子ども科学館まつり
─山形県遊佐町沖・酒田市沖洋上風力発電への懸念─
山形県では今、2つの海域で洋上風力発電計画が進行している。2023年10月3日付けで、再エネ海域利用法に基づく「促進区域」に指定された「遊佐町沖」と、「有望な区域」に選定された「酒田市沖」である。この2海域は南北に連続し、地域住民にとって区別することに意味はない。このため私たちは、この2海域の計画を「鳥海山沖洋上風力発電」と総称することとした。
山形県唯一の離島飛島と、海抜0(ゼロ)から立ち上がる標高2,236mの鳥海山は、歴史的、文化的に結びついてきた対の存在であり、鳥海国定公園に指定されている。また2016年には、その間の海域も含めて「鳥海山・飛島ジオパーク」として認定されている。「酒田市沖」の区域の真ん中には最上川河口があり、ここは国指定最上川鳥獣保護区に指定され、ハクチョウなど多くの渡り鳥が飛来する。
このような豊かで美しい自然環境の地において、洋上風力発電の事業想定海域は、離岸距離5km以内の沿岸部にある。離岸距離を12海里(22.2km)以上離すことを標準とする欧米諸国(中国では10km)ではありえない至近距離である。そして、事業体公募前から多くの企業が自主的な環境影響評価に着手している「遊佐町沖」は、提出済みの方法書によれば、最大高さ270m、最大出力15,000kW級の超大型風車が数十基立ち並ぶ、総出力約50万kWの事業規模である。
区域指定は県からの情報提供に基づき国が行う。しかしその設定根拠は、着床式で建設可能な浅い水深であることと、直接の利害関係者が明確な共同漁業権漁場にそのまま重ね合わせただけであり、環境・景観・健康についてのまともな議論はない。沿岸漁業は大型風車の間を縫って行うことになり、従来どおりの漁ができなくなることは明白である。
◆疑問や懸念を無視
国や県の常套句は「丁寧な説明で住民の皆様の理解を得る」である。だが、これまでの住民説明会や当会からの公開質問状などで、以下のような多くの疑問や懸念が出されても、まともな回答はない。そもそも、進めないでほしいという住民と、あくまでも事業を進めることを前提にした行政や事業体とでは、議論はかみ合わない。
- 庄内浜の沿岸漁業、サケなどの内水面漁業は守られるのか?
- 超低周波音による健康被害など、住民の安全安心な暮らしは守られるのか?
- 日本海に沈む夕陽、飛島定期航路からの鳥海山などの景観を失ってもよいのか?
- 魚類や海洋生物、鳥類、海底湧水、潮や砂の流れなどへの環境影響はどうか?
- 地震、津波、落雷、台風、冬季の荒天に耐えうる構造にできるのか?
- 折損、火災、油漏れ等の事故に対し、荒天時に迅速な対応はできるのか?
- 気象レーダー、防衛レーダーなどへの電波障害は発生しないのか?
- 耐用年数後の撤去はどうするのか? 巨大ブレード等はリサイクルできるのか?
- 期待する経済効果や雇用は生まれるのか? 地域振興、観光振興にどう結びつくのか?
- 火力発電等のベース電源はなくせず、そもそも温暖化防止に結びつくのか?・・・等々
丁寧な説明と言いながら、このような素朴ともいえる住民の質問に答えない、答えられない。要は前例もなく予測が困難、やってみなければわからないことが多すぎる事業なのだ。
◆地方自治・民主主義の形骸化
再エネ海域利用法に基づく進め方は、直接の利害関係者としての漁業関係者との調整は行われても、住民の声は届かない仕組みである。なぜなら、法定協議会で住民の声を届ける立場にあるのは、地方自治体の首長のみだからである。彼らは、「温暖化対策のために再エネは必須、その切札が洋上風力発電」という思い込みに疑問を抱かず、推進以外の選択肢を持たない。風力発電の不都合な真実を知ろうともせず、住民の声を聞く耳も持たない。
本来、住民の安全安心な暮らし、健康で文化的な暮らしを守るのは行政の最優先事項である。いくら国策であっても、地域の景観や環境、沿岸漁業に大きな影響を与え、住民を健康被害のリスクにさらす恐れがあるならば、地方自治体は国に「待った」を言うべき立場にあるはずである。そのための議論の場であるべき法定協議会が、形式的に手続きを踏む場となっている。
遊佐町議会9月定例会で、遊佐町長は「国が進める事業に対して町はノーと言える立場にない。山形県でも手出しできない。経産省資源エネルギー庁が圧倒的に主導的な役割を果たしている。」と答弁した。およそ本音であろう。山形に限らず、洋上風力発電は、もはやエネルギー問題ではない。利権と不正を生む巨大ビジネスであり、地方自治、民主主義の形骸化が問われている。