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嘘で塗り固めた 辺野古新基地の今

─海砂採取は不可能、生物多様性保護区、奄美大島の環境破壊─

反辺野古土砂搬出首都圏グループ 世話人 若槻武行

(環瀬戸内海会議 幹事)


Ⅰ.軟弱地盤の改良と海砂の投入

*深場の海底の下はマヨネーズ状

 辺野古新基地建設は進んでいるようで、実は進んでいない。防衛省によると、埋立てに必要な土砂は約2020万m3。5月時点で予定地の西側、珊瑚礁の浅瀬など計約329万m3(=16%)を埋立てただけだ。その土砂は現在、沖縄島北部地区や国頭地区と、うるま市宮城島から調達している。

 埋立てでいちばんの難問は昨年1月から埋立て準備に入った、東の大浦湾側の海底の下の、マヨネーズ状の軟弱地盤の地盤改良工事だ。現在、高さ約100mもある櫓のついた巨大なサンドコンパクションパイルSCP船が6隻、浚渫船、海砂を軟弱地盤の海底に敷くトレミー船、起重機船など大小の作業船が集まっている。

SCP船による大浦湾の砂杭打ち工事

 軟弱地盤へ砂杭打ちは進んでいないが、護岸に使用するケーソンを仮置きする海上ヤード設置、護岸建設などの周辺工事は進行中だ。

 だが、今年に入ってから油流出・火災・作業員の骨折等々、作業船の事故が続発。事業者・防衛局の管理責任が問われる事態に。土木の専門家や米軍内部に以前からあった、新基地完成を危ぶむ声が強まっている。

*砂杭・砂柱打ち込みは可能か

 海底の軟弱地盤を通過し固い地盤に砂杭・砂柱を打込むのは、有効な工事かどうかは疑問だ。深場の海底の軟弱地盤は、海底の下から最大60mの深さ、水面下100m近い。当初はそこのケーソン護岸と中仕切り岸壁で、特に深い海底に強く締め固めた砂杭を打込むサンド-コンパクション-パイル(SCP)工法の砂杭を3.8万本打込むとしたが、ケーソン護岸のみとするサンドドレーン(SD=砂柱)工法の砂柱も以前の計画より減らし3.1万本としている。

 工事は変更続き。工法も砂柱の本数も砂などの材料も、採取地もはっきりしない。砂杭の長さ(深さ)も世界最長という。軟弱地盤改良は「可能」のように言っているが、仮にそうだとしても、砂の確保はどうするのか? 難問が残っている。

*瀬戸内海は採取を全面禁止

 砂には陸・山・河・海の砂があり、陸砂と山砂が東日本で多い。川砂はダムの増加で減少。河床を痛めるため、最近は採取禁止だ。

 西日本は海砂が圧倒的に多い。だが、兵庫県が漁業への影響を考えて、1961年から事実上禁止に。瀬戸内海全域で海砂採取の制限・禁止が始まったのは1966年から。山口県でも禁止し、響灘(日本海側の南部)海域だけ採取を許可。福岡・大分県も沿岸漁業への影響から周防灘(瀬戸内海の西部)で採取を禁止に。徳島県でも1978年から採取を禁止した(大阪府・和歌山県の採取はない)。こうして80年代、海砂は主に広島・岡山・香川・愛媛県の海域から採取されるようになる。

 かつて瀬戸内海は水深10m強まで太陽光が届き、藻が繁茂し、イカナゴなどの小魚や小動物が棲息していた。だが、海砂採取で透明度が落ち太陽光が届かなくなる。また、幾つかの海底には50~70mの窪地ができていた。

 瀬戸内海の漁獲高のピークは1985年ごろ。2000年ごろにはすでに、その半分前後に激減。その後は回復せず、さらに減少。海砂採取がその原因の一つであることは否定できない。

 90年代に、広島県竹原市の宅地陥没で業者の違法採取や脱税が判明。県は98年に全面禁止に。岡山県もそれを受け2003年に、05年に香川県も、06年に愛媛県も海砂採取の全面禁止、瀬戸内海全域で禁止となった。

*沖縄県の海砂採取規制は甘い

 大浦湾の地盤改良工事に必要な砂は当初計画で650万m3。これは沖縄県全体の年間海砂採取量の約3~5年分に相当。環境への影響は計り知れない。

 沖縄県の国頭村安波沖や嘉陽沖周辺などは藻場が広がり、日本では絶滅の危機のジュゴンや魚類が多く生息している。海砂採取は魚の産卵・成育の場を奪う。19年3月、今帰仁村の海岸にジュゴンの死骸が漂着した。死の要因はいろいろ複合的だが、土砂採取による赤土流出もあるが、海砂採取も否定できない。 

 沖縄県は海砂採取禁止条例がなく「要綱」があるだけ。それは、海岸線から1km以上離れ、水深15m以上の海域で、一回の申請m3あたりの採取面積は30万㎡以内、採取量は60万m3以下としている。

 しかし、年間の採取総量の規制はない。採取量が業者任せの自主報告で、県の確認がない。採取場所の確認もない。長崎県のようなGPS装備の船による監視はない。また、県は採取の深さを「平均2m」「部分的な深堀は50%程度」としているが、このチェックもない。 沖縄県の海砂採取規制は他県と比べて甘く、将来への影響が不安だ。

Ⅱ.遺骨土砂も…嘘で固め何でもあり

*生物多様性戦略の保護区

 今、地球は気候変動の枠組も崩れている。人類は20世紀末この危機にようやく気付き、地球温暖化防止対策で、1985年のオゾン層の保護のウィーン条約、87年のモントリオール議定書の国際会議を開き、92年、リオデジャネイロでの「地球サミット」の宣言では「具体的な環境への影響や人の健康被害の発生がなくても、因果関係が証明できなくても、予防的に規制する」という「予防的措置」を確認した。

 そして2010年、日本が議長国として名古屋で「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」を開催。日本政府は率先して「海域の10%を海洋保護区」とする「愛知目標」を決議。「国家戦略」として、海洋保護区321か所を閣議決定し、世界の注目を浴びた筈(はず)。その保護区には、辺野古はもとより沖縄の海、瀬戸内や九州の海も含まれている。辺野古新基地の埋立て予定160haの海は、政府の調査でも5806種の生物が棲み、ジュゴン、サンゴ、ウミガメなど262種が絶滅危惧種という。国頭村安波沖や嘉陽沖周辺などは藻場が広がる海だ。

 海砂採取は生物を死滅させる。海砂を採った海底の窪地に貧酸素水塊が溜まれば、そこは魚が棲めない。環境破壊は計り知れない。

防衛省は砂の代わりに、発泡スチロールや毒性疑問がある鉄鋼スラグなどの使用も検討している。

*嘘で固めた後出しジャンケン

 防衛省は「6万群体近くのサンゴ移植完了」と発表したが、移植で再生するサンゴは僅かだ。埋立てによるサンゴへの影響は計り知れない。

 辺野古で政府=沖縄防衛局の説明はよく変わる。昨年末、工事は2022年から2030年に伸び、費用は2310億円から9300億円に拡大。さらに、埋立て土砂や砂の全てを沖縄県内から調達すると言う。政府は計画を小出しにして安心させ、後で大幅変更する。そもそも「嘘」も多い。

 辺野古基地は「普天間飛行場返還の代替だ」と言う。まず、これが嘘! 辺野古は滑走路が1本増え、大型ヘリ空母の岸壁、弾薬搭載場等が加わった軍港機能を備える巨大な「新基地」だ。最初、環境への影響は少ないと、小規模のように言い、後で大幅に変更する。

 沖縄県民は新たな基地負担の増大に対し、知事選や県民投票で「辺野古反対」の民意を何度も示してきた。沖縄県も工事の環境破壊や県民へのマイナス要因を指摘し、「不承認」とした。だが、政府・防衛省は「国の事業を国が承認する」という前代未聞の「代執行」という手を使い、知事権限をはく奪し最高裁にも認めさせ、異例づくめで埋立て工事を強行している。

*南部の沖縄戦の遺骨を含む土砂で埋立て

 非常識の最たるものが、大浦湾の深場の海の埋立てで南部糸満市周辺の土砂を使うこと。沖縄戦で激戦地となり、地元住民や日米の兵士らが数多く犠牲となった地だ。沖縄戦戦没者遺骨を含み、「多くの人の血を吸い込んだ土砂」だ。この遺骨土砂は辺野古だけではない。米軍那覇港湾施設移転で約49haの埋立て計画がある浦添市でも予定されている。「埋立てに使うべきではない」との意見書決議が229府県市区町村から出ている(25年3月末現在)。防衛省の担当者は「土砂の調達先は決まっていない」と従来通りの回答を繰り返すだけだ。

 この非常識さ「冒涜(ぼうとく)」は、政府・一部警察官の行為に示されている。沖縄戦慰霊の6月23日、糸満市の平和祈念公園の戦没者の氏名が刻まれた「平和の礎(いしじ)」周辺で大勢の警察官があの乱闘靴で歩き回り、慰霊の線香まで手に取って調べたニュースが放映された。その行為に怒りを感じた人は多い。

*新基地関連工事と抗議行動

 今、現地で進めているのは、新基地本体の工事ではなく、本来予定になかったような、周辺の工事だ。

 キャンプシュワブ新工事用ゲート 辺野古弾薬庫の手前の新工事用ゲート。土砂等を積載した大型ダンプによる車両搬入を、反対する市民が座込み抗議で、平日の9時、正午、15時の3回に限定させている。

 安和桟橋 2024年6月のダンプによる死傷事故の原因究明がないまま8月22日から土砂搬出を再開。沖縄防衛局は事業者責任を無視し、警備員を使って歩道を封鎖して市民の行動を規制。事故の責任も市民に押し付けている。

 本部 塩川港 2024年12月2日から、安和の事故以降中断している土砂搬出作業再開。牛歩による抗議行動が続く。

 うるま市 宮城島 2024年11月、うるま市の宮城島から辺野古に向けて土砂搬出が始まった。うるま市民が中心となり鉱山ゲート前で連日抗議行動を展開。農道のダンプ台数1日40台規制を無視し、連日150台を超えるダンプが運行。3月からは設計変更申請と異なる短縮運行ルートを使用。県は運行停止と設計変更申請の再提出を求めているが、防衛局はこれを無視している。

Ⅲ.奄美からの土砂調達に反対を

*奄美大島の環境破壊が進んでいる

 埋立て土砂の沖縄県外の搬出地は、当初の計画では、山口・香川の瀬戸内海の島々、福岡県門司、長崎県五島、熊本県天草、鹿児島県大隅なども含まれていたが、今は奄美大島から、沖縄県内からの調達が計画されている。

 県外の土砂特定外来生物のオオキンケイギクやアルゼンチンアリ、ヒアリ、セアカゴケグモなどの侵入が懸念される。それは奄美の土砂も同様だが、那覇空港の第二滑走路、那覇軍港設備の埋立てなどで埋立てを行なって来て、今後もその可能性は大きい。

 奄美大島と徳之島の地層の大部分は古生層の花崗岩が含まれ、沖永良部島・与論島・喜界島のような珊瑚礁の島とは違い、石材の産地だ。島の国道58号線などの幹線道路を走って、山肌をちょっと注意して見ると、至る所に採石場があり、石材を採った残りの砂利と土の「岩ずり」が仮置き場で野積み(放置)されている。

 島の海沿いの集落には船溜まりが作られ、護岸堤も伸びている。奄美群島が1953年の日本復帰後、集落前の砂浜には波返し型の護岸堤が設置されたが、浜砂が波にさらわれ浜全体が細くなり、挙句の果ては離岸堤までが設置されている。河川や道路工事の赤土流出で美しい珊瑚礁のリーフが姿を消した所もあった。

 奄美大島では辺野古基地建設工事を請け負う大成建設が指定業者や孫請けの業者を使って、各地に「産廃」として仮置きしている「岩ずり」を集め、それをまとめて辺野古へ運ぶ計画だ。岩ずりは島の至る所に放置され、いつ土砂崩れで被害が出ても不思議でない状態だ。

 土砂の採掘や搬出は補助金付きの道路拡張整備事業、護岸堤延長、漁港整備、さらには自衛隊基地建設などと共に行なわれている。それらは多大な自然破壊だ。多くの島民、特に国立公園や世界自然遺産で観光や地場産業に関係する住民、農林漁業者らとは利害が反する敵対行為ではあるが、現地ではそれが明確に確認されてはいない。

*大島からの調達の問題点と署名運動

 奄美大島からの石材や土砂の調達には、次の問題がある。第1に、奄美大島住民の生活・自然環境が破壊されること。奄美市住(すみ)用(よう)町の戸(と)玉(だま)・市(いち)集落では40年近く、土砂・石材搬出作業に伴う粉じん、騒音、振動や赤土流出による海の汚濁等の被害に悩まされてきた。2004年には採石場の山肌に亀裂が入り、周辺住民に3か月間の避難勧告が出たこともある。

 第2に、特定外来生物が沖縄に持ち込まれること。2016年、那覇空港の滑走路増設のための埋立てで、奄美大島からの石材調達に際し、沖縄県の土砂条例が初めて適用された。条例に基づき、県が現地に立入調査をしたところ、全ての採石場と搬出港で、ハイイロゴケグモやオオキンケイギク等の特定外来生物が確認された。県は石材に120秒間の高圧洗浄等を指示。しかし、特定外来生物は繁殖力が強く、完全に取り除くことは不可能。持ち込まれれば、沖縄の生態系の破壊につながる。

 第3に、変更承認申請を行なっていないこと。23年12月、国が代執行で承認した変更承認申請書では「石材は沖縄県内で確保できる」と記載されている。沖縄防衛局は県の質問に「石材については県外からの調達は考えていない」と回答。しかし最近「奄美から調達」を言い始めた。この変更は沖縄県知事の承認を得なければならないが、その申請は行なっていない。

 今、世界自然遺産の奄美大島から埋立て土砂を調達する具体的な作業に入っている沖縄防衛局に対し、環瀬戸内海会議などで構成する土砂全協は、奄美大島からの辺野古埋立て用材調達の断念と、辺野古・大浦湾の埋立て中止を求める署名運動を展開している。


JAWAN通信 No.152  2025年8月20日発行から転載