ラムサール登録湿地の近くに風力発電
ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社(JRE)が山形県鶴岡市加茂地区で発電用大型風車の建設を計画している。2022年7月開催の地元説明会で明らかになった。計画は風車最大で8基(総出力約4万kW)、高さ約140~180mで、2027年春に着工し、2028年末の運転開始を目指している。
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JREは、既にラムサール条約登録湿地から8km先の三瀬地区で2021年11月に風車5基を供用開始(総出力1.7万kW)した。湿地から5km先の矢引地区でも風車建設が進んでいる。
出羽三山の自然を守る会は2022年9月、鶴岡市長と面談し、下記の理由で「加茂地区の風力発電計画を中止させるべき」と要望書を提出した。
◆要望理由
1.計画されている地域は、国指定鳥獣保護区で2008年10月にラムサール条約に指定された「大山上池・下池」に隣接する。周辺の高館山や都沢湿地を含めて約200種の野鳥が確認され、秋にはコハクチョウが3000羽以上、マガモ3万羽、天然記念物のオオヒシクイ1000羽、ヒシクイ200羽を中心とした冬鳥の飛来地となっており、その貴重さは周知のことである。
また、これらの渡り鳥のルートにもあたり、風車に対する野鳥の衝突の可能性が高く危険である。
2.加茂地区は、日本遺産「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~」として2019年に追加認定された地域である。
この認定にあたり、当時の鶴岡市は2017年に既に指定されていた酒田市と同等の貴重な地域である事を強調して追加認定に至ったもので、自他共に大切にしなければならない地域である。
鶴岡市の風車建設に関するガイドラインでも日本遺産には風力発電施設は設置しない、としている。
3.周辺の高館山から荒倉山、由良に至る尾根筋は現在、「庄内海岸アルプスロード」と紹介され、低山の山歩きに広く利用されている。また多くの山野草が自生し、帰化植物が少なく自然度の高い、市民が手軽に訪れることのできる花の山として脚光を浴びている。計画はこの地帯にあって、市民の利用は制限され自然の破壊につながるだけでなく、景観をも壊す。
4.計画地は鶴岡市風力発電施設の建設に関するガイドラインの、住宅地から600m以上離れていることに抵触し、住民の健康被害が心配である。
健康被害は、特に低周波音による症状として睡眠障害、頭痛、耳鳴り、めまい、吐き気、パニック発作などがある。
この健康被害は、環境省で指針値以下でも問題の起こる可能性は認めているものの、公式文書で「健康に“直接的影響”を及ぼす可能性は低い」と記載したため、事業者によっては「健康被害は無い」と保証されたかのように利用している。しかも、この健康被害は個人差が非常に大きく、同じ家に住んでいる家族の中でも、症状の出てくる方とそうでない方がおり、症状のない方から理解が得られず、症状のある方は少数者で、泣き寝入りせざるを得ない。
◆市長の真意は?
要望書提出に際して市長からは、「鳥類と自然環境保全の視点で検討が必要。市議会での議論や内部精査を進めていく」「山形県再生可能エネルギー活用可能性調査報告書では、ラムサール条約に指定されている地区の近くに風力施設の建設は望ましくないとあり、これを参考にする。現在、事業者が地域で説明会を開催しているが、住民の同意を得るのが重要で、今後状況を見守っていきたい」という発言があった。
「ラムサール湿地近隣風車建設に反対する会」を結成
当会の取り組みを知り、多くの団体や個人と連携が進んだ。地元のNPO団体「おうらの里おおやま」、山形大学農学部の研究者、日本野鳥の会山形県支部、地元の自然保護団体「尾浦の自然を守る会」等で、5名を代表呼びかけ人として昨年11月上旬に反対する会が結成され、中止を求める署名活動を開始した。
JREは2022年12月21日、予定地に風況調査用の機材をヘリで搬入し、着々と事を進めている。反対する会は、この取り組みは息の長いものになると心を引き締め、署名の目標を1万筆として活動を推進している。
各地の湿地保全団体にも突然、しかも一方的なお願いの文書が送付されたと思いますが、快く取り組んでいただきました。既に数団体から署名用紙が返却されており、感謝申し上げます。お陰様で、11月からスタートしたにもかかわらず、今年1月10日現在で4000筆強の反対署名が寄せられています。皆さまの御協力があってのことと仲間一同感激しております。
引き続きよろしくお願い申し上げます。署名用紙の確保とネット署名は、連携しております「日本野鳥の会山形県支部」のHPでダウンロード可能です。