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遺稿

有明海再生への道すじ (抄)

諫早湾の干潟を守る諫早地区共同センター代表 宮地 昭

諫早湾の入口がギロチン堤防(新堤防)で閉め切られたあと、この無謀な計画に反対するため、さらに諌早湾の干潟を回復し、有明海を守るため、私たちは「諫早湾の干潟を守る諫早地区共同センター」を設立しました。

*異変の原因と干潟の再生

有明海では「魚介類がとれなくなった」という異変が生じました。なぜ異変が生じたのか、その原因は何か。その異変を正常に戻すためには異変の原因を追究し、原因を取り除かなくてはなりません。

原因として、大きく次のことが考えられます。まず筑後大堰を造ったことです。とうとうと悠久の昔から流れていた筑後川の水が、堰のために有明海に流れ込まなくなりました。また、諫早湾をギロチン堤防で閉め切ったために潮流の変化も考えられます。さらに汚水処理場の浄化のし過ぎが考えられます。

次に、大きな原因として広大な諫早干潟の喪失があります。どうしても干潟の完全再生が必要です。特に有明海再生のためには干潟を回復しなければなりません。理由は以下に述べる通りですが、その前に大切なことは、干潟を回復させるためにはどうすればいいかということです。海水を入れなくてはなりません。第一に開門が必要になります。堤防で閉め切られていた堤防を開門することにより、海水が入り、干潟を回復することできる糸口ができます。しかし海水を入れただけでは干潟は回復しません。そこに潮の満ち引きが必要です。

干潟が大切な理由は、干潟は多くの働きをもっているからです。成魚の産卵、稚魚・幼魚の生育、貝類の成育等があります。さらにベントスと呼ばれている各種の底生生物の生育の場所になります。また渡り鳥の休憩地、採餌地になります。さらにそれらの生物によって海水の浄化もできます。海水による有毒アオコの発生を止めることもできます。

したがって、干潟の再生には常時全開門をしなければなりません。一部開門の説もありますが、ただ海水を入れれば干潟ができるというものではありません。海水が調整池に入り、アオコの発生を防ぐことにはなると思いますが、こんな程度では干潟の回復にはなりません。そのためにはギロチン堤防は邪魔になります。撤去が必要です。

次に潮流の働きが考えられます。堤防で閉め切ったために潮流を失い、周辺の農地に冷害が生じました。海流(潮流)のある近くは冬でも暖かいことで皆さんも納得がいくと思います。諫早湾で凍結などが生じたことは私が知っている限りありませんでした。さらに考えなくてはならないことに潮流の早さや方向、潮汐の大きさの変化があります。

ギロチン堤防を造ったことにより、広大な干潟を失ったこと、気温の変化をもたらしたこと、潮流等の、いろんな変化をもたらし、海底のヘドロ化等の被害が出たこと等でギロチン堤防を築いたことは失敗だったことは明らかです。

科学の実験方法でも、失敗したら最初からやり直すことが普通です。ギロチン堤防を造ったことは、明らかに間違いだったことがハッキリしました。取り壊すのは当然だと考えます。

*魚介類がとれなくなった原因

次に豊穣の海、有明海でなぜ魚介類がとれなくなったのかを考えなくてはなりません。干潟の喪失、潮流の変化等も原因の一つとして考えられますが、大きな理由として、魚を養う栄養分が不足したからだと考えられます。

有明海の栄養分は多くの河川から得られていました。特に豊かな水量を擁していたのは筑後川でした。ところが筑後大堰のために多くの栄養分を含んだ水が有明海に流れずに福岡県に流されました。太古の昔から、九州屈指の大河の流れが有明海を養っていたのです。豊かな栄養で有明海の魚介類は育っていました。ところが有明海に注ぐその地の多くの川も水量が減る状態になりました。しかも小さな川が三面張りされたことも無視できません。そのために周辺からの栄養分が流れ込み難くなりました。

栄養分は、いろんな有機質やイオン化された無機質等で水中に多量に存在しています。しかも、有明海は浮泥によって白く濁っています。火山灰をはじめ、いろんな物質が浮かんで流れています。時には風が吹いて海水をかき混ぜ酸素を水中に供給します。雨風も、豊かな海のためには必要な条件なのです。

さらに栄養分不足の原因に、汚水処理場の問題があります。汚水処理場では固形物等を取り除き、綺麗になった水を海水の中に戻しています。

したがって栄養分を取り除いた水では魚介類を育てることができません。同じことが瀬戸内海の明石海峡でもおきています。有名な明石の蛸(たこ)が近年小ぶりになった。しかも収穫量が大変少なくなった。原因は水が綺麗になったからだと明石の漁師が言っていました。つまり下水処理場で処理し過ぎたのです。

有明海もその例外ではありません。だから汚水処理場は不必要というのではありません。処理の仕方に問題があるので、その点を工夫しなければなりません。

昔は、台所での調理のかす、残菜等は台所から溝へ捨てられ下水と共に溝から小川に、川から海へと流されていました。海では、それを餌にして小動物が育っていました。要するに豊かな栄養分のある海水は、各種のプランクトンを産み、稚魚、幼魚等の餌になり、さらに、それらが成魚の餌になり食物連鎖による生態系をつくっていました。つまり、いろんな魚介類が生息できる栄誉分のある総合的に豊かな海ができあがっていたのです。瀬戸内海も有明海もそうでした。

以上からも、有明海全体を考えなかったギロチン堤防は撤去しなくてはならないことがお解かりだと思います。なかにはギロチンが落ちる前から魚が捕れなくなっていたのでギロチン堤防のためではないと言う人もいますが、閉め切り後の変化はさらに大きくなっていますのでギロチン堤防も大きな原因の一つだといえます。

また、堤防ができたので、洪水にならないので安心して寝られると言う人がいますが、それも誤解です。大体、洪水は山間地に大量に急激に降った雨が本明川を一気に流れくだり、河口付近の低平地が冠水するのであって、堤防とは無関係です。時と場合によっては堤防があるために、さらに冠水が拡大することもありうると考えられます。

塩害についてですが、有明海が大暴風等のため海水が巻き上がり周辺に大災害を及ぼすような大塩害については堤防では防ぐことができません。また、小さな塩害、例えば海水が滲み出てくるような塩害は、既存の堤防を修理することで十分防ぐことができます。

*有明海再生の道すじ

どうすれば有明海を再生できるか。まず、悪い影響を及ぼしたギロチン堤防を撤去することは当然だと思います。せっかく造った堤防道路を壊すのはもったいないと考えている方は、まだ真に「わかっていない人」だと思います。ギロチン堤防を撤去する前に旧堤防の補修が必要なことは当然です。

栄養失調になった有明海、さらに悪化状態が毎年進んで瀕死の状態になっている有明海をどうにか昔のような元気な海になって欲しいと思うのは、全ての人の願いだと思います。どうすればよいか、皆で知恵を出さなくてはなりません。

非科学的な考えでは解決できません。単なる思いつきではどうにもなりません。有明海全体を科学的に総合的に考えることができなかった汚水処理場の問題も、ギロチン堤防を造った思いつきも、総合的な科学的思考に欠けていたといわざるを得ません。

物事解決の非科学的な考えの最たるものに、お金で解決するというのがあります。お金で解決をすることは絶対にできません。また、開門せずに「有明海再生」と言い張る「長」と名のつく人々がいます。非科学的な考え方では、長の資格はありませんし、再生等はとても望めません。裁判官にも非科学的な考えの人がいます。両方とも辞めてもらわなくてはなりません。また頑固な考えの方がおられて話を受け付けない人がいます。老人に多いようですが、話し合いは民主主義の基本です。また臭いものには蓋をして時間が過ぎれば治まるという考えの人もいますが、本質が解決されていないので、それでは根本的な解決にはなりませんし、やがては再燃します。お互いに筋を通して冷静に話し合い、お互いに科学的に納得することこそが大切だと思います。

科学的な見方、考え方こそが解決への道であることがはっきりされたと思います。

*野党共闘

ところでいかにしてギロチン堤防を撤去することができるかが、大きな問題です。国は開門調査の判決を守りません。司法による解決が難しい状態にあります。しかし私が勇気と確信を持てたのは、2019年の野党共闘です。憲法改悪を阻止するという大きな勢力ができたのです。つまり政治的に解決することだと思います。そのため政治的な勢力を大きくつくることがギロチン堤防撤去をすることになります。理解ある政党を結集することが極めて大切になりました。チャンスが到来したのです。政治的に解決することには、どうしても数多くの我らの代表が必要になります。

そこで、今後の選挙に勝利しなければなりません。選挙で勝利するためには、多くの国民を結集しなければなりません。有明海の真の回復をさせるための仲間を増やさなくてはなりません。全力で有明海の再生の必要性を皆さんに訴え、理解を求めなければなりません。あらゆる手段を駆使してこの輪を広げ、選挙に勝利してこそギロチン堤防の撤去をすることができることになります。

選挙戦を闘うことになりますが、選挙で有明海回復の真の目標を大きく掲げ、地域全体の人たちの大きな理解を得て勝利することが、忌まわしきギロチン堤防を撤去し、豊穣の海を取り戻すことになると思います。大変忙しくなると思いますが、有明海周辺の全ての方々の力を結集し絶対に勝利しなくてはなりません。有明海回復のために通らなくてはならない道です。

*大同団結

有明海、諫早湾をどこまで回復させるのかが大事なことですが、昔懐かしい鰻(うなぎ)が本明川に戻り、鰻が諫早に名物になるまで回復させるのが目標です。昔は本明川にはあちこちに鰻罠のテボが置かれてありました。有明海の魚介類はもちろん、周辺の川が回復するまでが目標です。鰻がのぼる「みち」が必要です。鰻道をつくらなくてはなりません。ギロチン堤防を取り除けば、鰻はどこからも自由にのぼれます。それには昔のことも学び合いながら、真面目に皆で話しあって、道理ある解決の方向を真剣に理解しあうことです。そのことを多くの人々に知ってもらうことがさらに大切です。時間がかかることですが、豊かな海を取り戻すまで頑張らなくてはなりません。そして、このことは、私たちの孫、曾孫、玄孫のためにも絶対にしなければならない私たちの責務だと思います。

そこで、この有明海を再生させるために最も大事なことは、有明海を取り巻く全ての人が団結することが何より大切になります。小異も生かしながら大同につくことです。すべての人はそれぞれにいろんな問題を持っています。しかし有明海を再生するという大きな素晴らしい目的のためには、農民の皆さんも、漁民の皆さんも市民の皆さんも全ての皆さんが大同団結して仲良くなることが最も大事なことだと思います。そこではじめて素晴らしい有明海の再生ができると思います。

私には、皆さんの気持ちのなかには、とにもかくにも、有明海が周辺を含めて良くなって欲しい、皆で良くするためには頑張ろうではないかというような、前向きな姿勢が感じられます。皆で納得するまで本音で勉強しようではありませんか。そして宝の海、有明海再生を実現させようではありませんか。

こんなにロマンのある希望に満ちた素晴らしい大きな仕事はほかには見当たりません。夢のある、実現可能な働きを誇りにしようではありませんか。大変困難な苦しい仕事かもしれませんが挫(くじ)けずに困難を吹き飛ばし、宝の海、豊穣の海、有明海が再現するまで、皆で一緒に頑張ろうではありませんか。

(2020年早春)

著者の宮地昭さんは2022年4月27日に逝去されました。

94歳でした。謹んでお悔やみ申しあげます。ご遺稿の一部を転載させていただきました。小見出しは『JAWAN通信』編集部でつけさせていただきました。

JAWAN通信 No.140 2022年8月10日発行から転載)