産資源の宝庫」「後代の国民に継承すべき国民的資産」としての豊かな海と千潟生態系を破壊した公共工事を断罪するのが先ではないのか。


JAWAN通信 No.139 2022年5月20日発行から転載)