新湾岸道路を考える会を結成
─千葉市美浜区の住民─
国交省千葉国道事務所は5月28日、新湾岸道路について2つの概略ルート案を提示した(図3)。そのひとつは千葉市美浜区の住宅地を通るルートである。そのため美浜区の住民は6月21日、「新湾岸道路と美浜区のまちづくりを考える会」(略称:新湾岸を考える会)を結成した。
(中山敏則)

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新湾岸道路は、市川市の外環道高谷JCT(ジャンクション)から蘇我IC(インターチェンジ、千葉市)と市原IC(市原市)までの湾岸部において多車線の自動車専用道路をつくるものである(図1)。

新湾岸道路について、国交省千葉国道事務所は2つのルート案を提示した。ひとつは、高架構造や地下構造で海岸沿いを最短で結ぶ「道路新設案」(案1)。もうひとつは、既存の国道357号や国道16号を拡幅し、一部区間で一般道路を新設する「現道拡幅案(一部道路新設)」(案2)である(図3)。

案1の「道路新設案」は、住宅団地が密集する千葉市美浜区の海浜ニュータウンに新湾岸道路を通すものだ。これが具体化すると、美浜区では振動や騒音、大気汚染が悪化し、住民の健康や眺望・景観などに大きな影響をおよぼすと危惧される。
そこで、美浜区の住民が「新湾岸を考える会」を結成した。採択された会則は、会の目的をこううたっている。「美浜区の住環境に大きな影響を及ぼすと思われる新湾岸道路の建設構想について、住民の立場から、その必要性も含めて考える」。
三番瀬は東京湾奥部に残った貴重な干潟・浅瀬である。1993年3月、第二東京湾岸道路を三番瀬に通す計画が浮上した(図2)。

第二湾岸道路は、東京都大田区と市原市を結ぶ国策の道路構想である。以来、三番瀬保護団体は幅広い運動をくりひろげ、第二湾岸道路の建設を32年間も阻止しつづけている。
新湾岸道路は三番瀬を通らないことになった。だが、国交省と千葉県は、新湾岸道路を第二東京湾岸道路の第一段階と位置づけている。三番瀬保護団体は「新湾岸を考える会」と連携して運動を進めることにしている。
■「新湾岸道路をつくらない」案も提示
千葉国道事務所が提示した2ルート案のうち、「現道拡幅案(一部道路新設)」(案2)は「新湾岸道路をつくらない」というものである。こんな案を提示したのは画期的だ。
案1の「道路新設案」は、全区間で4~6車線の高規格道路を新設する。三番瀬や谷津干潟などを避けて自然環境に配慮するとともに、千葉港や京葉地域の工場・物流施設へのアクセスを重視し、市川と千葉・市原間を最短で結ぶとしている。
「道路新設案」は、高架構造を主体とする案1-1と地下構造を主体とする案1-2の2つの案を提示。事業費は高架構造で約1兆円、地下構造では約2兆円と試算した。ICは、千葉港の葛南中央地区(船橋市)や幕張新都心(千葉市)、千葉港の千葉中央地区(千葉市)など計7カ所に設置する。
案2の「現道拡幅案(一部道路新設)」では、国道357号と国道16号の車線を増やし、一部区間で一般道路を新設する。
有識者委員会の委員からは「環境への配慮では、生態系の専門家の意見も聞くべき」「設計にあたっては、海の眺めも意識してはどうか」などの意見が出たという。
千葉国道事務所は、ホームページでの意見聴取や沿線市でのオープンハウス(パネル展を中心とした情報提供)などを今後も継続する。次回以降の有識者委員会でルート・構造案の評価をおこない、概略計画の決定をめざすとしている。
前述のように、千葉国道事務所は既存道路の拡幅、つまり「新湾岸道路をつくらない」案も提示した。しかし、この「現道拡幅案(一部道路新設)」は約5000億円の事業費で済むものの、渋滞緩和などの目標を達成する効果が低いと決めつけている。「道路新設案」(案1)を選ぶようにする誘導提案とも受けとれる。今後の運動が重要となる。
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「新湾岸を考える会」結成総会での発言(一部)
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◆「つくらない」も選択肢に含めたのはすごいこと
新湾岸道路について国交省が三番瀬7団体からヒアリングをおこなった際、7団体は「新湾岸道路をつくらないという案も選択肢に入れてほしい」と要請した。その「つくらない」という案が、国交省が今回提示した2ルート案のひとつとして採用された。これはすごいことだ。
1997年に環境影響評価法が制定された。それによって、本当は道路などをつくるかつくらないかをまず検討しなければならなかった。ところがつくることが前提となっていたので、私は環境影響評価制度に失望した。
だが、今回の新湾岸道路では「つくらない」も選択肢に含めて検討するという。それは、これまでの国のやり方を超えている。すごいことだ。なぜそれができたのかを教えてほしい。
(真砂地区、女性)
◆住宅団地に高速道路を通すな!
三番瀬と谷津干潟の自然や生態系はたいへん豊かで、水鳥の飛来数がたいへん多いとのこと。一方、美浜区では、水鳥ではなくて、私たち人間のことが問題になると思う。
千葉市はこんなことを訴えている。稲毛海岸の通りは富士山が見える。東京湾のすばらしい絶景を眺望できる。「それが売りだ」「千葉市の財産だ」ということを千葉市は訴えてきた。これらは、千葉市としてもみすごすことのできない問題であり、守りたい財産だと思う。
国交省は海沿いを通る新湾岸道路のルートとして「道路新設案」(案1)を提示した。そのルートの中で、道路が住宅地域を通るのは美浜区だけだ。この地域には大きな住宅団地がある。そんなところに大きな道路を通すべきではない。これが、私たち美浜区の住民が行政に訴えたい一番の問題である。
今のすばらしい眺望や景観を次の世代に引き継ぎたい。これが美浜区住民の思いである。
地下構造にする選択肢もあるということで、国交省は「道路新設案」の中で「地下構造を主体とする道路」(案1-2)も提示した。しかし、美浜区の地下には、千葉港から成田空港に燃料を輸送するパイプラインが埋設されている。さらに、美浜区は埋め立て地なので地盤が軟弱だ。液状化が発生しやすい。そのような問題もぜひ訴えたい。
案2の「現道拡幅案(一部道路新設)についてだが、先ほどの報告では、国道357号などの既存道路では地下立体化などの道路改良によって渋滞が解消された箇所もあるという。
1兆円とか2兆円という巨額を投じて湾岸道路を新たにつくらなくても、そのように既存道路の改良をどんどん進めるべきだ。そうではなくて海沿いに新たな湾岸道路をつくるという。これはあまりにも浅はかだ。
(高浜地区、女性)
◆家のすぐ前で高速道路を建設するという話にビックリ
私は美浜区高浜の海沿いに40年以上住んでいる。海沿いに高架橋をつくるとか、地下方式で新湾岸道路を通すというのはショックきわまりない話だ。国交省は、高架構造を主体とする道路だと1兆円、地下構造を主体とする道路だと2兆円かかるということを打ち出した。
私も国土交通省とゼネコンのつながりは知っていた。しかし、私の家のすぐ前で高速道路を建設するという話が現実的になってきたのでビックリしている。
私の娘は小学生だ。いまは家からきれいな海が見えるのに、20年後に高速道路ができたらどうなるのか。美浜区の地下には成田空港に燃料を輸送するパイプラインが埋設されている。この話は、私も小学生のころから知っていた。パイプラインは私の家のすぐ近くにも埋設されている。警備員がしょっちゅうパトロールに来ている。
高浜地区では、けっこう若い世代の方が住宅を新築して住んでいる。しかし、きょうの結成総会に参加された方は50歳以上の方が多いようにみえる。もう少し若い方にこの問題を浸透させなければならないと思う。若い世代の方々に声をかけ、新湾岸道路の計画や問題点などについて浸透をはかることが必要だ。
(高浜地区、男性)
◆振動、騒音、排ガスに悩まされる
新湾岸道路が通ると見込まれている地域でも、工場の多いところは自分こととして考えない人が多い。
しかし美浜区は住宅地域なので、3つの問題がある。振動、騒音、排ガスだ。私はJR京葉線の稲毛海岸駅から国道14号側のほうに向かってすぐのところに住んでいる。そこまで排気ガスが来るので困る。
このへんの人は切実なので、一生懸命がんばらないといけない。ここにおられるみなさんが生きている間には新湾岸道路はできないかもしれない。しかし、みなさんの子どもや孫にとってはここがふるさとである。そのときにみなさんががんばらないと、どうするのか。ということになる。だから、ぜひやりましょう。無理しないでやりましょう。
(高洲地区、男性)
◆「交通渋滞緩和」の言葉だけで何兆円もかけるは変だ
新湾岸道路の必要性でどうしても納得できないのは、「交通渋滞を緩和する」という言葉ですませていることだ。それはとても変だと思う。
渋滞が本当にひどくて、これまでどんな影響がこの地域にでていたのか。渋滞の結果、大事故が起きたのか。私は、そのような必要性を数字で見たことがない。エビデンス(根拠)というのを全然みたことがない。
国交省の資料には渋滞を示す写真がちょっと載っている。それひとつで何兆円もかかるような計画を進めるというのは、ばかばかしさというか、腹立たしさを覚える。というのは、日本の人口はこれから減っていく。千葉のここだけが、あるいは千葉の工業地帯だけが発展していくということはありえないからだ。
そういうことを考えれば、自動車の交通渋滞を緩和するというだけの計画はそもそもおかしな話だと思う。新湾岸道路がどんなルートを通ろうとも、ばかげた計画になる。というのが私の最初からのとらえ方だ。
先ほど軟弱地盤の話がされた。本当に真面目に地下にそんなものを通そうと思っているのか。これも疑問だ。これだけ地震が起きている国なのに。
(真砂地区、女性)