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新湾岸道路に意見続出

─国交省が三番瀬保護団体からヒアリング─


三番瀬保護団体は三番瀬を通る予定の第二東京湾岸道路の建設を1993年3月以来32年間も食い止めている。だが国土交通省と千葉県はあきらめない。国交省は2025年1月27日、新湾岸道路のプロジェクトを進める手続きのひとつとして三番瀬保護団体からヒアリングをおこなった。新湾岸道路は第二湾岸道路の一部である。

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新湾岸道路は、市川市の高谷(こうや)JCT(ジャンクション)と千葉市の蘇我IC(インターチェンジ)、市原市の市原ICを結ぶ道路である。この道路をめぐってはいま、計画段階評価の手続きが進んでいる。地域住民や関係団体、環境団体などから意見や提案を聴き、概略のルートや構造の複数案を検討するということだ。

計画段階評価が適用される公共事業は、千葉県内では新湾岸道路が初めてである。この日のヒアリングには、三番瀬を守る連絡会、市川三番瀬を守る会、三番瀬を守る署名ネットワークなど7団体のメンバーが参加した。

ヒアリングをおこなったのは、中立的な立場でヒアリングを円滑におこなう「第三者」として国交省が委託したファシリテーターである。ファシリテーターを業としているだけあって、意見の引き出し方や整理が上手だった。7団体のメンバーから、新湾岸道路の問題点などについてさまざまな意見が続出した。その一部を紹介させていただく。

図1:第二東京湾岸道路の当初予定ルート
図2:新湾岸道路のイメージ
図3:国交省関東地方整備局が発表した「広域道路ネットワーク(千葉県)」の一部
図4:船橋航路に高架橋を架けると、三番瀬と谷津干潟 を行き来する水鳥の飛行が阻害される
新湾岸道路プロジェクトについて三番瀬保護団体からヒアリング=2025年1月27日、船橋市内

新湾岸道路のヒアリングで出された意見(要旨)

◆三番瀬や谷津干潟の自然環境への配慮を

(1)新湾岸道路の基本方針は「三番瀬再生計画との整合性を図る」と明記している。新湾岸道路のルートや構造などを検討する際は、三番瀬や谷津干潟の自然環境への配慮を重視してほしい。

◆船橋航路に高架橋を架けないで

(2)千葉市美浜区や習志野市の埋め立て地に確保されている第二湾岸道路用地と外環道の高谷JCTを結ぶと船橋航路に橋をかける必要がある。大型船の航行を妨げないようにするためには40m程度の高さが必要といわれている。さらにアーチをつくると、もっと高いものが必要になる。この場所は、水鳥たちが三番瀬と谷津干潟を行き来している間にある。そこに40mの高さの壁ができると水鳥の飛行に大きな影響がでる。ルートと構造の検討にあたっては、この点に配慮してほしい。

なぜ鳥たちが三番瀬と谷津干潟を行き来しているかというと、潮汐時間にかなりの差があるからだ。谷津干潟は東京湾と細い2本の水路でつながっている。そのため、谷津干潟の潮汐時間は三番瀬よりも1時間30分遅れる。鳥にとっては、三番瀬と谷津干潟は一体化している。「鳥は飛ぶのだから高架橋を避けて通ればいいではないか」と思われるかもしれない。だが鳥たちはそんなことができない。船橋航路に高いアーチ型の橋をかけると、鳥は行き来できなくなる。長年の調査データによれば、三番瀬と谷津干潟は同じ鳥が行き来している。

◆新湾岸道路の必要性に疑問

(3)新湾岸道路は渋滞解消がいちばんの目的とされている。だが、人口減少に向かうなかで莫大な額の税金を投入してまでつくる必要があるのか。なぜ新湾岸道路をつくらなければならないかという説得力を感じない。

(4)日本は国と地方の借金がどんどん膨らみ、先進国の中で断トツの借金大国となっている。国民一人あたりの借金は1000万円を超えている。そんな状況で莫大な費用がかかる第二湾岸道路や新湾岸道路を建設するのはやめるべきだ。

(5)国道357号が渋滞しているのは船橋市内だけだ。ほかはあまり渋滞していない。したがって、新湾岸道路の計画そのものを見直してほしい。

◆既存道路の改良に力を入れてほしい

(6)国道357号は、右折車線の設置や延伸、立体交差化などによって渋滞が減少した箇所もある。たとえば千葉市役所前や市川市の塩浜区間は立体交差化によって渋滞がなくなった。京葉道路も、上り線の幕張PA(パーキングエリア)と船橋IC(インターチェンジ)の間に付加車線を設置した結果、この区間は渋滞が大幅に減った。新湾岸道路や第二湾岸道路を建設するのではなく、このような道路改良を推進してほしい。

(7)千葉市役所前の国道357号は、かつては渋滞が慢性化していたが、地下立体化にしてからは渋滞がまったくみられなくなった。そのような方法を船橋市内でも採用すればいいのに、なぜしないのか。渋滞解消策では、新湾岸道路をつくるのではなく、既存道路の立体交差化など別の方法をどんどん進めてほしい。知恵を発揮してほしい。

◆「つくらない」も選択肢に加えるべき

(8)今後、ルートや構造について複数案を提示するとなっている。その中には「つくらない」の選択肢も入れてほしい。国交省のガイドラインは「つくらない」選択肢もあり得るとしている。複数案を提示するときに「つくらない」という選択肢がないと、県民が「つくらない」という意見を言う機会が失われる。

そもそも、新湾岸道路はつくることを前提にスタートしている。2020年に基本方針が決まり、「つくります」となってから動き始めた。2020年の基本方針は行政が中止になってつくった。そのとき、県民は誰も意見を聴かれていない。県民に意見を聴くことをせずにつくることを決めた。そのうえ計画段階評価においても「つくらない」という選択肢が提示されないとしたら、「なにがなんでもつくるぞ」という計画になってしまう。

これまでそのようなことがあって、今回は初めて計画段階評価を導入した。国交省が少しでも意見を聴こうという方向に姿勢を傾けたのであれば、「つくらない」という選択肢もぜひ加えてほしい。

◆プロジェクトの進め方に疑問

(9)このプロジェクトを進めるさいは関係者や周辺住民の意見を聴くとなっているが、それは新湾岸道路の建設が大前提になっている。そうした前提そのものを考え直していただきたい。

(10)千葉国道事務所と県、沿線6市はいま、オープンハウス(パネル展を中心とした情報提供)を21か所で開催している。ところが、船橋市内では2か所でしか開かれない。新湾岸道路でいちばん影響を受ける船橋市が少ないというのは、船橋市民の声は重視していないということなのか。もっと増やしてほしい。

◆アンケートは恣意的

(11)アンケートは新湾岸道路の建設を前提とした設問になっている。意見を書く欄もあるが、新湾岸道路はいらないと考えている人はどのように書けばいいかわからない。「新湾岸道路について配慮すべきことをお聞かせください」とあるが、新湾岸道路はいらないということをどこに書けばいいのかわからない。「ご自由にお書きください」という欄もあるが、設問の仕方は新湾岸道路をつくることが前提となっている。恣意的だ。

(12)アンケートを書くときに躊躇した。というのは、どの設問も、道路をつくるための理由を聞くような質問ばかりになっているからだ。したがって、回答すると、新湾岸道路をつくってくださいという意見を書くような感じになる。「解決すべき課題」といっても、新湾岸道路をつくれば解決するような課題ばかりがあげられている。「新湾岸道路に期待すること」と「新湾岸道路について配慮すべきこと」も同じだ。行政側が自分たちの目的に説得力をもたせるためにアンケートを実施しているようにみえる。

◆一堂に会して話し合う場が必要

(13)千葉国道事務所と住民、関係団体のメンバーなどが一堂に会して話し合う場を設けてほしい。オープンハウスに行って千葉国道事務所の職員から話をうかがった。しかしオープンハウスというが、オープンではない。ほかの人はだれも聴いていない。案内人(スタッフ)と1対1のやりとりだ。どんな意見がでたかについて、ほかの人は知ることができない。千葉県が毎年開いている三番瀬ミーティングのようなものも必要だ。

◆有識者委員会の構成

(14)ルートや構造などを検討する新湾岸道路有識者委員会は委員構成のバランスが悪い。たとえば自然環境系の専門家は加わっていない。印象として、つくることを前提とした構成になっている。

(15)新湾岸道路の基本方針はこううたっている。「ルートや構造の検討にあたっては、東京湾奥部に残された貴重な干潟となる三番瀬については千葉県三番瀬再生計画との整合性を図る」。これは画期的なことだ。そうであれば、三番瀬の自然環境にくわしい専門家も加えるべきだ。有識者委員会のなかに「三番瀬再生計画との整合性検討委員会」を設けることも必要だと思う。

◆将来予測がない

(16)日本は人口減少にむかっている。この点をどのように考慮しているのかがまったくわからない。それが不安だ。たとえば私が住んでいる千葉市美浜区は、将来は人口が半分以下になるといわれている。そのような時代を迎えているときに、今までと同じように大規模な道路をどんどんつくる。これまでとどこが違うのか。状況が大きく変わりつつあるのに、道路だけは別ということか。将来は道路交通量が減少すると私はみている。そのへんの長期予測がみえない。

(17)新湾岸道路の情報提供資料(第2号)には、交通渋滞がひどいとか、交通事故が多数発生していることを載せてある。その目的は、「新湾岸道路をつくればこれらの問題が解決しますよ」ということだと思う。しかし新湾岸道路ができるのは20年後、30年後となる可能性が高い。いまは道路が渋滞しているところもその頃はどうなるのか。そのようなシミュレーションはやっていないと思う。2024年3月、ちばぎん総合研究所が千葉県の人口予測を発表した。それをみると、30年後の2055年は人口が13%減少する。15歳~64歳の「生産年齢人口」は21%減る。「活動人口」は2割も減る。そうすると車の量も減少する。そのようなシミュレーションもきちんとやらなければいけないのではないか。

◆交通事故対策

(18)新湾岸道路の情報提供資料は交通事故が多いことも強調している。死亡事故が多いというのはそのとおりだ。おそらく、こういうことを言いたいのだと思う。市内に流入する車が多いから交通事故が多い。脇に新湾岸道路をつくれば、そちらのほうに流入車両が流れて市内を走る車が減少する。したがって事故が減る──。しかし実際には、歩道のない道路が山ほどある。県道も同じだ。そういうところに金をかけないと交通事故の問題は解決しない。交通事故対策では、歩道、信号機、ガードレールなどを整備することが必要だ。そういうことも考えなければいけない。

◆建設後の維持補修

(19)人口が減少しても道路をつくる、となっている。だが、既存の道路も含め、建設後の道路をどのように維持管理し、補修していくかということはまったくふれられていない。

◆三番瀬に第二湾岸道路を通すのは絶対にやめてほしい

(20)国交省関東地方整備局が作成した「広域道路ネットワーク(千葉県)」の図(図3)は、新湾岸道路は第二東京湾岸道路の一部であることを示している。外環道の高谷JCTから三番瀬の一部と浦安市埋め立て地の第二湾岸道路用地を通り、東京都の大田区に達する第二湾岸道路を描いている。この図は千葉県が発表した「千葉県広域道路ネットワーク図」でも使われている。県と沿線6市が設立した新湾岸道路整備促進期成同盟会も、湾岸部の都県間、つまり東京都と千葉県を結ぶ第二湾岸道路の早期具体化を要望している。三番瀬に第二東京湾岸道路を通すことは絶対にやめてほしい。市川市と東京都を結ぶ第二東京湾岸道路の構想は撤回してほしい。

◆住宅地の生活環境が考慮されていない

(21)千葉市美浜区は、新湾岸道路が住宅地を通ると予想されている。8車線の第二湾岸道路用地が住宅地に確保されているからだ。そうなれば大気汚染や騒音など住環境の悪化が心配される。こういう問題をどのように考えているのか、よくわからない。新湾岸道路をつくった場合の排気ガスや接続道路渋滞などの問題がアンケートに含まれていないのはおかしい。

JAWAN通信 No.150 2025年2月20日発行から転載)