奄美大島と徳之島の
辺野古埋め立て土砂採掘の実態 (下)
~土砂採掘は至る所で。進む自然破壊、戦争の脅威~
Ⅰ. 奄美大島 (2)
◆瀬戸内町・加計呂麻島
奄美大島南部の瀬戸内町の行政区で、大島海峡を隔てた加計呂麻島は、防衛省の計画変更で瀬相港からの搬出が新規に上がった。同島は海も山も特に美しい。
沖縄県は未承認だが、業者名は加計呂麻砕石と指定されている。島内を隈なく回ったが、砕石現場はなかった。
業者による住民への説明会らしきものはあったが、「住民の理解が得られず、まだ動いていない」とのこと。土砂採取の候補地になりそうな場所(⑩)は、春には「ブロッコリーの森」になるイタジイが茂る急峻な山で、崖崩れと自然破壊が心配される。
港と道路が整備されていて、一たび採掘が始まると土砂の搬出は容易に進むだろう。
◆東シナ海側の大和村・宇険村でも
湯湾岳山頂から北、南の宇険(うけん)村(そん)と北隣の大和村の両村の境界付近、国道から少し入った所に、かなり大規模な採掘の現場があった(⑪)。
採掘現場から少し離れ、やはり国道から入ってすぐの高台に、これまた広大な土砂・岩ずりの仮置き場(⑫)があった。途中まで続いていた緑豊かな国立公園、世界遺産の森とは全く違う別世界が、突如として現れた感じだ。
山の起伏はない。この土地は昔、山だったのではないかと想像できるほど不自然な地形だ。あまりに広大で土砂の量は推定できない。草や木に覆われている所も岩ずりのようだ。
◆奄美市名瀬の北東・ 龍郷町でも
龍郷町(たつごうちよう)からは530万m3の土砂を、名瀬港に専用桟橋を設置して搬出するという。丸大産業(龍郷町中勝)が元受けで、奄美砕石, 丸井砕石, 奄美産業開発が採掘に参加することになっている。
国道58号線沿いに丸大産業の現場(⑬)があった。写真の看板下は系列の別の産廃業者。岩ずりは産廃と同じなのだ。
同町には、すぐ近くにも2か所の岩ずり仮置き場がある。住宅や墓場に近く、土砂崩れでもあったら被害が出そうな所だ(⑭)。
奄美大島は海も山も文句なしに美しい。国立公園、世界遺産指定も頷ける。しかし、よく見ると傷だらけの島だ。それが自衛隊の基地・施設、さらに戦争に結びついている。
Ⅱ. 徳之島
徳之島の土砂は当初の10万m3を平土野(へとの)港(⑲)から搬出予定だったが、計画変更で570m3に拡大した(沖縄県は未承認)。
◆意気盛んな徳之島漁協の元田・前組合長
徳之島漁協の事務所は徳之島の表玄関・亀徳港の南隣、亀津漁港の直ぐ前にある。2014年、東京の業者から漁協に土砂採掘・搬出の話があったが、理事会は全会一致でそれを拒否。以来、漁協は徳之島での辺野古埋立土砂搬出反対運動の中心になっている。
最近引退した元田・前組合長(⑯)は「海の男は海を売らない」「義理、人情欠くことだ」「ヒトが自然をいじってはならない」「この運動をやめさせようと私を海に沈めても、私の跡継ぎが海を守る」と、91歳という年齢を感じさせない若さを漲(みなぎ)らせ、断固拒否の姿勢を貫いている。
◆採掘地の南原で桟橋の計画が
砕石地に近い南原海岸は、亀津漁港のすぐ南にあり、県道沿いの仮置き場には、膨大な量の岩ずりが放置されていた(⑰)。この奥の直ぐ近くに採掘場があるが、今は掘っていないそうだ。
かつて業者は、この南原海岸の珊瑚礁のリーフの先(⑱)に桟橋を造り、ベルトコンベアーで土砂を運び、船に積み込む計画だと説明していた。それは海を売り渡す行為だ、と拒否した。
その後3年前、徳之島漁協は国の許可を受けて、海岸から1km沖に漁獲資源確保のため大型の漁礁を投入。その成果もあって、漁業は安定的に維持されている。土砂搬出、桟橋設置の話は、もう消えたと判断しているようだ。
◆積み出しは1港から2港に
沖縄防衛局の当初計画では、徳之島の土砂は平土野港(⑲)だけから10万m3の搬出だった。それが今回の計画変更で570万m3と大幅に増えた。
新計画の搬出港は古くから島の中心港である亀徳港(⑳)も加わり2か所となり、取扱いは秋利神砕石と佐平採石が請け負うとされている。業者が辺野古への土砂の全てを、平土野港と亀徳港を通すかどうか、まだ、判断できないようだ。
いずれにせよ、島内の岩ずりを集めれば、かなりの量が容易に確保されそうで、油断はできないだろう。
奄美大島、徳之島には採石場があちらこちらにあり、岩ずりが放置(仮置き)されている。それらを集めて搬出すれば、かなりの量が賄える。
※琉球弧の自衛隊配備の強化
奄美群島の南端・与論島(よろんとう)のすぐ南は沖縄諸島で、宮古列島・八重山列島へと続く。北はトカラ列島、大隅諸島、九州となる。これらを纏めて「琉球弧」という言い方がある。「琉球弧」は中国を牽制する位置にあるが、特に安倍政権時代の2019年からこの島々に自衛隊の配備が本格的に進んでいる。
奄美群島では、奄美大島奄美市の奄美駐屯地(*1)に陸自の地対空ミサイル部隊他が2019年3月に開設、同じ年、瀬戸内町節子の瀬戸内分屯地(*2)には陸自の地対艦ミサイル部隊他が開設され、島内ではほかに、空自の高性能レーダー部隊(*3)、海自の基地分遣隊など(*4)が配備されている(奄美大島の地図参照)。
さらに、奄美大島の北東隣の喜界島(きかいじま)は情報本部とされ、徳之島の南の沖永良部島(おきのえらぶじま)等にも高性能レーダーが配備された通信所がある。また、種子島の隣の馬毛島にも陸海空自と米軍の飛行場があり、事前集積拠点になっている。
「中国から見た琉球弧」の地図を見ると、薩南・奄美の島々は沖縄島や最近開設か開設中の宮古・石垣・与那国の島々の基地と共に、中国を射程にして展開している。
琉球弧の自衛隊は対中国最前線部隊で、中国にとっては「目の上のたん瘤(こぶ)」だ。中国と何かあったらどうする気だ? 日本国民は「台湾有事」でも背後に米軍が控えていると楽観している。しかし、イラクやアフガンで失敗した米軍は表に出ないで、まず日本にやらせ、交渉に持ち込む腹が見え見えだ。琉球弧の日本は今、「一触即発」の状況と云えよう。
〈注〉この報告は奄美ブロック護憲平和フォーラム事務局長 城村典文さんにご協力いただきました。