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猫実川河口域の豊かさを証明し
第二湾岸道路建設阻止に貢献

~2022年 三番瀬市民調査報告会~


三番瀬市民調査の会は昨年12月11日、2022年市民調査報告会を船橋市中央公民館で開いた。参加者は31人。調査の結果や、第二東京湾岸道路をめぐる動き、釣り人が見た東京湾、都市の湿地、野鳥観察などについて講演・報告があった。

講師の話を熱心に聞く参加者=2022年12月11日、船橋市中央公民館

◆調査開始から20年

三番瀬は東京湾の奥部に残る貴重な干潟・浅瀬である。千葉県の船橋市と市川市の地先に広がっている。国交省と千葉県は第二東京湾岸道路の建設をあきらめない。この道路は三番瀬を通る予定になっている。そのため、三番瀬保全団体は2003年に「市民調査の会」を発足させ、調査を開始した。2019年まで調査報告会を毎年開いてきたが、2020年と2021年はコロナ禍のため開催を中止した。

千葉県は、浦安寄りに位置する猫実川河口域で人工干潟の造成をめざした。国策(国家事業)の第二湾岸道路を沈埋方式で通すことが目的である。そのため、この海域の市民調査をつづけている。調査の目的は、猫実川河口域の生態系の豊かさを証明してアピールすることである。

三番瀬・猫実川河口域の市民調査

猫実川河口域には大規模な天然カキ礁が存在する。それが市民調査によって初めて明らかになった。新聞やテレビがそれを大々的に報じた。日本初のカキ礁シンポジウムも開いた。このシンポには、アメリカから3人、日本から2人の著名なカキ礁研究者がパネリストとして参加した。大盛況だった。

猫実川河口域は生物多様性が非常に豊かな海域である。「自然のワンダーランド」となっている。それをデータで証明した。これが大きな効果を発揮した。県は2016年10月、猫実川河口域での人工干潟造成計画を中止する。第二湾岸道路の建設も食い止めた。

◆都市の湿地がもたらす恵み

報告会の第1部では、調査結果を調査員が発表した。生き物、カキ礁、酸化還元電位、アナジャコ巣穴数などさまざまなデータを示し、猫実川河口域の自然の豊かさを証明した。

調査員の小林恵子さんは、猫実川河口域の生き物を映像を用いてくわしく紹介した。ヤマトオサガニやタテジマイソギンチャクなどである。

第2部では、秋元一彦さんが「釣り人が見た東京湾」を講演した。秋元さんは、市民調査の参加者を猫実川河口域のカキ礁までボートに乗せてくださっている。東京湾奥部における潮干狩りやハゼ釣りの状況などを話した。

2013年から調査に参加している高田雅之さん(法政大学人間環境学部教授)は「都市の湿地」と題して講演した。高田教授はこんなことを話した。世界の主要都市はもともと湿地につくられたところが多い。日本も同じだ。その利点は、平坦で、交易にも利用しやすく、肥沃な土地と水産資源が得られることである。近年は都市内の緑地に注目が集まり、さまざまな政策が展開されている。だが、実際の恩恵の割には湿地への注目は不十分である。

都市内の湿地がもたらす恵み(生態系サービス)にはさまざまなものがある。①水の貯留と供給、②水質の浄化、③洪水の調節、④気温の調節、⑤漁業・農作物・薬草・塩などの産物、⑥水運の手段、⑦観光・景観・教育・レクリエーション、⑧精神的な癒し・リフレッシュ・文化・芸術──などだ。近年の異常気象においては、グリーンインフラとしての防災・減災機能に加えて、炭素貯留の役割も期待されている。都市が自然の喪失と気候変動を逆転させるための重要な役割を果たすことが求められている。

教授は、国内外の都市の湿地にかかわるとりくみ事例を紹介し、湿地と共生する都市を展望してくれた。アメリカのサンフランシスコ湾では、湾周辺の約40万エーカーの湿地や水域が「国際的に重要な湿地」に認定された。これを紹介し、東京湾全体をラムサール条約湿地に登録することが必要ではないかと話した。

◆野鳥との出会い、感動

法政大学の高田ゼミ生も2013年から市民調査に参加している。これまで参加した法大生は実数で110人におよぶ。

特別報告では、ゼミ生の浅地風花さんが野鳥観察のとりくみを紹介した。浅地さんは法政大学のゼミ活動がきっかけとなって野鳥観察をはじめた。自宅や大学の周辺、さらに旅行先で時間をみつけてはカメラを手に野鳥を観察するようになった。

これまで多くの野鳥と出会い、感動を得た。そして分類検定の資格を取得し、野鳥にかかわる就職先をみつけた。浅地さんは映像を見せながら、これまで出会った数多くの野鳥を紹介した。ノビタキ、アオバズク、エナガ、ミコアイサ、ウミアイサ、メジロガモ、サバクヒタキなどである。

質疑討論では、第二東京湾岸道路を阻止する運動や、三番瀬に流れ込む海老川の上流部で計画されている開発などについて意見が交わされた。


重要湿地にリニア残土を処分

三番瀬市民調査報告会では、リニア中央新幹線のトンネル残土を重要湿地に処分することも話題になった。

この問題を新聞やテレビが一斉に報じた。きっかけとなったのは『サンデー毎日』2022年11月6日号のスクープ記事だ。ジャーナリストの井沢宏明氏が「リニア残土問題 岐阜・御嵩町 不都合な真実と伏せた事情」と題してとりあげた。

残土処分場の予定地となっている美佐野ハナノキ湿地群は岐阜県の御嵩町にある。環境省が選定した重要湿地である。

同誌はこの点について、環境省の重要湿地選定の検討委員を務めた高田雅之・法政大学人間環境学部教授(自然環境政策)のコメントを載せている。

市民調査報告会で講演した高田教授はこう述べた。

「リニア中央新幹線はほとんどがトンネルだ。したがって、環境影響評価では地表面への影響はないとされている。しかし問題が二つある。ひとつは地下水の流れを変えることである。もうひとつは、トンネルを掘ると大量の土砂が出てくることだ。ところが、その処分計画は作成されていない。はじめのうちは関係自治体の動きはなかった。だが、いまは各地で自治体が反対する動きがでている。最初に反対したのは静岡県だ。そのような動きにつづき、御嵩町でも、環境省が選定した重要湿地が残土処分場の予定地になっていることをいっさい住民に公開してこなかったことが問題になっている。新聞がいっせいにとりあげた。11月になってようやく町長が地元住民に説明した。それですったもんだしている。そのきっかけとなったのは『サンデー毎日』の記事である」


JAWAN通信 No.142 2023年2月10日発行から転載)