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「農振除外、農地転用」で巨額の利益が事業者に転がりこむ!

~石垣リゾート&コミュニティー計画~

カンムリワシの里と森を守る会/アンパルの自然を守る会 
山崎雅毅

石垣リゾート&コミュニティー計画の予定地になっている前勢岳の北斜面=2021年5月1日、ドローン撮影

1.ユ社は濡れ手に粟の大儲け

石垣島、前勢岳の北側山麓約127haで計画されているリゾート開発が実現するためには、100ha余の農地を農振地域から除外し、農地転用をしなければ不可能です。農業関連法によれば、「優良農地を農業振興地域から除外し農地に転用」することは不可能です。

しかし「地域未来投資促進法」(地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律)の適用を受ければそれが可能になるというカラクリができました。石垣リゾート&コミュニティー計画は「地域未来投資促進法」の悪用事例そのものです。

しかし、農地法に基づく審査等は通常の審査として実施されます。農業者10人は石垣市長に「農振除外に関する異議申出」を提出しました。が、隣接地の農業者を含めて全員棄却されました。現在、それを不服とする10人が沖縄県に審査請求を提出しています。沖縄県は石垣市に対し、弁明書の提出を要求しています。

今後、石垣市の弁明書を踏まえ、沖縄県は農業者10人の意見を聞く機会を設けると思われます。私たちは、これら一連の法的手続きが終了すれば「農振除外、農地転用」を沖縄県が承認する可能性も否定できないと考えています。

もし「農振除外、農地転用」が承認された場合、事業区域内の農地が(株)ユニマットプレシャス(ユ社)によって自由に開発ができることになります。そうなれば、土地の資産価値は大幅に上昇します。25倍以上になると算定する不動産業者もいます。石垣島の農地の単価は1㎡あたり700円程度です。25倍になれば17,500円になります。100haは100万㎡ですから、175億円以上になります。本土資本のユ社は濡れ手に粟の大儲けができます。なぜ沖縄県と石垣市はユ社のこのような大儲けの手伝いをするのでしょうか。

ユ社は西表島の「ホテルニライカナイ」の開発から撤退した事実があります。利潤追求が目的の企業には、儲からなければ当然、撤退や転売という選択肢もあります。しかし、いったん「農振除外、農地転用」が決定されてしまえば、ユ社は事業の変更、停止も、土地の転売も、何でもできるのです。

「地域未来投資促進法」の縛りは極めて緩いもので、ユ社の選択を縛ることはできません。しかも同法に基づき作成が義務づけられている「地域経済牽引事業計画」(当初5年分の)では、ユ社の経済効果、収支の試算が黒塗り(非公表)です。石垣市の試算がまるで企業の代弁者のような振る舞いをして、経済効果が約250億円もあるという根拠があいまいな数字を一人歩きさせ、市役所内、経済団体をまとめています。ここでも一度立ち止まって、「石垣リゾート&コミュニティー計画」という事業が抱えている暗部の意味を考えてみてください。

2.地下水頼みのリゾ-ト計画は持続不可能

ユ社はリゾート経営のために1日1,000㌧の上水が必要としていますが、石垣市は一日100㌧しか供給できないことを同社に示しています。残り900㌧のうち700㌧を地下水に依存する計画です。365日×700㌧=255,000㌧です。東京ドーム2杯分ですが、地下水は無料です。小さな山である前勢岳から大量に地下水をくみ上げが不可能であることは、ユ社が2027年の上水供給量見直しの際に増量を要求していることから、ユ社自身が認めるところです。

前勢岳という自然豊かな山を枯らし、下流域のアンパル名蔵湾の湧水を減少させます。リゾート経営自体が持続不可能なことは明瞭です。このような経営計画が「地域の未来を豊かにする計画」でないことは明白です。そのような計画を止めることができるのが、「農振除外、農地転用」を止めることです。

3.カンムリワシの保護対策ができていない

事業計画地域には10羽以上のカンムリワシが暮らしています。2組が営巣し、2組が餌場として利用、若鳥3羽以上が暮らしています。

この計画は「カンムリワシ保護対策」を具体的に何も決めていません。「様子を見ながら工事を進める」といういい加減なものです。重機が入り、樹木を伐採し、整地作業や道路建設が始まれば、カンムリワシが追い出されることは明白です。特別天然記念物であり、石垣市の鳥にも指定されていながら、国、県、市のどこも具体的対策を持たずに工事を強行しようとしているのです。追い出されたカンムリワシに新たな生きる場所はありません。石垣島の彼らが生きていける環境は次々に開発され残っていないのです。カンムリワシは生態系の頂点にいる生き物です。生体系全体が破壊されてしまうのですから、自然度の高い前勢岳の里と森は壊滅します。

4.問題山積の計画

本計画は、ほかにもさまざまな問題を有しています。

①畜産のために開発されて60億円余の税金が投入されてきました。これをリゾート開発してしまうのですから「今後一切の畜産業へも補助金」が取れなくなるでしょう。

②石垣島天文台は、科学的に重要な天文学の研究拠点であると同時に観光客にも大人気の場所です。570室以上のホテル建設の影響による「光害」について、石垣市は天文台と協議した事実はないと回答しています。

③農道、里道が廃止されるため、国の土地改良事業で整備された水田の農道が袋小路になり、すれ違いができないなどの不都合が生じます。

④ティンダカカーらの沢の一部が進入路になることによって希少種に打撃を与えます。

⑤市民が楽しみにしているホタル観察、ジョギング、散策、バードウォッチングなどの楽しみもできなくなります。

⑥「市民の森公園」も事業予定地に組み込まれていることから、違法と思われる計画です。

⑦ゴルフ場に使用される農薬によって希少種魚類の絶滅が危惧されています。下流域にあるラムサール条約登録湿地であるアンパルに生息する甲殻類等への影響も必至です。

⑧ユ社が石垣市に要求している「土地交換」疑惑について住民監査請求をしましたが、棄却されたため、那覇地裁に訴状を提出しています。今後、「市民の森公園」を事業区域に含めていることの違法性について住民監査請求をしなければならないでしょう。

⑨沖縄県も石垣市もSDGsを掲げています。まさにこれと完全に逆行しようとしています。

⑩すべての問題は、「農振除外、農地転用」が決まってしまえば後戻りができない欠陥法律「地域未来投資促進法」にあります。

★「カンムリワシの里と森を守る会」は10月23日に設立されました。「石垣リゾート&コミュニティ計画」を止めるため、「アンパルの自然を守る会」よりも多くの市民が参加できるようにすることが目的です。

アンパルの干潟を観察するJAWANシンポジウムの参加者。遠くに見える山は前勢岳。その山麓が石垣リゾート&コミュニティー計画の予定地になっている=2019年3月31日

JAWAN通信 No.141 2022年11月30日発行から転載)