八甲田山系の風力発電反対運動
~みちのく風力発電計画を白紙撤回させた経緯~
私たちは八甲田山周辺に計画された「(仮称)みちのく風力発電事業」を止めるために3人で「ProtectHakkoda~八甲田の自然を後世に~」を立ち上げました。なぜ私たちがこの計画に反対し、結果的に白紙撤回を実現することができたのかについて、自分たちの活動を振り返り書かせていただきます。
◆みちのく風力発電に反対した理由
まず、昨今の異常気象の原因ともされる温暖化や、我が国のエネルギー資源の問題解決のためにも再生可能エネルギーは推進されるべきであるという点について、私たちは強く同意します。しかし、八甲田山という青森県民の暮らしの根幹となっている地に計画された「(仮称)みちのく風力発電事業」は、自然環境への悪影響や県民の暮らしへの悪影響が懸念されるもので、私たち青森県民のアイデンティティーを破壊するものでした。それゆえに私たちはこの事業に反対することを決断しました。
しかし反対運動を始めた当初は地域住民の大半が計画の話をしても無関心であり、「どうせ山の話でしょ」と自分事として向き合わない空気感が最初にぶつかった壁でした。それでも私たち地域住民の声こそが議論していくために不可欠だと感じていたので、計画の全貌や問題の詳細を知らない住民や議員、行政に対して意見交換や勉強会を開きました。
また、SNS発信を通じて、反対意見だけではなく、この懸念はこの地にどんな影響を及ぼし、対処する策はあるのか、客観的な目線で計画を見つつ、地域の思いを尊重できるように確かな情報の共有を心がけ各々の意識喚起に努める一方で、事業者との意見交換を続けてきました。
2022年10月に私たちが主催したシンポジウムでは、3人の識者から温暖化のこと、自然環境のこと、再エネ開発でのアセス制度の詳しい流れを講演していただき、環境影響評価が始まった以上は危機感を持って自分事として行動しないと手遅れになることを訴えました。その思いが届き、参加した地域住民は事の重大さに気づき、意識が変わり始めましたのを感じました。
◆関係市町の全首長が事業者へ白紙撤回を要請
このシンポジウムが終わった直後、計画の関係市町である平内町の町長が公に反対表明をしてくださいました。この表明を皮切りに各自治体や議員、マスコミの方々の関心が高くなったのを実感しました。
その後、県内では選挙が重なり、各議員もこの問題が争点となり、誰もが無視できない状況が青森県内で生まれ、当初私たち3人だけの小さな声からどんどん大きな波がおきてきました。
計画発表から1年以上が過ぎた2023年3月、事業者が県内各地で開いた住民説明会では連日、県内外の参加者から反対意見が飛び交い、予定時間を大幅に過ぎても質問が途切れないほどで、はっきりした民意が示されました。
説明会を聞いた各自治体は、事業者が説明会で示した削減案は計画を縮小したとは言え、数字の話だけで、根本的な問題への配慮ではないとして反対表明が次々にだされました。
そして関係市町すべての首長が反対の意を表し、事業者へ白紙撤回要請を提出しました。ついに住民の声を行政が受け入れたのです。そして、事業者ユーラスエナジーは2023年10月10日に計画の白紙撤回を発表しました。
◆白紙撤回実現の教訓と今後
私たちの反対運動は、住民の意識喚起や正確な情報共有、県内外の数えきれない協力者の働きかけ、議員の支援、選挙など様々な要素が組み合わさり成功したものと言えます。
事業者に対しても「NO!!」だけでは対話を継続することも出来ずに進展しません。私たちの目的は「反対」することではないと思います。
再エネに対する理解と支持はしっかりと持ち、地域の特性や環境への影響を考慮しながら、事業の問題点の可否を判断することが環境を守るうえで重要だと思います。
私たちは今後、守られたこの地を保全し続けるために、地域住民として「大切にしているもの」「守りたいもの」を明確にし、第三者に自分たちの描く地域ビジョンを示す取り組みが重要だと感じています。
野放しにしているところに事業者は目をつけ計画してきます。
八甲田山を守ることができた今、この取り組みを恒久的なものにしていくことが今後の目標です。
再エネの推進は、地元住民の声や環境への配慮を最も重視して進められるべきです。その先に名前だけではない真の「地産地消エネルギー」を増やしていくことが地球の環境を守っていくために欠かせないことだと思います。
終わりに、私たちが八甲田での風力発電の白紙撤回を実現することができたのは、県内外の皆さんのご支援、ご協力があり、たどり着けた結果です。今回の経験を通じ、私たちは再エネに対する意識向上や地域の力を信じることの大切さを実感しました。これからも、青森県民の暮らしと自然保護に貢献できるように取り組んでいければと考えております。
■みちのく風力発電事業
ユーラスエナジーホールディングス(本社・東京)が計画した。当初は、青森市や十和田市など2市4町にまたがる約1万7300haの敷地に、高さが最大200mの風車約150基を建設するという構想だった。事業予定区域には、青森市の天然記念物に指定されている田代平湿原も含まれていた。