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阪神間の希少な浜がピンチ!

~西宮市の今津浜~


今津浜は兵庫県の西宮市にある。阪神間に残る希少な浜だ。その浜が絶体絶命の窮地に追い込まれている。排水ポンプ場建設のための埋め立て工事によってである。

(中山敏則)

◇     ◇

今津浜は東川と新川が注ぎ込む今津港に面している。長さは100mほど。潮間帯生物は37種が確認されている。そのなかには、周辺の海浜では見られないヨコエビ類やトビムシ類8種も含まれる。貴重な浜辺の植物も自生している。ハマダイコン、ハマエンドウ、ハマヒルガオ、コマツヨイグサなどである。

その希少な浜が埋め立て工事によって消滅の危機にさられている。工事の目的は、南海トラフ地震の津波を想定した排水ポンプ場の建設である。事業者は兵庫県。ポンプ場建設によって今津浜は底をすべて削り取られ、コンクリートを流し込まれる。

浜の東側には木造の今津灯台もある。この灯台は江戸時代の1810年に建てられた。現役では日本最古の航路標識として、船舶安全のために光を届けている。西宮市の重要有形文化財に指定されている。工事に伴い、灯台はほかの場所に移設される。

今津浜。右奥は今津灯台。日本最古の現役灯台である
=2023年2月21日、中山敏則撮影

今津浜の埋め立てを推進する側のなかには、「自然が大切か、それとも人間の命か」という主張もある。長崎県・諫早湾の干拓事業を強行したさい、「ムツゴロウも大事だが、人間がいちばん大事だ」と語った関係大臣の言葉と同じである。この論法でいけば、日本の干潟や浜は津波対策でどんどんつぶしていいということになる。

兵庫県西宮市、今津浜の存続を願う市民の会」は、排水ポンプ場建設計画の見直しと浜の保存を求める運動を進めている。電子署名もよびかけている。

会は訴える。

「今津浜はかつて、工場廃水汚染や消波ブロック投入によって生態系が壊滅的なダメージを受けた。その後、生態系は奇跡的に復活した。今は市民の貴重な財産となっている。市民と海との接点を維持するためにも重要な浜である。そこをまるごと埋め立てる計画は、県が策定した『生物多様性ひょうご戦略』と矛盾する。この戦略は生物多様性の保全と持続可能な利用の実現をうたっている。私たちは、人命と海の生命の双方を守ることが重要だと考える。排水ポンプ設置に必要なスペースは確保しつつ、浜の一部を存続させ、生態系を保全することを求める」

私は中学卒業後すぐに就職した。川崎製鉄(現JFEスチール)の養成工である。最初の2年間は同社の西宮工場で研修を受けた。寮は今津浜の近くにあった。思い出深い浜でもある。ぜひ残してほしい。


JAWAN通信 No.143 2023年5月10日発行から転載)