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人工砂浜陥没で女児が死亡した明石・大蔵海岸

三番瀬を守る連絡会 代表世話人 中山敏則

市川市は、東京湾三番瀬の一部で人工干潟の造成を計画している。予定地は同市塩浜2丁目の護岸前だ。「播磨灘を守る会」の代表をつとめた青木敬介さん(故人)はかつて、千葉県が三番瀬で計画した人工干潟造成について、「大蔵海岸の二の舞になる」と警鐘を鳴らした。

明石市・大蔵海岸の人工砂浜。「砂浜の陥没を見つけたら」の看板が設置されている=2023年11月15日、筆者撮影

◆殺人海岸

青木敬介さんは、日本湿地ネットワーク(JAWAN)の運営委員や全国自然保護連合の代表などもつとめた。三番瀬の人工干潟造成計画中止を求める2006年11月のシンポジウムでパネリストをつとめ、こう述べた。

「三番瀬の澪筋(みおすじ)などで人工干潟を造成したら、明石市・大蔵海岸の人工砂浜と同じような結果になる。砂の流出は避けられない。大蔵海岸では、建設省(現国土交通省)が護岸の前面海域に砂を入れて人工砂浜をつくった。私たちは、『そんなところに人工砂浜をつくったら海流で砂がえぐられる。砂の流出も必然だ。人工砂浜はつくるべきでない』と再三にわたり同省に要請した。だが無視された。同省は『大丈夫だ』と言っていた。しかし、侵食によって地下に空洞ができて砂浜が陥没し、女児が生き埋めになるという事故がおきた。また、花火大会で多数の市民が死傷するという転倒事故もおきた。そのため、私たちはそこを“殺人海岸”と呼んでいる」

大蔵海岸での女児生き埋め事故は、2001年12月30日に起きた。父親と人工砂浜を散歩していた金月美帆(きんげつ みほ)ちゃん(4歳=事故当時)が生き埋めになり重体となった。足元の砂浜が突然陥没したため、吸い込まれた。美帆ちゃんは翌年5月に死亡した。

この事故では国(国交省)と市の管理責任が問われ、担当者ら4人が有罪判決を受けた。2014年に最高裁で有罪判決が確定し、4人は免職となった。

事故を受けて明石市と国交省姫路河川国道事務所が人工砂浜を点検した結果、陥没危険箇所が新たに10カ所も見つかった。そのため、砂浜全域を立ち入り禁止にした(『東京新聞』2002年1月7日)。

2002年1月8日の『産経新聞』は、「見え隠れする行政の『不作為』~明石の砂浜陥没事故~」でこう記した。

〈全国には、人工砂浜が約400あるという。中にはケーソンを使った砂浜もある。だれでも気軽に散歩できる海岸が「アリ地獄」の恐怖を包み込んでいるとしたら…。行政の「不作為」が見え隠れする〉

私たちは市川市に対し、人工干潟造成計画を抜本的に見直すよう求めている。

大蔵海岸には、人工砂浜陥没で亡くなった美帆ちゃんのありし日の姿をしのばせるブロンズ像「愛しい娘(こ)」が建てられている。肩に小鳥を乗せ、大蔵海岸で遊ぶ子どもたちを笑顔で見守っている=同上
大蔵海岸では、花火大会でたくさんの市民が死傷するという転倒事故も起きた。事故は2001年7月に起きた。明石市が大蔵海岸で主催した花火大会で、会場と朝霧駅をつなぐ歩道橋が異常な混雑状態となり、大勢の人が折り重なって倒れる「群衆なだれ」が発生した。11人が死亡、247人が重軽傷を負った。写真は亡くなった11人をしのぶ石碑。歩道橋に設置されている=同上
人工砂浜陥没で美帆ちゃんが死亡した事故では、人工砂浜の管理を担当していた国土交通省と明石市の職員計4人が有罪となり、免職になった=『読売新聞』2014年7月25日から
人工干潟造成計画の中止を求める三番瀬シンポジウムでパネリストをつとめた青木敬介さん=2006年11月25日、船橋市勤労市民センター(筆者撮影)

JAWAN通信 No.146 2024年2月10日発行から転載)