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環境省の次期生物多様性国家戦略の問題点

仙台湾の水鳥を守る会 中嶋順一

環境省のパブリックコメントで次期生物多様性国家戦略(案)に対する募集が2023年1月~2月末までありました。もとになる(案)に「保安林等における治山施設の設置、機能の低下した森林の整備、海岸防災林等の整備を推進する。 【農林水産省】」がありました。この内容に沿岸部の自然に対する破壊的脅威を感じてコメントを出しました。

東日本大震災の復旧で沿岸部は林野庁の盛土造林事業が大規模に施工されました。大規模事業は復元しつつあった多様な生態系をことごとく破壊しました。


沿岸部の自然環境は海・砂浜から内陸に向かって、穏やかに動植物の生息環境が変わって行きます。海近くは海浜性の植物があり、塩分への耐性によって海から遠ざかると徐々に内陸的な植物になります。そこに生息する虫やその他の動物も、植物の変化で種類が変わっていきます。

砂浜や湿地や草地など沿岸部の特徴的な自然環境の面積が大きい程、それぞれの環境に適した動植物の種数や生息数は多くなります。種数が多くなる事はそれだけ多様度が増す事になります。多様な環境は自然豊かな環境と言えます。沿岸部の生物多様性は海の豊かさにも繋がります。沿岸周辺に点在する湿地・干潟などは、生物の営みによって水を浄化しています。

浅瀬が広がる干潟は大きな魚が生息出来ないので、幼魚の成長場所になります。豊富なカニやゴカイや貝などの底生動物を食べて大きくなっていきます。底生動物はバクテリアが分解した腐食物や水に含まれる栄養分(私たちにとっては汚れ)を食べて大きくなり、または数を増やします。干潟で成長した魚は大きくなると海洋に出て行きます。私たちは漁業を介してそれらを頂くのです。

水鳥たちは繁殖地と越冬地に渡る間に干潟に寄って底生動物を食べます。特に繁殖地に向かう途中には、補給しながら少しずつ北上して行きます。繁殖地に到着して栄養不足にならない様に体を作ります。干潟の底生動物は湿地を利用する水鳥たちにとっては重要な栄養元です。

こうして私たちの生活などで汚れた水はバクテリアや底生動物によって浄化されて、最終的には魚や鳥によって海洋や遠くの内陸などに運ばれていきます。この複雑に絡み合った生物の営みが生物多様性であって、それは結局のところ私たちの食生活や生活環境の維持に直結しているのです。

林野庁の行う盛土・植林事業は、盛土をすることで地盤を高くして、松の木の根が地下水の影響を受けないようにして、津波でも抜けにくい松林を作ることを目的にしています。津波で抜けた松の木が流れて付近の家などを壊すことが無いようにする為の措置です。しかしその為に失われる生物多様性は計りしれません。砂浜から連続的に変化するはずの、多様な自然環境は突然の盛土地によって急激に変化します。以前はあった、林内の湿地環境はすべて盛土によって埋められます。一様に広がる盛土台地はとても単純な環境になります。現に仙台市の沿岸では復元が著しい多様な自然環境が、あっという間に盛土によって消えました。実生の松や低木ながら広がり始めた松林の中には、その他の木々もありました。まだ未完成ではあった小さな林でしたが、林内にはガマが茂る湿地も点在していました。いろいろな木々や湿地が点在する多様な環境です。盛土されて整地された後の光景はまるで砂漠の様でした。

盛土後の同じ場所。震災前はなかった、砂浜に出来た巨大防潮堤から撮影

こういった事業は個別に考えるべきではありません。ここは盛土しても山には豊かな自然が残っているので大丈夫という担当行政と、この山から砂や砂利を採っても沿岸部には自然が広がるから大丈夫という開発など。

気づけば私たちの身の回りから多様な自然環境は失われていきます。これは将来の私たちの生活環境にも深刻な悪影響を与える事でしょう。少なくとも次期生物多様性国家戦略にあって良い考え方では無い事は確かだと思います。

私たちの身近な自然環境を大切にする取り組みが、持続可能な社会を実現する為に必要な事だと思います。こういった問題に目を向けてもらえれば幸いです。


JAWAN通信 No.143 2023年5月10日発行から転載)